焦点:米「国家資本主義」の足音に身構える投資家、利益相反のリスクも

 米政府による半導体大手インテルへの出資を巡り、これから民間企業への政府介入が本格化する「国家資本主義」の時代が訪れるのではないか、と一部投資家は警戒している。写真はインテルのリップブー・タン最高経営責任者(CEO)。4月29日、サンノゼで撮影(2025年 ロイター/Laure Andrillon)

[27日 ロイター] - 米政府による半導体大手インテル(INTC.O), opens new tabへの出資を巡り、これから民間企業への政府介入が本格化する「国家資本主義」の時代が訪れるのではないか、と一部投資家は警戒している。

この取引を通じて米政府は、半導体の国内生産促進を目的としたCHIPS法の下での補助金など総額111億ドルをインテルの株式9.9%に転換する。

以前にインテルのリップブー・タン最高経営責任者(CEO)の辞任を求めていたトランプ大統領はタン氏との会談後「彼は職を維持しようと会談に臨み、結局米国に100億ドルをもたらした。われわれは100億ドルを手にした」とソーシャルメディアに投稿した。

インテル株を保有し、物言う株主(アクティビスト)として活動するジェームズ・マクリッチー氏は「大統領がCEOを脅して企業の株式10%を取得できるとすれば、悪しき前例ができあがった」と問題視した。

今回の取引では、米政府にインテルの取締役ポストは付与されなかった。政府は株主総会で取締役指名や取締役会の提案を支持する義務があるが、その他の事案については政府が自由意志で投票できる。

フィッチ・レーティングスは26日に公表した調査で、米政府の出資でインテルの流動性は増大するものの、同社半導体の顧客需要を根本的に改善するわけではないと指摘。投資適格級で下から2番目の「BBB」となっている同社の格付けの引き上げにはつながらないとの見方を示した。

<既存株主への悪影響>

インテルの提出書類によると、米政府との取引で既存株の価値は希薄化し、投票権の価値も低下するほか、他国・地域で追加的な規制を適用される恐れも出てくる。さらにタン氏は、インテルに資金は必要ないと明かした。米政府の出資発表の3日前、ソフトバンクグループ(9984.T), opens new tabが20億ドルを出資する契約を締結したからだ。
これまでも日本製鉄(5401.T), opens new tabによるUSスチール買収の件などで、トランプ氏による民間企業への異例の介入が見られた。ラトニック商務長官は26日、政権として今後防衛関連企業の株式も取得する可能性を示唆した。
ただ欧州やアジアの国では、政府が大手企業株に出資する事例は珍しくない。例えばドイツのニーダーザクセン州は、自動車会社フォルクスワーゲン(VOWG.DE), opens new tabの株式20%を保有している。

UBSのテクノロジー投資銀行部門副会長を務めるリチャード・ハーデグリー氏は「このような方法は日本、韓国、台湾、シンガポール、マレーシアの政府では何年も前から採用され続けているし、イタリアとフランスの政府は半導体産業に関する産業政策に40年ないし50年間、多額の投資をしている」と述べた。

米政府も2008-09年の金融危機では経営危機に陥った幾つかの企業の株式を取得した。ただ、それらは一時的な措置で、健全な企業の株式を長期にわたって保有するのはかつてない動きだ。

<線引きがあいまいに>

アメリカン・センチュリー・インベストメンツのシニア・バイスプレジデントでマルチ資産戦略部門の最高投資責任者(CIO)を務めるリッチ・ワイス氏は、将来的に米政府が企業に出資する際には「インサイダー取引などの不正が行われる機会を制限するための規制や指針が必要になる」と主張。何のチェックもないまま政府が直接投資に動くシナリオの下では、投資家が当該企業の株式を取引するリスクが格段に増大してもおかしくないと警告した。

新たな工場の設置場所や解雇をするかどうかや、外国への展開をどれぐらい積極化するのかという利益相反を取締役会が判断する際にも、同様にリスクが生じるとの声も出ている。

年金基金や大口株主などが加盟する米国機関投資家評議会のエグゼクティブ・ディレクター、ロバート・マコーミック氏は、そのような事案で企業と国家の間でたやすく利益相反が起きかねないと指摘。「政府が株式を保有する民間企業は、企業としての権利と国家としての権利に衝突が生まれる可能性を秘めている」と語る。

米西部カリフォルニア州に拠点を置くアクティビスト企業ニア・インパクト・キャピタルのクリスティン・ハルCIOは、政府の株式取得については「確信よりも疑念が先立つ」と語り、政府と民間の線引きが幾つかの面であいまいになりつつあるとの考えを示した。

同社は顧客のためにインテル株を運用しているほか、台湾積体電路製造(TSMC)(2330.TW), opens new tabや米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)(AMD.O), opens new tabといった半導体関連銘柄も保有している。

ある大手機関投資家は、今回の取引でインテルがアクティビストからの圧力から守られるメリットに言及しながらも、米政府が他の企業にも出資し続ければ、懸念すべき国家資本主義への道につながりかねないと身構える。

この機関投資家は、インテルのような個別企業に1回限りの出資をするだけなら重大な警戒を要するほどではないとみている。ただそうした手法が広範囲に適用されるとすれば、当該企業に使われた理由や、なぜ資本市場で資金調達できなかったかに目を向けなければならないと指摘した。

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Ross Kerber is U.S. Sustainable Business Correspondent for Reuters News, a beat he created to cover investors’ growing concern for environmental, social and governance (ESG) issues, and the response from executives and policymakers. Ross joined Reuters in 2009 after a decade at The Boston Globe and has written on topics including proxy voting by the largest asset managers, the corporate response to social movements like Black Lives Matter, and the backlash to ESG efforts by conservatives. He writes the weekly Reuters Sustainable Finance Newsletter.

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