令和ロマン・髙比良くるま、契約終了の報告動画から読み取れる重要な「事実」と浮かび上がる「疑問」(田辺ユウキ)
吉本興業は4月28日、お笑いコンビ・令和ロマンの髙比良くるまとのマネジメント契約を同日付で終了したことを報告。また令和ロマンもYouTubeチャンネル『Official令和ロマン【公式】』にて、「令和ロマンから皆さまへ。」と題した動画を投稿。オンラインカジノ賭博問題でタレント活動を休止していた髙比良くるまが、復帰とともに吉本興業との契約を終了した経緯について伝えた。
漫才師として若手ナンバーワンの実力を誇り、『M-1グランプリ』史上初の連覇を達成しながらも、その翌年にコンビの一方が所属事務所を退所して“フリー”になるのは超異例の事態。
ただ、YouTubeチャンネルでの髙比良くるまの説明を見ると、なにがあったのか読み取ることができる。
重要なのはオンラインカジノが“契約解除”の理由ではないところ
髙比良くるまによると、吉本興業の「偉い人」から呼び出しがあり、「くるまくんが望めばやけど、“契約解除”ということで」と進退を委ねられたのだという。髙比良くるまは驚き、怒られているものと考えて謝罪。ところが「偉い人」からはその後も“契約解除”について何度も尋ねられ、髙比良くるまも何度も謝罪を繰り返した上、最終的に合意したのだという(このやり取りが合意であるかどうかは大きな疑問であるが)。
すでに同件は、経緯も含めてネットニュース化され、またSNSなどでもコメントが多数投稿されている。ただここで重要なのは、オンラインカジノ賭博が“契約解除”の直接的原因ではないことだ。
髙比良くるまは動画内で、「偉い人」から、オンラインカジノ賭博の騒動に関する動画を2025年2月15日に投稿したことについて、「こっち(吉本興業)としてはやってほしくなかった」「会社との信頼関係というものが壊れてしまった」と指摘されたのだと話した。つまり該当動画は、髙比良くるまが単独で出したもの。吉本興業の意向に沿った行為ではなかったことが問題視され、“契約解除”に至ったのだ。
そのため、コメント投稿などで見られる「オンラインカジノ賭博で契約終了」という認識は厳密には間違い。また現時点では、髙比良くるまが契約終了となったからといって、オンラインカジノ疑惑の所属タレントたちもそろって“契約解除”にはならないと考えられる。
吉本興業は、会社の意向に沿わない行為に対して厳しい態度をとる
ちなみに吉本興業は、こういった会社の意向に沿わない行為に対して厳しい態度をとる事務所である。
2019年のいわゆる「闇営業問題」の際、吉本興業は「諸般の事情を考慮し、今後の宮迫博之とのマネジメントの継続に重大な支障が生じた」とし、問題に関与した雨上がり決死隊(当時)の宮迫博之との契約を解消。解消理由は反社会勢力の会合に参加したことが挙げられるが、ただ宮迫博之が、事務所の反対を押し切る形でロンドンブーツ1号2号の田村亮と独自の記者会見を開いたことも、長期間にわたって埋まる気配がない深い溝を作った。
キングコングの西野亮廣は、2021年1月30日付で吉本興業とのマネジメント契約が終了。その直前には、自身のTwitter(現X)で、退社を示唆しながらも揉めているわけではないと強調。それでも同時期に吉本興業のマネジメント体制への不満を記述するなどしていた。事実なのかもしれないが、吉本興業としてもイチ企業としてそういった言動は看過できなかったはずで、結果的には退社となった。
今回の髙比良くるまの“契約解除”であらためて、「なにがあってもまず事務所を通す」を筋とする、吉本興業の考え方がはっきりと分かった。
独断での意思表明、松本人志との違いはどこにある?
髙比良くるまが、分かりやすく契約終了の経緯を語ったことで「疑問」もいくつか浮かび上がった。
一つは、前述したように髙比良くるまが「なにがあってもまず事務所を通す」を守らなかったことで契約終了を通達されたのであれば、たとえばダウンタウンの松本人志の場合はどうなのかという点。
松本人志は2023年末より『文春』で報じられた性加害疑惑に対し、Xの投稿を通じて「事実無根」などを訴えた。また事情説明の機会として、かつてレギュラー出演していたテレビ番組『ワイドナショー』(フジテレビ系)に出演する意思も示すなどした(ただしフジテレビが「フジテレビと吉本興業の双方で協議し、総合的に判断した結果、最終的に松本人志さんのワイドナショーへの出演はなしということになりました」と出演は取りやめになった)。
しかしそれらの投稿すべてが吉本興業を通した上で発信されていたとは到底思えない。松本人志の独断による投稿もあったと考えられる。ケースは異なるとは言え、髙比良くるまの場合も「まっさきに謝罪したい」という気持ちから、独断で動画投稿がなされた。その違いはいったいなんなのか。つかみかねるのが正直な意見である。
髙比良くるまが問題提議した、トップダウン的判断
さらに髙比良くるまは動画内で、自身の契約終了はトップの判断だけではなく、吉本興業内で話し合われて決定したことなのかどうか調べたとも語っていた。
そのことについて協力を得たのが、社内のさまざまな事情にタッチしていて髙比良くるまの信頼も厚い「東大卒社員」。事情を説明した上でリサーチしてもらったところ、誰も契約終了に関しては知らなかったと報告されたそう。要するに、広く共有・議論されたものではなくトップダウン的だったということなのだ。髙比良くるまが動画内であえてその内容に触れたのは、大企業におけるトップダウン的な判断について問題提議する意味合いも感じられた(そもそも今回の投稿動画は、こういったネットニュースになることがしっかり想定され、議論される可能性も見越した内容に受け取れる)。
髙比良くるまはこれからの展望について、コンビで変わらず『M-1』ツアーなどの巡業公演に参加できたり、YouTubeの制作・配信がおこなえたり、自主企画のライブイベントなどができるようになると話していた。それでも、仕事の受け方は今後大きく変化することになる。
特に、“他事務所”の髙比良くるまが、吉本興業が運営する劇場に立つことは今後きわめて難しくなる。吉本興業の劇場で令和ロマンの漫才が一切見れない可能性もあるのだ。
令和ロマンは2023年の『M-1』優勝後、テレビ出演よりも祇園花月(京都)など各地の吉本興業の劇場出演に力を入れていた。とにかく“劇場愛”が強かった。お笑いファンは二人のそういった思いを知っているだけに、動画内で「これからも吉本の劇場に出られる」という言葉が聞けなかったことに、寂しい気持ちになっただろう。他社運営の劇場出演はできるとは言え、舞台に上がる機会はこれまでより大幅に減少するかもしれない。
しかし、髙比良くるまが吉本興業を退社したからといって、令和ロマンが成し遂げた偉業やおもしろさが損なわれるわけではない。今後も同コンビの活動を楽しみにしたい。