人間の指は想像以上に速い、コンピューターが操作の遅れをなくすまで

ソフトウェア

デザイナー兼ライターのマーチン・ヴィハリー氏が、「指がどれほど驚異的な能力を持っているか」、そして「ソフトウェアがその能力にどう応えるべきか」について、タイピングやコンピューターの歴史をたどりながらインタラクティブなデモとともに解説しています。

Show your hands honor for the strange power they bring you – Aresluna

https://aresluna.org/show-your-hands-honor/ タイプライターが開発された当時、毎分40語が人がタイプできる速度の限界と考えられていましたが、実際のタイピストは毎分70語以上を記録していたとのこと。これはある指がキーを押している最中に別の指がすでに次のキーへ移動を始めるオーバーラッピングと呼ばれる現象によるものでした。

1960年代のコンピューター端末ではユーザーが大型コンピューターに直接キーボードを接続していたのではなく、低速なモデムで接続された端末から操作しており、キー入力が大型コンピューターまで送られ、確認のエコーが返ってきて初めて画面表示や印字が行われていました。そのため、入力がコンピューターに届いて確認が返るまで画面に表示されず、強い遅延と不快感が生じていました。そこで、次の入力を受け付けられるよう、入力を一時的にためるバッファが導入され、さらにコンピューター側の確認を待たずに画面上へ即座に文字を表示するローカルエコーという仕組みが生まれました。

その後、コンピューターに直接キーボードをつなげるようになったため、以前の遅延問題は解決したものの、小さいコンピューターは非力で重い処理がUIの操作をブロックし始めたため、画面上のボタン操作で新たに遅延問題が生じました。これを解消するためフロントエンドとバックエンドで処理を分ける仕組みが考案されましたが、キーを押し続けて対象を動かす操作の際に実際の反応がバッファにたまった分だけ遅れて処理される「オーバーシュート」という新たな問題も残りました。

現代ではハードウェアやソフトウェアの進歩によって、端末自体は十分に高速になりましたが、インターネットの介在によって再び遅延問題が生じています。ここで重要になるのがデバウンス処理です。 デバウンス処理とは短時間に連続して発生する小さなイベントをまとめて扱い、余計な処理を減らす仕組みのことです。例えばキー入力のたびに検索リクエストを送ると、サーバーへの負荷がかかり、古い入力に対する結果が遅れて届き、表示が乱れてしまいます。そこで入力後100ミリ秒ほど待ち、その間に次の入力がなければ初めてリクエストを送るという形にすることで、快適な検索体験が実現されます。「Good searchas-you-type」のデモでは、この待機時間を調整しながら結果が正しく整った形で返ってくる様子を確認できます。

同様の考え方は、1980年代に日本で開発された親指シフトキーボードの入力処理にも見られます。親指で押すシフトキーと文字キーは、ほぼ同時に押されるため、コンピューター側にはどちらの入力が先に届くか分かりません。そこでエンジニアは、どちらか一方のキー入力を受け取った時点でわずかに待機し、その間にもう一方の入力が届けば、2つを組み合わせた1つの操作として扱う仕組みを採用しました。これにより、利用者はキーを押す厳密な順序を意識せずに入力できるようになりました。 デバウンス処理の考え方は他の場面にも応用されています。ファイル内を検索し再検索する操作をデモで試すと、検索や画面移動の速度に応じてデバウンスの効き方が変わる様子を確認できます。また、ブラウザがタブを閉じる操作を少し待ってから並べ替える挙動も、同じ発想の延長にあります。

ヴィハリー氏は他にも、CapsLockとShiftの関係、運動記憶とパスワードの体験談、アンドゥ機能やEscキーの役割、iPhoneの慣性スクロールの完成度、そしてGmailのホバーカードに見られる操作上の不満など、指の能力を尊重した設計とそうでない設計の実例を挙げています。そして最終的に「こうした細部の積み重ねこそが、道具を快適に使いこなせるかどうかを左右する」という結論に至り、指が持つ力に敬意を払うべきだと主張しました。

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