ロシアの暗殺者やギャングが巣食う国際金融都市・ロンドンの闇…19歳の青年はなぜ高級マンションから飛び降り死亡したのか?(Wedge(ウェッジ))
■今回の一冊■ LONDON FALLING 筆者 Patrick Radden Keefe 出版 Doubleday 【画像】ロシアの暗殺者やギャングが巣食う国際金融都市・ロンドンの闇…19歳の青年はなぜ高級マンションから飛び降り死亡したのか? 2019年11月29日午前2時23分、英国ロンドンのテムズ川沿いにたつ高級マンション5階のベランダから、19歳の青年が飛び降り死亡した。テムズ川をはさんだ反対岸には、映画「007」シリーズにも登場するMI6(秘密情報部)の本部ビルがあった。 MI6の監視カメラが、青年が川に身を投げる瞬間をとらえていた。残された映像から、青年が自らベランダから飛び降りたのは明らかだった。 しかし、米国の著名ジャーナリストが真相を追うにつれ、ロシアからきた暗殺者やギャングたちが野放しになっている、国際金融都市ロンドンの暗部が明らかになる。
ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー週間ランキングで、単行本ノンフィクション部門の第1位で4月末に初登場した。5月17日付の最新ランキングでも5位につけ4週続けてトップ5に入っている。 書名のLondon Fallingは、ロンドンという都市の「没落・腐敗」と、青年の「転落死」というfallingのふたつの意味を込める。本書が浮き彫りにするロンドンの本当の姿は次の一説に凝縮されている。 London is such a beautiful place that it can be easy, as you stroll around the city, to forget that much of it was built on imperial plunder. London is the capital of pristine facades, often painted in wedding-cake shades of cream or ivory; the city’s dominant aesthetic is a literal whitewash. To launder something—whether it is cash or a reputation—is to mingle the dirty with the clean, and one consequence of London’s new identity as a twenty-four-hour laundromat for dirty money is that the city is full of crooks with pretensions to legitimacy and businessmen who seem a little crooked. 「ロンドンはとても上品で美しい都市だけに、街中を歩き回っていると、大英帝国時代の悪行によってなりたっていることを忘れがちだ。ロンドンといえば真っ白な外壁の建物が並ぶ街並みだ。そのほとんどが、ウエディングケーキのようなクリーム色か象牙のような白色だ。ロンドンのいたるところで目につく景観の美学とは文字通りうわべだけを取り繕う純白だ。なにかをきれいにするということは、お金であれ世評であれ、汚れたものをクリーンなものと一緒に混ぜ合わせることにほかならない。ロンドンが24時間営業のマネーロンダリング(不正資金洗浄)サービスという地位を新たに築いた結果、もっともらしく振る舞うペテン師と、ちょっと怪しげなビジネスマンたちが、この都市にあふれている」 変死の舞台となった高級マンションの立地がまず普通ではない。バッキンガム宮殿やビッグベンまで歩いて20分というロンドンの一等地にある。
Page 2
身を投げた青年はこのマンションの住民ではなく、知人の部屋に泊めてもらっていた。本書の調べによれば、その知人というのが実は、筋金入りのギャングだった。おまけに、このギャング自身は無料で部屋を借りているだけで、本当の所有者はサウジアラビアの王族だという。さらに、青年が変死した当日、この部屋には直前まで、ウガンダからの移民2世の怪しい富豪も一緒にいた。 変死した青年は、ユダヤ系イギリス人の両親を持ち、そこそこ裕福な家庭に育った。それがなぜ、こんなことになったのか? 変死する直前まで一緒にいた男たちから話を聞いた両親は、自分の息子が驚くべき二重生活を送っていたことを知る。本名はZac Brettlerなのに、青年はZac Ismailovとロシア系の名前を名乗り、自分はカザフスタンの大富豪(オリガルヒ)の息子だと称していた。 一筋縄ではいかない裏社会の男たちが、青年の嘘になぜ簡単に騙されたのか? 英国プレミアリーグのチェルシーFCのオーナーだったロシアの富豪ロマン・アブラモビッチの側近からの紹介だったので信じた。青年は時たま、片言のロシア語を話しロシア系にみえた。などと、Zacを知る男たちは両親に説明したのだ。 両親たちは当惑する。息子はロンドンのプライベートスクールに通うちに、世界から集まる富豪の子弟たちと接しお金持ちになることに憧れ、身分を偽って危ない男たちとつきあっていた。 息子がテムズ川に飛び降りたのも自殺ではない。嘘に気づいた男たちが息子を脅し、身の危険を感じた息子は逃げるためにベランダから飛び降りたのではないか。 両親は死の直前まで一緒にいた男の刑事責任を問うべきではないかと考える。しかし、警察は事件性を追及するのに及び腰だった。 息子の変死から1年後には、その男も薬物の過剰摂取で変死する。本書の調べでは、その男は警察が利用していた情報屋だった可能性がある。