「イスラム土葬墓地、国の責任で全国に整備を」大分の自民市議団が異例要望 岩屋毅氏尽力 「移民」と日本人

イスラム教土葬墓地の建設計画に反対する看板=令和6年5月、大分県日出町

大分県日出(ひじ)町のイスラム教大規模土葬墓地計画に関連し、町に隣接する杵築(きつき)市の自民党市議団が国に対し、「日本全国で国が責任を持ち、複数の地域に土葬対応可能な墓地を確保・整備すること」などと求める異例の要望書を提出した。要望活動には地元選出の岩屋毅前外相が尽力したという。日出町の計画は昨年、反対派の町長が当選し事実上、頓挫している。

人生の「終末」も国の責任で

要望書は「ムスリム墓地に関する国の対応を求める要望書」。代表者で自民党大分県連杵築支部長の阿部長夫県議によると、今月18日、自民党杵築市議団9人全員や阿部氏らが東京都内で、墓地を所管する厚生労働省の仁木博文副大臣、自民党の小林鷹之政調会長、内閣府の鈴木隼人副大臣へそれぞれ、下記4項目からなる要望書を手渡した。

1.国の責任において、宗教的多様性に対応した墓地整備の基本方針を示すこと。

2.日本全国において、国が責任を持ち、複数の地域に土葬対応可能な墓地を確保・整備すること。

3.埋葬が周辺環境に与える影響(水質・衛生など)について科学的に検証し、全国共通のガイドラインを策定すること。

4.墓地計画に際しては、地域住民への丁寧な説明と理解促進を図るとともに、地方自治体への支援を国の責任で行うこと。

阿部氏によると、要望活動には杵築市がある大分3区選出の岩屋氏が尽力したといい、提出の際もすべて同席したという。

取材に対し、阿部氏は「国策として外国人を受け入れる政策を作った以上、人生の終末もやはり国の責任で、それぞれの宗教に沿った形での墓地の整備が必要ではないか」と語った。

地域社会に大きな分断と不安

要望書によると、九州地方にはイスラム教徒の土葬墓地がないことから、同県別府市のイスラム系宗教法人が日出町に墓地の建設を計画。「当初から地域住民の間で強い懸念が示され、とりわけ土葬による地下水や農業用水への影響に対する不安が根強く、近隣の区長会や住民有志の陳情や署名活動が繰り返し行われ、町議会でも取り上げられる事態となった」。

また、「墓地設置に関する裁量権が設置自治体に単独に委ねられており、隣接する杵築市との十分な協議を経ないまま、日出町が独断的に計画を進めたことで問題が深刻化した」という。

こうした反対の声を背景に、昨年8月の町長選で墓地建設反対を訴えた候補が当選し、町は町有地の売却を行わないとの方針を決めた。要望書は「結果として計画は事実上頓挫したが、その過程で地域社会に大きな分断と不安を残したことは看過できない」と指摘した。

自治体や住民に負担押しつけ

要望書は一方で、日本は少子高齢化による労働力不足を背景に、「国策として多様な国籍・宗教を持つ外国人を積極的に受け入れている。受け入れる以上、日本で生活する人々が人生の最期を迎える際、それぞれの文化や宗教に沿った埋葬を行える環境整備は国の責務と考える」と強調。

「地方の自治体や住民にのみ負担を押しつけるのではなく、国が責任を持った制度設計を早急に行う必要がある」「早急に対応していただくよう、強く国へ要請する」としている。

厚生労働省は要望書について「墓地に関する指導監督は地方自治体が自らの責任で行う『自治事務』となっている」(生活衛生課)と説明。「ガイドラインについては平成12年に『墓地経営・管理の指針』を都道府県などへ示している」と話した。

指針は、墓地の設置場所について「周辺の生活環境との調和に配慮されていること」と明示。「地域の実情に応じて学校、病院その他の公共施設、住宅、河川などとの距離が一定程度以上あることなどを求めることが考えられる。なお、この場合、墓地が生活必需施設であり、公共施設であることにも十分留意すべき」としている。

国内の主なイスラム土葬墓地【地図】

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