原発事故の屋内退避「複合災害前提に」6自治体意見、取り入れられず
原発事故時に5~30キロ圏の住民が建物内にとどまる「屋内退避」のあり方を見直す原子力規制委員会の検討チームに対し、能登半島地震で被災した石川県など6自治体が、自然災害と原発事故が同時に起こる「複合災害」を前提にするよう求めていたことが、規制委への情報開示請求で分かった。
能登半島地震では、被災した北陸電力志賀原発(石川県)周辺で建物が倒壊し、道路も寸断されて屋内退避自体が困難になる可能性が浮き彫りになった。過酷事故は起こさず安全性に問題はなかったものの、複合災害への備えが問われる事態になった。
Advertisementしかし検討チームはこうした意見を取り上げず、複合災害への新たな対策を盛り込まない報告書案を今年2月にまとめた。自治体側の懸念が十分に反映されなかった可能性がある。
検討チームは2024年10月、「期間の目安は3日間」などとする屋内退避見直しの中間まとめを示し、全国の原発周辺の都道府県と市町村に意見照会をした。計38自治体から約200件の意見が提出され、規制委はこれを集約して翌11月の検討チームの会合で示した。
この中で複合災害については▽地震などで家屋が倒壊するなどした場合、学校や公民館で屋内退避するなど住民の行動に触れてほしい▽自然災害への対応を優先するという基本的な考え方は有益で、これを踏まえた防護措置の実施を住民にも分かりやすく示してほしい――とする二つの意見のみを示した。複合災害で屋内退避自体が困難になることを指摘する意見はなかった。
ところが、毎日新聞が規制委への情報開示請求ですべての意見を入手したところ、6自治体が、複合災害時の避難のあり方を示すよう求めていた。
石川県は、地震などで原発に被害が出た場合は、住宅や避難所も被災し「屋内退避できない場合も生じる」と指摘。「屋内退避(建物の被災で困難な場合を含む)と避難のあり方の基本的な考え方について、検討した上で具体例を示してほしい」と求めた。
東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)から30キロ圏にある新潟県長岡市は「複合災害を考慮しないと、激甚化・頻発化する自然災害に対する住民や自治体の不安や疑問から乖離(かいり)し、避難の実効性に資すると思えない。複合災害を特殊事例扱いせず、検討してほしい」と訴えた。
検討チームは、今年2月の報告書案では複合災害の記述を増やしたものの、屋内退避ができない場合は避難するという従来の考え方を示したままで、具体的な対策を盛り込まなかった。
事務局の原子力規制庁放射線防護企画課は取材に対し、検討チームの個々のメンバーに対しても、すべての意見ではなく、公開の会合と同じ二つの意見のみを示していたと明らかにした。
その上で、意見を絞った理由について「意見の数が多い内容、大事な内容を整理して資料を作成した。すべての意見を紹介して議論する時間もない。意図的に抜いたのではなく、スペースの問題だ」と釈明した。
検討チームは28日の会合で、最終的な報告書をまとめる予定だ。石川県の担当者は取材に「規制委は自然災害を前提とせずに議論をスタートしており、自然災害があった時の屋内退避の検討は早々に必要ないことになった。議論がかみ合っていない」と指摘した。【木許はるみ】