数字では見えない「今のアメリカ」 雇用減速と物価高、その裏で上がるビットコイン【サンフランシスコレポート】

数字では見えない「今のアメリカ」 雇用減速と物価高、その裏で上がるビットコイン【サンフランシスコレポート】(Image via NADA NEWS.)

エックスウィン アメリカマーケットリサーチアナリストのデリア・ロホです。サンフランシスコから、今回は「経済指標では見えにくい、今のアメリカの暮らし」についてお伝えします。今週のアメリカでは、PCE、GDP、JOLTS、ISM、そして雇用統計と、重要な経済指標が次々に発表されました。数字だけを追っていると、「インフレは少し落ち着いてきた」「景気はまだ強い」「FRBの追加利上げの可能性は下がった」と整理できます。でも、サンフランシスコ郊外で生活している一人の女性として見ると、少し違う景色が見えます。一言でいえば、「数字が改善しても、生活が楽になった感覚はまだない」というのが、今のアメリカです。9月の雇用統計では、非農業部門雇用者数がわずか2.9万人増。失業率は4.2%でした。米労働省の統計でも、雇用の勢いがかなり弱くなっていることが確認できます。ただ、街を見ていて感じるのは「突然みんなが失業している」という雰囲気ではありません。むしろ怖いのは、企業が人を積極的に採らなくなっていることです。仕事を持っている人は働き続けている。でも転職しようとすると以前ほど簡単ではない。今の仕事を失ったら、次がすぐ見つかるのか分からない。そんな静かな不安が広がっています。JOLTSでも8月の求人件数は707.9万件まで減少しました。一方で解雇は低水準にとどまっています。つまり今の労働市場は「大量解雇」というより、「企業が新しい人を採ることに慎重になっている」状態です。そして、生活者としてもっと直接感じるのが物価です。サンフランシスコ地域の8月の消費者物価は前年同月比3.4%上昇。食料品も3.1%上昇しています。特に車社会の郊外で痛いのがガソリンです。9月28日時点で、サンフランシスコ地域のレギュラーガソリン平均価格は1ガロン6.267ドル。郊外では、子どもの送り迎え、仕事、スーパーへの買い物など、車なしでは生活しにくい家庭も多くあります。だからガソリン価格が上がると、「投資家が考えるインフレ」ではなく、本当に毎週の家計に響いてきます。スーパーでも同じです。一つひとつの商品価格を見れば数ドルの違いかもしれません。でも食料品、ガソリン、保険、外食、光熱費と積み重なっていくと、以前と同じ生活をしているだけなのに、お金が残りにくくなります。そして住宅です。10月1日時点で、アメリカの30年固定住宅ローン金利は平均7.28%まで上昇しました。サンフランシスコ・ベイエリアのようにもともと住宅価格が高い地域では、この金利は非常に重い数字です。家を買いたいと思っても、住宅価格だけではなく、毎月のローン返済額を考えて諦める。すでに低い金利で住宅を購入した人は、今の家を売って新しい住宅に買い替えると金利負担が一気に増えるため、簡単には動けません。こうした現実を見ていると、ニュースで「アメリカ経済は底堅い」と言われても、普通の家庭が同じように感じているとは限らないのです。一方、金融市場では全く違うことが起きています。弱い雇用統計を受けてFRBの追加利上げ観測が後退すると、ビットコインは一時約87,100ドル(約1,376万円)まで上昇しました。週前半には約82,600ドル(約1,305万円)まで下落していたため、短期間で大きく反発したことになります。しかし、その後は約84,700ドル(約1,334万円)まで反落しました。ここに今のアメリカ経済の不思議さがあります。雇用が弱くなる。普通に考えれば、生活者にとって良いニュースではありません。ところが金融市場では、「これならFRBは追加利上げしにくい」「金利が下がるかもしれない」という期待につながり、株やビットコインなどの資産価格にはプラス材料として受け止められることがあります。つまり、「一般家庭にとって悪いニュースが、ウォール街にとって良いニュースになる」という現象が起きるのです。サンフランシスコ周辺では、AIを中心とした新しい産業が大きく成長し、新しい富も生まれています。その一方で、普通に働き、住宅費を払い、車にガソリンを入れ、スーパーで家族の食料を買っている人たちにとっては、「アメリカ経済が好調」という言葉をそのまま実感するのは難しい状況です。今のアメリカを見るとき、GDPや株価だけでは分からないことがあります。私が生活者として気になるのは、もっとシンプルです。来月も仕事は大丈夫なのか。スーパーの支払いはいつ落ち着くのか。ガソリンはいつ安くなるのか。家を買える日は来るのか。そして、今より一年後の生活は楽になっているのか。これが、サンフランシスコ郊外から見える「今のアメリカ」です。FRBが次にどう動くのかはもちろん重要です。しかし、本当にアメリカ経済が改善したと言えるのは、経済指標の数字が良くなったときではなく、普通の家庭が「以前より少し生活が楽になった」と感じられるようになったときなのかもしれません。以上、サンフランシスコからデリア・ロホがお伝えしました。

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