「女優は女優だけやってろ、みたいな声も…」身長170センチの女子プロレスラー・天麗皇希がマリーゴールドで“覚醒した瞬間”《特別グラビアインタビュー》(Number Web)|dメニューニュース

「女優は女優だけやってろ、みたいな声も…」身長170センチの女子プロレスラー・天麗皇希がマリーゴールドで“覚醒した瞬間”《特別グラビアインタビュー》 photograph by Takuya Sugiyama

マリーゴールド所属の女子プロレスラー・天麗皇希の特撮インタビュー。第1回では、移籍当初の風当たりや本音、その後ターニングポイントとなった試合などを聞いた。《NumberWebインタビュー全2回/後編に続く》

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男装アイドル→アクトレスガールズへ

「“天にも昇る麗しさ”ってところじゃないですか」

 新団体の主力候補になりうる素材を得た、ロッシー小川代表のうれしそうな顔が忘れられない。昨年春、女子プロレス団体マリーゴールドの旗揚げを控えた時期のことだ。“有望新人”のリングネームは天麗皇希(あまれいこうき)。天麗というロマンチックなネーミングは小川によるものだ。

 小川がスターダム離脱選手を中心に創設したマリーゴールド。その第1回記者会見に“乱入”したのが“女優によるプロレス”アクトレスガールズのトップメンバーたち。170cmの長身が目を引く皇希は、もともと男装アイドルグループで活動していた。

 演劇やアクションにも興味があり、アクトレスガールズはその一環。この団体では演劇公演のアクションシーンとしてプロレスを取り入れてきた。また2022年からはプロレスの試合と興行を再現するようなエンターテインメント・ショーを開催。そこで皇希も力をつけていく。

 従来のプロレス団体と同じ活動は行われなくなったが、受身や基本的な技は身につけていた。人前でパフォーマンスすることにも慣れていたし、何より華がある。

 同じくマリーゴールド入りした先輩の翔月なつみはスターダム出身。アクトレスガールズの後輩たちにも形だけではない技を教えてきた。

 アクトレスガールズからマリーゴールドに移籍した選手たちはトップの面々。団体が用意するイベントだけでは規模的にも満足できなかった。といって、自分で舞台などの仕事を取ってきても団体に止められてしまう。新たなチャンスがほしい時期に、マリーゴールドができたのだった。

先輩の顔つきが変わっていた

 純粋なプロレスラーとしてはデビュー戦となる、マリーゴールド旗揚げ戦での皇希の試合(2024年5月20日)。やはりレスラーデビューの後藤智香と組み、相手は翔月なつみ&松井珠紗。アクトレスガールズ移籍組の4人だった。

「そういう意味では安心感もあったんです」

 皇希はそう振り返る。何度も組んだり闘ってきた面々。手の内を知られているが知ってもいる。なつみ、後藤とはアクトレスガールズで同じユニットでもあった。

 けれど、いざ業界注目の女子プロレス団体マリーゴールドのリングに立ってみると、これまでとは大きく違った。何より対角にいる先輩2人の顔つきが。

「なつみさんも松井さんも“プロレスラーの顔”だったんです。2人ともプロレスラーとしての活動歴がある。“これはちょっと違うぞ。これからは自分たちもプロレスラーなんだ”って、そこで実感したというか」

「“女優は女優だけやってろ”みたいな声もありました」

 試合は“デビュー戦”の皇希と後藤が勝った。緊張は隠せていなかったが、能力の高さは誰の目にも明らかだった。もちろんそこからも試行錯誤が続いたが。

「団体をやめてきたから当然、批判はあります。“女優は女優だけやってろ”みたいな声もありましたね」

 ファンは元スターダムの選手たちならよく知っていた。だが専門メディアに載らないアクトレスガールズはそうではなかった。

「どれだけできるんだ?」

 試されているような気持ちは、選手の多くが味わってきた。

 これまで経験したプロレスは“演技”の一環だった。だがこれからは違う。マリーゴールドで練習してみると、知っている技でもかけ方が違うことがあった。覚えることが多い旗揚げの時期、皇希には他にやることもあった。3カ月連続で舞台の仕事が入ったのだ。

 まったくの偶然だったが、とにかく乗り越えるしかない。一番大事な時期にプロレスの練習が足りない。なのに埋もれなかったのは、やはり大器ゆえか。

“起承転結も何もない試合”が天麗を変えた

 視界が開けてきたのは、夏のシングルリーグ戦。必要なのは“場数”だった。あるいは“没頭”か。毎回の対戦相手を研究し、そのことでシングルマッチという基本となる形式に理解を深めた。

 皇希自身、プロレスを難しく考えすぎてしまった部分もあるようだ。

「プロレスラーには、場の空気を読む特殊な能力があるなって。エンタメ、パフォーマンスとの最大の違いはそこだと思います。リングから自分の世界を広げて、会場全体の空気を操っていく。だけどやろうとしてもすぐにはうまくいかないんですよ。当たり前ですよね」

 おそらく皇希が触れたのはプロレスの“神髄”、その一端のようなもの。いきなり鷲掴みにはできなかった。それよりも必要だったのはプロレスそのものにのめり込むこと。それが、MIRAIとのリーグ公式戦だった。

 この試合では「MIRAIさんからのメッセージを感じた」と皇希。MIRAIはスターダム時代からオールラウンダーとして知られるが、この日はひたすらチョップ一辺倒。うまさではなく叩き潰すような闘いだ。

「そうなると私も“絶対負けたくない”ってなるんですよ。MIRAIさんがチョップできたら、私が打ち返せるのはビッグブーツ(顔面蹴り)。何発打たれても返してやるって、その意地だけでしたね」

 チョップとビッグブーツの打ち合いは場外でも続く。

「むしろあの試合はリング内にいた時間のほうが短かったくらいで。理屈で“試合の組み立て”とかを考えたらあり得ない試合でした。起承転結も何もなかったですから。でもそういう闘いをしながら“こういうことかも”と思ったんです」

「演技をすると嘘になる。芝居をしろ」

 ガムシャラに蹴って、そこから抑え込んで3カウント。皇希が大金星を掴んだ一戦は、リーグ公式戦の当該ブロックベストマッチにも輝いた。

「マリーゴールドではプロレスの細かい技術を意識してたんです。もちろん、相手にケガをさせないためにも精度や技術は必要。でもMIRAIさんはあの試合で、私の意識を変えてくれました。

 技っていうのは、その時感じたことを出すもの。感情表現なんだって。きれいに、正確に技を出せばいいわけじゃないんですよね」

 そう考えると、今までやってきた演劇と同じじゃないかと思うようにもなったそうだ。

「私は養成所や演劇学校に行っていないので。変な話、演劇を技術でやったことがほとんどないんです。それこそ理論よりも感情優先で」

 なのに、プロレスではまったく逆になっていた。

「お芝居は感情先行なのにプロレスは技術先行でやろうとしてました。不思議ですよね。今は“なぜ自分がそうしたいのか”から考えて試合をしてます」

 役者としてずっと教わってきたのは「演技をするな」ということ。「演技をすると嘘になる。芝居をしろ」。

 生粋のプロレスラーではない、アスリート出身でもない皇希は、役者というベースとともにプロレスを身につけていった。11月には思いがけないチャンスもやってきた。ノア・GHC女子王座戴冠だ。《インタビュー後編に続く》

(撮影=杉山拓也)

文=橋本宗洋

photograph by Takuya Sugiyama

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