金星の奇妙な巨大火山「パンケーキドーム」をつくるレシピはこれだ
パンケーキなのか? ホットケーキなのか? たぶん気にするところはそこじゃない。
金星には、太陽系の中でもひときわ不思議な火山があります。巨大な平たいドーム状で、なんだか灼熱(しゃくねつ)の表面に置かれたパンケーキが冷めて固まったようにも見えます。
科学者はこれまでこうした「パンケーキドーム」は、粘性が高くて流れが遅い溶岩から形成されたと考えてきました。
しかし、新たな研究によると、金星のしなやかで曲がりやすい地殻が、パンケーキドームの形成に重要な役割を果たしている可能性があるとのことです。
不思議な形の巨大火山、金星のパンケーキドーム
6月初めに学術誌『Journal of Geophysical Research: Planets』で発表された研究結果では、直径約145kmに及ぶ特に巨大なドームである「Narina Tholus(ナリーナ・ソラス)」に焦点を当てています。
富士山の裾野の広さが約40kmなので、かなり大きいですね。
研究チームは、1990年代にNASA(アメリカ航空宇宙局)のマゼラン探査機が収集した古いレーダー情報を使って、Narina Tholusの仮想モデルを構築しました。そしてどのような溶岩と地殻が、この不思議な「地質学的パンケーキ」を形成するかを検証しました。
溶岩だけでは説明できない形状
その結果、溶岩だけではドームの奇妙な形を説明できないことがわかりました。研究チームは、以下のように説明しています。
「私たちのモデルは、地殻のたわみがドームの形状に影響を与えることを示しています。
たわみが大きくなると、ドームの頂上はより平らになり、側面はより急な傾斜になるのです」
金星の地殻は、まるで肉厚な生き物の皮膚のように、溶岩の重みでへこんだり変形したりする性質があるのだそうです。
研究チームが柔軟で曲がりやすい岩石圏の上を溶岩が流れる様子をシミュレーションしてみたところ、溶岩はどんどん広がるのではなく、積み重なっていき、平らな頂上と急な斜面を持つパンケーキドームそっくりの形状になったそう。
そして重要なのは、このモデルが過去の研究においてドーム周辺で観測された地殻の隆起まで再現できたことだといいます。
パンケーキドームの溶岩レシピ
ただし、どんな溶岩でもパンケーキドームを作れるわけではありません。Live Scienceが報じたところによると、水の密度の2倍以上で、ケチャップより1兆倍以上も粘性の高い超高密度の溶岩だけが、ドームの形状と周囲の変形を再現したといいます。
研究チームは、溶岩が完全に固まってこのパンケーキドームを形成するには、地球の年換算で数十万年の時間を要すると考えているとのこと。
とはいえ、今回のモデルはあくまでも1つのドームに基づいているので、まだ決定的なものではないそうです。しかし、今後NASAのVERITAS(ヴェリタス)やDAVINCI(ダヴィンチ)といった探査ミッションによって、金星にある数千もの火山のより正確な地形データが得られれば、この理論をさらに検証できるようになると思われます。
金星にある火山の地形をより深く理解することで、湿潤で緑豊かな生命に満ちた星になった地球とは異なる進化をたどり、ときに地球にとって「邪悪な双子の片割れ」とも呼ばれる地獄のような惑星の形成について、さらに多くの知見がもたらされるかもしれません。
Reference: 国土交通省