古代からあった武器への書き込み、現在では銃撃犯の犯行動機を知る手がかりに 米
紀元前5世紀の投石器の弾/Heritage Images/Hulton Archive/Getty Images
(CNN) 米国で過去1年間に発生したいくつかの銃撃事件において、犯行現場に残された薬きょうや凶器に殴り書きされたメッセージが発見された。
2024年に発生した米医療保険大手ユナイテッドヘルスケアのブライアン・トンプソン最高経営責任者(CEO)殺害事件、今年8月にミネアポリスで起きたカトリック学校襲撃事件、さらに9月に発生した保守系活動家チャーリー・カーク氏銃撃事件やダラスの移民施設での銃撃事件に至るまで、いずれの事件の銃撃犯も自分の弾薬や銃器に文化的・政治的イデオロギーを示すメッセージを刻んでいた。
これは憂慮すべき傾向ではあるが、このメッセージは捜査官が犯人の動機を知るための重要な手がかりになることもあると専門家は指摘する。また、この行為は「パフォーマンス」の意味合いが強いが、過激派の容疑者たちは、仮に自分がその結果を見る前に死亡したり、逃走中であったりしても、自分の主張を確実に伝え、「物語」の主導権を握りたいと考えている。
心理戦
初期の戦争は主に白兵戦だったが、やがて武器の種類が増え、投石器、石弓、剣などが用いられるようになると、それらの武器を使用する際に相手にメッセージを伝える慣習が生まれた。
銃器史家のアシュリー・フレビンスキー氏によると、武器や弾薬に書かれる(刻まれる)文字列は、その所有者向けの個人化、戦う相手向けの個人化、そして第三者に発見されることを意図した個人化の3種類に分類されるという。そして、それらのメッセージは犯罪捜査の出発点になりうる。
フレビンスキー氏は、古代ギリシャ人やローマ人は、矢などの投射物に言葉や記号を彫ったり、書いたりするだけでなく、(メッセージの入った)投石器用の弾も自ら鋳造していたとし、この慣習は紀元前400年ごろにさかのぼると付け加えた。
自分のものと他人のものを区別するためだけに投射物に記号や言葉を刻む者もいれば、それらの言葉や記号を使って相手を挑発したり、おびき寄せたりする者もいたという。
そして時が経つにつれ、その言葉や記号は国家の威信を表すメッセージへと変わった。
ワイオミング大学銃器研究センターのエグゼクティブ・ディレクターも務めるフレビンスキー氏によると、第2次世界大戦中、枢軸国を標的とした爆弾やミサイルに「ouch(痛いぞ!)」や「catch(これでもくらえ!)」といった言葉が書き込まれているのが、現存する遺物や写真から確認できるという。
ただ結局、これらの投射物は着弾時に破壊されてしまい、メッセージが相手に届くことはなかったとフレビンスキー氏は指摘した。
現在、捜査官たちは、犯人の宣言文(マニフェスト)やネット上の足跡を精査するだけでなく、弾薬や銃器に書かれたメッセージも犯行動機を探る手がかりとして用いている。その一例がダラスの移民関連施設で発生した銃撃事件で、捜査官たちは襲撃の動機を探る際、弾薬に書かれたメッセージを手がかりとしていた。
連邦捜査局(FBI)のカシュ・パテル長官が公開した犯行現場で撮影された証拠写真には、青インクでメッセージが書かれた薬きょうが写っている。
パテル長官はX(旧ツイッター)上で、「捜査は進行中だが、この襲撃の背後には思想的な動機があったことが証拠の初期の分析から明らかになった」と述べた。
SNSで拡散される悪名
弾薬がメッセージで個別化される以前は、弾倉や銃本体に刻印や銘文が施されることが多かった。
弾薬の薬きょうを通じて政治的メッセージを伝える行為は、比較的新しい現象のようで、ウェズリアン大学の政治学教授ピーター・ラトランド氏によると、これはインターネットやソーシャルメディアの台頭と関連している可能性があるという。