激しさを増す乱気流 世界で特に乱気流の多い路線とは
大気の乱れによって生じる乱気流は、パイロットにとっても予測が困難な現象の一つだ/Illustration by Leah Abucayan/CNN
(CNN) 今年7月、ソルトレークシティー発アムステルダム行きのデルタ航空機が激しく揺れ始めた時、一部の乗客は飛行機が墜落するのではないかと感じた。
同機は、激しい乱気流に巻き込まれた結果、乗客は天井に打ち付けられ、機内サービス用のカートはキャビン内を激しく動き回った。ある乗客は当時の状況について「まるで地震のようだった」と振り返った。同機はミネアポリスへの緊急着陸を余儀なくされ、25人が病院に搬送された。
最近、このような負傷者や入院者、さらには死者まで出る乱気流事故が相次いでいる。昨年もロンドン発シンガポール行きの便が激しい乱気流に見舞われ、同機に乗っていた73歳の男性が心臓発作で死亡した。
大気の乱れによって生じる乱気流は、パイロットにとって予測が最も難しい気象現象の一つだ。
空気の流れは、勢いよく流れる川の水に似ており、妨げられなければスムーズに流れるが、岩などの障害物に当たると乱れが生じる。上空では、山や嵐が川の中の岩のような働きをし、大気の動きに変化をもたらす。
中程度から極度の乱気流は、世界中で年間数万回発生している。乱気流に巻き込まれても、大半の乗客にとってはわずかな揺れにしか感じられないが、深刻なケースでは、機体に構造上の損傷が生じたり、一時的な操縦不能に陥ったり、負傷者が出る場合もある。
幸い、乱気流による死亡事故は極めてまれであり、シートベルトを着用していれば、ほとんどの場合、重傷は防げる。しかし残念なことに、乱気流は増加傾向にあるようだ。特に飛行機の往来が激しい航路の一部でその傾向が顕著で、地球温暖化に伴い、今後状況はさらに悪化すると見られている。
では、乗客が特に激しい揺れに見舞われやすいのはどの航路か。
乱気流予測サイト「ターブリ(Turbli)」は、米国海洋大気局(NOAA)や英国気象庁などのデータを基に、1万件以上の飛行経路を分析し、世界で特に乱気流の多い航路の順位付けを行った。
アルゼンチンのメンドーサとチリの首都サンティアゴを結ぶ約120マイル(約193キロ)の航路は、時に雪を頂く雄大なアンデス山脈を見渡す絶景が楽しめるが、ターブリのデータによると、ここは世界で最も乱気流の多い航路でもある。
山脈は巨大で、動かすことのできない障害物だ。この山脈が大気の流れを変え、数百マイルにわたって伝わる空気の波を発生させる。そしてこの波が崩れると大量の乱気流を発生させる、とターブリの創設者で計算流体力学(CFD)の専門家でもあるイグナシオ・ガジェゴ・マルコス氏は説明する。
世界で特に乱気流が多い航路の上位10路線の大半は、世界最長の陸上山脈であるアンデス山脈やヒマラヤ山脈といった山岳地帯を通る。
米国の最も揺れの激しい航路のランキングは、デンバーやソルトレークシティーを発着し、ロッキー山脈の上空を通る航路が上位を占めている。これは欧州も同じで、ターブリによると、欧州で特に乱気流の多い航路の多くは、アルプス山脈の上空を通る航路だという。
また、山のようなパイロットに注意を促す視覚的手がかりもなく、突然どこからともなく発生する乱気流もある。
これは「晴天乱気流」と呼ばれ、主にジェット気流(航空機が巡航する高層大気を高速で流れる波状の気流)付近の乱気流を指す。この晴天乱気流は、局地的に風向や風速が急激に変化する「ウインドシア」と呼ばれる現象によって引き起こされる。
この種の乱気流は、探知や予測が困難であるため危険だ、と英国気象庁の航空応用科学マネージャー、ピアーズ・ブキャナン氏は指摘する。
またターブリのガジェゴ・マルコス氏によると、宮城県名取市と愛知県常滑市を結ぶ約320マイル(約515キロ)の航路は、この現象の影響によりアジアで最も乱気流が多い航路の一つとなっているという。
ジェット気流の強さは気温差によって生じる。日本では、シベリアからの極寒の空気と太平洋の海流からの暖かい空気がぶつかり合い、年間を通じて非常に強く、比較的安定したジェット気流を生み出している。
同様の現象は米国東海岸でも見られ、メキシコ湾流からの暖かい空気とカナダからの冷たい空気がぶつかり合う。ブキャナン氏によると、北大西洋路線、特に北米と欧州の間はジェット気流が最も強い地域だという。
また最近の研究によると、地球温暖化の進行に伴い、晴天乱気流はさらに激しさを増している。
その仕組みはこうだ。気候変動により上層大気の気温差が拡大し、風速の変動が大きくなる。その結果、航空機が飛行する高度で晴天乱気流が増加するのだ。
そして今後、事態はさらに悪化するとみられる。2017年の研究によると、負傷者が出るほどの強い乱気流は、今世紀末までに世界全体で発生頻度が2~3倍に増えると予想されている。
ただ専門家らは、航空機による移動は依然として最も安全な交通手段だと強調する。ガジェゴ・マルコス氏は、航空機は激しい乱気流にも耐えられるよう特別に設計されているとした上で、負傷を防ぐ最も確実な方法はシートベルトを締めることだと述べた。