マスク氏への反発新たな段階、テスラ離れに拍車-物議醸す政治姿勢
米テスラのカリフォルニア州工場から数分の場所に住む車好きのタエ・ヘルトンさんは自家用車としてテスラ車を1台購入し、昨年はもう1台購入する寸前までいった。
ヘルトンさん(49)は今、この電気自動車(EV)ブランドとは一切関わりたくないと思っている。テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏が今年1月20日のトランプ大統領就任イベントでナチス式敬礼に似たジェスチャーをしたためだ。
「この車を運転することへの誇りと良い気分は消え去ってしまった」とまだ2500マイル(約4000キロメートル)ほどしか運転していないテスラのセダン「モデル3」についてそう語る。政治的には穏健派のヘルトンさんは自動車ローンを早期に完済し、年内に下取りに出すつもりだ。
こうした考えを持つテスラの顧客や消費者はヘルトンさんだけではない。1月の欧州市場で、テスラの販売台数は前年同月比45%減となった。2024年の年間販売台数は過去10年余りで初の減少に転じていた。
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テスラは、マスク氏が同社の掲げる使命や価値観に反するような形で政治に関与している地域で、特に苦境に立たされる兆候がある。
テスラ車販売は昨年、カリフォルニア州で12%減少した。同州は、テスラが創業期の混乱を乗り越え、世界トップクラスの時価総額を誇る企業となる上で重要な役割を果たした。マスク氏は、同州のトップである民主党のニューサム知事を攻撃している。
ドイツでは昨年の41%減に続き、今年1月もテスラ車販売が59%急減。マスク氏は二酸化炭素(CO2)排出の害を否定するドイツの極右政党を強く支持している。
また、現時点で欧州最大のEV市場となっている英国では、マスク氏はCO2排出を事実上ゼロにする目標の撤回を望む政治家たちと手を組み、EV普及を目的とした政策を「ドライバーに対する戦争」と非難した。
デンマークのサクソ銀行で投資戦略グローバル責任者を務めるヤコブ・ファルケンクローネ氏は「テスラ最大の課題は今年、技術ではなく認識」だと言う。「マスク氏の政治的な経歴が今や販売とブランドロイヤルティー、投資家の信頼に重くのしかかっている」と指摘した。
Survey found negative response to billionaire’s political interventions
Source: YouGov
マスク氏の波紋を呼ぶ行動や、顧客の多くが同氏に愛想を尽かしている兆候は目新しいものではない。
ブルームバーグ・ニュースは23年、テスラ車オーナー5000人以上を対象に調査を実施したが、マスク氏に対するセンチメント悪化が際立っていた。しかし、同氏に対する反発は今年に入り新たなレベルに達した。
「危険な人物」
ベルリン郊外にあるテスラの工場では、活動家らがマスク氏の物議を醸したジェスチャーの映像を建物の外壁に映し出した。SNS「X(旧ツイッター)」上でその映像を何百万人もの人々が閲覧した。
オランダのほか、米国ではコロラド州とオレゴン州、ワシントン州でテスラのショールームが破壊された。週末には全米各地にある同社の店舗で抗議活動が行われた。
カリフォルニア州バークリー在住のトム・プライスさんは「これほど短期間にこれほどまでにブランド価値が損なわれたことはかつてあっただろうか」と語る。
プライスさんは「運転するな、DOGE」というプラカードを持って、バークリーでのデモに参加。「テスラはわれわれの民主主義を犠牲にする四輪の広告塔と化している」と主張した。
トランプ政権入りしたマスク氏はDOGE、つまり、大規模な連邦職員削減を進める「政府効率化省」を主導。ただ、ホワイトハウスはDOGEの責任者を務めているのはマスク氏ではなくエイミー・グリーソン氏というあまり知られていない高官だと説明している。
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英国とドイツ、スウェーデンでのマスク氏の評判は良くない。スウェーデンでの調査ではテスラに対する否定的な見方が強まっていることが分かっている。
スウェーデンでは1月、スポーツタイプ多目的車(SUV)「モデルY」の登録台数が48%減り、モデル3の販売台数も31%落ち込んだ。
マスク氏を良く思っていない米国人が多数派であることがピュー・リサーチ・センターの調査が示している。クイニピアック大学の調査では、有権者の大半がマスク氏は米国に影響を与える決定を行う権限を持ち過ぎていると考えていることが判明した。
マスク氏は最近、FOXニュースのインタビューにトランプ大統領と共に応じた際、「私はかつて左派から愛されていた」が「最近はそうでもない」と述べた。
米国でのEV普及を超党派で取り組むよう提唱する共和党のストラテジストによると、今ではEVオーナーよりガソリン車ユーザーの方がマスク氏をより好意的に見ている。
テスラが21年後半に本社を移したテキサス州の州都オースティンで大学教授として働くマイカ・バーバーさん(43)は現在、ガソリン車のSUV「シボレー・エクイノックス」を運転しており、次の自家用車はEVにする予定だ。
バーバーさんはテスラが自動車業界にもたらした革新性を高く評価する一方で、マスク氏の会社だという理由でテスラ車を購入するつもりはない。
Tesla CEO rates higher with gas-car drivers than with EV owners
Source: EV Politics Project
バーバーさんはオースティンにあるテスラのショールームで2月に行われた抗議活動で、マスク氏は「わが国で最も危険な人物の一人となった」と語った。
テスラがシェアを奪われたブランドは、市場によって異なる。カリフォルニア州では昨年、ホンダと韓国の現代自動車がEV市場で大きくシェアを伸ばした。ドイツでは今年1月にフォルクスワーゲンの傘下ブランドやBMWの販売台数が急増した。
Carmaker likely lost its majority share of market last year
Source: BloombergNEF, MarkLines
原題:Elon Musk’s Many Detractors Are Taking Their Anger Out on Tesla(抜粋)