中国総領事「暴言」非難のIPACとは…事務局・山尾志桜里氏が解説、声明は「国際常識」
高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に伴う中国の駐大阪総領事による不穏当な表現に対し、「強く非難する」声明を出した「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」は日米欧など43カ国、約300人の国会議員が超党派で構成する。創設メンバーの1人で、現在は日本の事務局長を務める元衆院議員の山尾志桜里氏は産経新聞の取材に、今回の声明を「国際社会の常識にのっとった発信で意義は大きい」と述べる。
直前に維新・岩谷氏が総会出席
元衆院議員の山尾志桜里氏──IPACが薛剣大阪総領事の投稿に対し「威圧的発言を強く非難する」声明を出した
「総領事の暴言に対し、素早く、強い言葉で、実効的な声明が出た。存立危機事態を巡る高市首相の発言に対しても、何ら瑕疵のない正当なものだと評価している。法律を恣意(しい)的に解釈し、攻撃してくる中国に対し、6大陸にまたがる議員が速やかに国際社会の常識にのっとった発信でピン止めした意義は大きい。加盟議員による自国政府への働きかけも期待される」
──IPACに約20人の日本の議員が加盟する
「日本メンバーのIPACへの貢献も声明発出の背景にあっただろう。11月7、8日にベルギーで開かれたIPAC総会には日本維新の会の岩谷良平前幹事長が出席し、中国の経済的威圧に対抗し、連携を呼びかけるメッセージを出した。国会開会中で海外渡航が難しい中、岩谷氏が派遣された効果は大きい」
「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」が日本で開催した国際会議「人権外交フォーラム」=令和5年2月17日、国会内(奥原慎平撮影)加盟は与野党のペアが条件
──そもそもIPACとは
「各国の国会議員が対中政策で広範に連携し、人権問題に取り組むプロジェクトだ。シンクタンクでも国連組織でもなく、各国の国会議員が連携する所に特徴がある。加盟には各国の与野党の議員1人ずつの参加が必要で、中国がいう『反中議員の偏った集まり』にはなり得ない。台湾の国連機関加盟の後押しや、中国が台湾産のパイナップルやリトアニア産牛肉などを報復措置として輸入停止した際、販路拡大を呼びかける声明を出している」
──IPACは2020年6月に設立された
「中国が経済成長すれば、おのずと民主化されるとの認識が国際社会にあったが、もはや各国の対中政策を変えないといけない。ただ、各国ごとの運動には限界がある。英国など8カ国の国会議員が集まったのがIPACだ。発足した6月4日は、1989年に天安門事件が起きた日でもある」
──創設国はアジアで唯一の日本。衆院議員時代に山尾氏が加わった
「香港の民主派弾圧を議員活動で問題視しており、同様の問題意識を持つ英国議員に呼びかけられた」
民主主義は強い
──中国によるIPACへの圧力は
「影響力と組織力が拡大する中で、中国の圧力も高まっている。日本などに対してはない。ボリビアやコロンビア、ボスニア、北マケドニア、フィリピン、ソロモン諸島、ウガンダ、ルーマニアなどに対し、台湾問題に関わらず、IPAC総会に出席しないよう、各国政府や所属政党などを通じ圧力がかけられている」
「プレッシャーがあるからこそ連携して対抗する動きも出ている。ソロモンの議員は自国政府の圧力を受けても、今回の声明に署名し、躊躇(ちゅうちょ)なく日本支持を表明した。声明に署名する加盟メンバーも増えている」
──専制主義国は政治決定のスピードが速く、その面で民主主義国の弱さも指摘される
「専制主義国はあくまで指導者目線での国益にのっとった行動しかできず、しかも連携の力は弱い。民主主義国は、長期的な国益を念頭に、価値観を共有していれば他国に手を差し伸べる幅の広さを持つ。情けは人のためならず。長期的な強さはこちらにある」
(聞き手・奥原慎平)