日本国債売りに賭けるファンド好調-長年の敗者取引が勝者に

世界の債券ファンドは数十年にわたり、日本で「ウィドウメーカー(寡婦製造機)」として知られる取引に魅了され、そして繰り返し痛手を被ってきた。

  取引の仕組みは単純だ。日本国債を借りて売り、価格下落後に買い戻してその差額を利益とする。

  しかしこの戦略は、日本で長年続いた超金融緩和の下で債券投資家に損失をもたらし続けた。だが今では、世界の債券市場で最も利益を生む取引の一つとなっている。

  ブルームバーグの試算によると、為替変動を除いたトータルリターンベースで、日本国債は今年に入り4%余り下落しており、世界の国債市場で断トツの下落率となっている。

  ジュピター・アセット・マネジメントのファンドマネジャー、マーク・ナッシュ氏は国債空売りについて「米国債や英国債のことは忘れた方がいい。最もシンプルで有効な取引は日本国債を売ることだ」と述べ、「ウィドウメーカー取引は他市場と比べて特に収益性が高い」と語った。

  日本の30年国債利回りは今月、過去最高を更新した。10年債先物に連動するS&Pの指数は今年に入り約2%下落。ゴールドマン・サックス・グループが日本について、世界の債券市場における「弱気ショックの純輸出国」と表現するほど売り圧力が強まっている。

  この取引を支える要因はいくつかある。日本の基調的なインフレ率は過去3年のほとんどで日本銀行の目標である2%を上回っているが、金利水準は依然として世界的に見て極めて低い。さらに、世界的に政府財政への懸念が広がっている。

  運用資産2300億ドル(約34兆7000億円)超を擁するウエスタン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、木村浩幸氏によると、同社は長期にわたり日本の債券市場でショート・デュレーションの戦略を取っており、今後もそれを維持する方針だ。主に5年国債の大規模なショートポジションを通じて取引を行っているという。

  RBCブルーベイ・アセット・マネジメントは、以前に国債強気派と相反する立場を取りウィドウメーカー取引を行ってきたが、最近では日本の10年国債価格の下落に賭けている。マーク・ダウディング債券最高投資責任者(CIO)が10日のリポートで明らかにした。

  もっとも、この取引にはリスクもある。年度末に向け国内の生命保険会社が再び買いに回り、需要が増える可能性もある。財政の改善で政府が来年度の国債発行をある程度減らす余地もある。米国の利下げが日本国債の支えとなる可能性もある。

  それでも今のところ、多くの債券ファンドは日本の「ウィドウメーカー」取引が引き続き利益を生むとの確信を強めている。

政治要因

  トレーダーにとっての焦点は、次期首相が日本国債市場にどのような影響を及ぼすかだ。

  21日に国会での投票を経て首相に指名された高市早苗氏は、積極財政や給付付き税額控除などを公約に掲げており、トレーダーの間では、高市首相が誕生すれば日銀の利上げ先送りにつながるとの見方もある。財政の大盤振る舞いのツケを将来世代が支払うことになるとの警戒感が根強く、最終的には長期債が売り圧力にさらされるとの懸念もある。

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  21日の取引で5年物日本国債利回りは2ベーシスポイント(bp)低下し、1.22%となった。日本銀行の当局者は10月会合で利上げを急ぐ必要はないとみているとブルームバーグが報じた。

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  オールスプリング・グローバル・インベストメンツUKのシニアポートフォリオマネジャー、ローレン・ヴァン・ビリョン氏は「規模は不明ながら、財政刺激策を巡って何らかの合意が成立するとみている」と述べ、「日本では長期債に関して慎重であるべきだということが示唆される。イールドカーブは既に急だが、さらにスティープ化する可能性もある」と語った。

  一方で、楽観的な見方もある。チャールズ・シュワブのチーフ債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏は、日本国債の利回りは為替ヘッジ後のベースで魅力的であり、多くの海外投資家にとって投資妙味があると述べた。

  選挙前の段階で日本の財政状況は改善傾向を示しており、国債の見通しを支える要因になっているとも指摘した。

  ただ、数字は厳しい。日本の政府債務残高の国内総生産(GDP)比は先進国の中でも突出して高い。

  利回りが数年来の高水準にとどまる中、入札への市場の注視が続いている。円も、日銀による追加利上げの可能性があるにもかかわらず、G10通貨の中では過去半年間の対ドルのパフォーマンスで最下位となっている。

  金融サービス会社イーブリーの市場戦略責任者、マシュー・ライアン氏は日本国債売りについて「高市氏の総裁選勝利を受け、年内残りの期間はこの流れが続く以外のことを想定しにくい」と述べた。

原題:‘Widow-Maker’ Trade Becomes World Beater as Japan Bonds Sink (1)(抜粋)

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