【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】G2P-Japanアメリカツアー2024~ハミルトン、ダーラム、チャペルヒル(1)|au Webポータル

モンタナ州・ハミルトンの大自然(泊まったホテルのバックヤード)。たまにはこうやって、自然を感じる中で仕事をするのもまた良い。

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第129話

ともに国際共同研究を行なうアメリカの研究者の案内で、エボラウイルスなど、致死率のきわめて高い病原体を扱うロッキーマウンテン研究所を訪れた。

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【写真】アンドレア邸の庭から見た景色

■アメリカへ

2024年6月、マレーシアのジャングル(126話)から帰還して3週間、ひさしぶりにアメリカに行くことになった。目的地はモンタナ州とノースカロライナ州。アメリカには何度も行ったことがあるが、このふたつの州はどちらも初訪問である。

成田からロサンゼルスへ。そこで乗り換えて、モンタナ州のミズーラという街へ......という旅程だと思っていたのだが、手元のチケットによると実際は、ロサンゼルスから2時間フライトし、コロラド州のデンバーに着陸。そこでミズーラ行きの飛行機に乗り直す、という変則コースであった。

上がロサンゼルス→デンバー、下がデンバー→ミズーラのチケット。同じ便名(UA1092)なのに、なぜかデンバーで乗り換え。搭乗ゲートもターミナルも全然違う場所にあり、空港内を30分近く歩かされるハメになった。完全に違う便じゃないか......。

デンバーからミズーラまでも2時間ほどなのだが、飛行機の電気系統の異常とかいう謎の理由で、離陸が1時間ほど遅れる。その間エアコンも入らず、機内は蒸し風呂状態。

なぐさめ程度に氷の浮いた冷たい水をくれたりはしたものの、なんとも不可解でバタバタな出だしである。成田を発ってから20時間以上かけて、ようやくモンタナ州に到着した。

離陸前にくれた氷水。これで暑さをしのげ、ということらしい。

今回の出張は、2024年初めてのG2P-Japanツアー。2023年1月のフランス・パリ(40話)に始まり、同年6月のオランダ・ロッテルダム(40話)とチェコ・プラハ(41話)、そして、同年12月のタイ・バンコク(79話)に続いてのツアーである。

同行するのは、パリ(40話)にもバンコク(79話)にも登場した、北海道大学のM。そして今回の訪問先は、モンタナ州・ハミルトンという街にある、アメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health、「NIH」と略される)管轄のロッキーマウンテン研究所である。

同研究所は、Mの博士研究員(ポスドク)としての留学先でもある。そしてなにより、この研究所には、バイオセーフティーレベル4(BSL4)の実験施設がある。

BSL4施設は、エボラウイルスやラッサウイルスのような、致死率が高い、きわめて危険な病原体を用いた感染実験をするための施設である。

ちなみに日本には、BSL4病原体の研究施設はふたつある。ひとつは国立感染症研究所の村山庁舎、もうひとつは長崎大学にある。後者は2021年に「高度感染症研究センター」として竣工されたものであるが、どちらの施設も、まだBSL4病原体を使った研究は実施されていない。

つまり現在、日本に「稼働中」のBSL4施設はない、ということになる。

そして今回、われわれのホストを務めてくれるのが、ロッキーマウンテン研究所のアンドレア・マルツィ(Andrea Marzi)教授。2023年のドイツウイルス学会(19話~22話)で初めて会い、またこの年の3月には、オーストリアのウィーン(98話)でも再会した彼女である。

アンドレアは、この連載コラムの27話で紹介した、国際共同研究を推進するための「ASPIRE」という大型研究費の、アメリカ側のカウンターパートである。

つまりこの訪米は、「ASPIRE」の研究活動の一環であり、そしてそれはまた、われわれG2P-Japanの「外向きのチャレンジ」のひとつ、というわけである。

モンタナ州は、日本北限の稚内よりも緯度が高い。そのため、この季節の北部アメリカは、日が長く、朝が早い。空港のあるミズーラに到着したのは22時過ぎだったが、それでもまだ明るく、時差ぼけで目が覚めた翌朝5時には、外はもう白んでいた。

その日の朝、ロッキーマウンテン研究所に勤務する日本人のO先生がホテルまで迎えに来てくれた。O先生が運転する車で、ミズーラから1時間ほどでハミルトンへ。道中の車窓には、Windows XPの壁紙のような丘陵な景色がひたすらに続く。モンタナである。

研究所に着くと、飛行機に乗る時のようなセキュリティチェックを受けた上で、構内へと入る。そこでさっそくアンドレアと合流。昨年のサウジアラビア・リヤドの会議(72話)で面識のある、ヴィンセント・マンスター(Vincent Munter)教授とも再会した。

挨拶回りがひと段落すると、さっそくBSL4施設を見学させてもらう。厳重なセキュリティーと万全の研究体制に圧倒される。バイオセキュリティーの関係上、ここで詳細を紹介することはできないが、まさに「映画の中で見るアレ」そのものであった。

それに、万が一事故が発生したときの対処法なども十全に用意されている。ちなみにこの施設では、入念なバックグラウンドチェック(過去10年間に訪問した国やその期間、その目的の説明)や、半年以上のトレーニングや講習を受けて、それらをすべてパスして初めて実験することがが許可されるという。それだけ「危険」をともなう施設ということだ。

BSL4施設の見学の後、Mらと一緒にセミナーをし、アンドレアやヴィンセント、ロッキーマウンテン研究所のスタッフたちと、いろいろな話をした。夕方には、アンドレアが自宅にみんなを集め、バーベキューをした。大きな家、広い庭、そして、庭から見える広大な景色。

アンドレア邸の庭から見える果てしない景色。アメリカである。

日が長いので、20時を過ぎても昼間のように明るい。カラッとした過ごしやすい気候の中、素晴らしい自然を眺めながら食べるバーベキューとビール。アメリカである。

※(2)はこちらから

文・写真/佐藤 佳

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