パーキンソン病の意外な原因か、解明への新たな手がかりを発見

ヒトペギウイルスのCG画像。科学者らは、このRNA(リボ核酸)ウイルスとパーキンソン病との間に関連があるのではないかと考えている。(ILLUSTRATION BY KATERYNA KON, SCIENCE PHOTO LIBRARY)

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 パーキンソン病は遺伝と環境の両要因が複雑に絡み合って発症すると考えられているが、根本の原因はまだ特定されていない。しかし、2025年7月8日付けで医学誌「JCI Insight」に掲載された研究によると、「ヒトペギウイルス(HPgV)」と呼ばれる一般的なウイルスが、死亡したパーキンソン患者の脳内から見つかったという。HPgVに感染しても通常は症状が出ないと考えられてきたが、研究者らは、このウイルスがパーキンソン病の発症に関与しているのではないかと考えている。

「長期にわたってくすぶるように感染が続く」ことが、パーキンソン病などの神経変性疾患につながるのではないかと、米ノースウェスタン大学ファインバーグ医学部の研究者で、同論文の筆頭著者であるバーバラ・ハンソン氏は述べている。

 パーキンソン病にかかっている人は世界で1000万人以上にのぼる。進行性の神経変性疾患であり、震え、動作の緩慢さ、手足のこわばり、バランス障害などの症状を引き起こす。現在も治療法はごく限られたものしか存在しない。

 今回の研究は、パーキンソン病の原因解明に一歩近づくものだ。(参考記事:「コロナで知られた「脳の霧」とは一体何なのか、解明へ突破口開く」

65歳のパーキンソン病患者の脳をMRIでスキャンした着色画像。新たな研究は、ウイルス感染がこの病気の発症に関連がある可能性を示唆している。(PHOTOGRAPH BY ZEPHYR/SCIENCE PHOTO LIBRARY)

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ウイルスと遺伝子の影響が見えてきた

 この研究では、死亡したパーキンソン病患者10人の脳を用いて500種以上のウイルスをスクリーニングし、年齢と性別が一致する対照(パーキンソン病でない)患者14人の脳と比較している。パーキンソン病患者のうち5人の脳からはHPgVが見つかったが、対照患者からは見つからなかった。

 研究者らは追加の調査として、パーキンソン病の進行段階がさまざまに異なる患者の血液サンプルを調べた。すると、パーキンソン病を患い、かつHPgVウイルス陽性だった患者たちは、免疫反応に似通った点があることがわかった。

 たとえば彼らは皆、インターロイキン4(IL-4)と呼ばれる炎症性タンパク質の血中濃度が低かった。IL-4は、状況に応じて炎症の促進にも抑制にも関わる物質だ。

 また、パーキンソン病に関わる特定の遺伝子変異を持つ患者は、そうした変異を持たない患者と比べて、HPgVに対する免疫反応が異なることも明らかになった。

「この研究は非常に綿密に行われています」と、米スタンフォード大学の神経科医で研究者のマーガレット・フェリス氏は言う。今回の発見に氏は関わっていないが、遺伝と環境がどのように発症に影響し合っているのかを解明する手がかりになるのではないかと述べている。(参考記事:「コロナやインフルでがん再発の恐れ、マウスで判明、ヒトでも関連」

なぜパーキンソン病の研究は困難なのか

 パーキンソン病患者の脳内からHPgVから見つかったことは、この病気とウイルスとの関連を示唆してはいるものの、病気の原因を完全に解明するには、より複雑な答えが必要だ。

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