なんと、見る山で「結論が90度変わってしまう」…この地球の「凸凹に挑んだ」成因説の価値。じつは「中身以上に画期的」だった
アメリカで生まれた、垂直方向の変動によって山脈ができるとするこの地向斜造山運動論は、ジュースがアルプスを見て着想した、山脈は水平方向の収縮でできるとする地球収縮説と真っ向から対立するものでした。
両者の論争は、やがて地球は冷えていないので収縮しないことがわかって地球収縮説が否定され、幕を閉じます。その後は地向斜造山運動論こそが山の成因を説明できる理論であるとする時代が長きにわたって続きました。
のちの1910年代に、一人のドイツ人が革命的な新説を打ち立ててからも、半世紀近くもその地位は揺るぎませんでした。日本でも1970年代になってもこの考えを引きずっている研究者がいたのを覚えています。
今回の記事では 、誕生まもない頃の近代地質学が山の成因についてどう考えたか、2つの説を紹介しました。
非常に面白いのは、地球の水平方向の運動によって山ができるとする考えがヨーロッパから、そして鉛直方向の運動によってできるとする考えがアメリカから生まれたことです。ジュースはアルプス山脈の褶曲構造を見て、地球収縮説を提唱しました。そしてホールはアパラチア山脈の地層や堆積物を見て、地向斜造山運動を発想しました。
褶曲面 photo by gettyimagesつまり、どの山を見るかによって、水平か鉛直か、結論は90度変わってしまうのです。このことは、山を考えるうえで偏りなくさまざまな山を「見る」ことがいかに重要かを物語っています。
いや、イギリス人のダーウィンが地質学に目覚め、南米の地形や自然に触発されて進化論を生んだ( 前回の記事を参照 )ように、あらゆる自然科学は現象を「見る」ことから理解が始まる、といえるでしょう。
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