THE YELLOW MONKEY「CAT CITY」MV撮影に潜入! 衝撃の傑作はどのようにして生まれたのか――計14時間完全密着

 THE YELLOW MONKEYが9年ぶり26枚目のシングル『CAT CITY』をリリースした。

 「CAT CITY」は、衝撃の名曲だ。溢れ出るロックスピリットと吉井和哉(Vo/Gt)による120%振り切った歌詞。「CAT CITY」は、昨年リリースされたアルバム『Sparkle X』と並行して作られていたという。そして、公開された「CAT CITY」のMVもまた、傑作なのだ。なんせ、そこに映るのは猫耳をつけているメンバー4人の姿である――。

 リアルサウンドは、「CAT CITY」のMV撮影に完全密着させてもらった。ここに記すのは、「CAT CITY」という楽曲が本当の意味で完成した一日の記録である。合計、約14時間。THE YELLOW MONKEYがどのように「CAT CITY」と向き合ったのか、そのドキュメントをここにお送りする。

 6月某日、群馬県のある教会。編集部が現場に着いた時には、すでに撮影セットが組まれていた。9:49、吉井和哉がメイクを終え、控え室から出てきた。アイスコーヒーを片手に、深い緑のジャケットと紫色のパンツ姿だ。「今日はよろしくお願いします」と丁寧に挨拶を交わしてくれる。その顔には柔らかい笑顔が浮かんでいた。リラックスした空気をまとっている。

 9:55。カメラリハーサルが始まる。最初に撮るのは、楽曲冒頭、この吉井が通称“サイケ部屋”のなかでソファに座っているシーンだ。スタンドインした吉井は、ソファに座り、「浅めに座る? 深めに座る?」と確認する。そうやって彼が細かい部分まで気にかけるのは、吉井自身も語っていたが、画作りが的確で、世界観とリクエストがあらかじめ細かく設計されているからこそなのだろう。まずZUMI監督が頭のなかにあるイメージを吉井に伝え、吉井がそれを手本にして動く。「今、振り返るの早くなかった?」とは、ソファに座って振り返るシーンでのやり取り。振り返るタイミングを細かく確認する。テイク5。吉井が振り返った瞬間に「かっこいい!」という声が飛ぶ。きれいな横顔がモニターに映る。スタッフたちは「(撮影が終わるまでが)秒だった」「さすが」と笑みを浮かべて口にする。

 ここでセットチェンジし、窓のシーンへ。監督は、メンバーがこのあとつける猫耳の調整をしている。4人それぞれをイメージしながら作ったのだという猫耳は、まずサンプルを作成し、ツアーで多忙なスケジュールのなかにいるメンバーに渡して、実際に付けた写真を送ってもらうというやりとりがあったそう(監督曰く、「その度に猫になりきった表情とポーズの写真が送られてくるのが最高でした(笑)」とのこと)。そのうえで、メンバーそれぞれのジャストサイズの猫耳が生まれたのだ。その裏で、吉井は美術チームの微調整中に壁に掛かっているギターに近寄る。ひょいと手に取り、爪弾く。「今高いね」――チューニングをしていた。セットも完成し、吉井が位置につく。このシーンもさくさく撮影が進んでいった。

ZUMI監督

 11:41。猫になる前のシーンをすべて撮り終えた吉井をキャッチ。「メンバーみんな、カラコンをつけたり、猫耳をつけたりして、今キャッキャキャッキャしてますよ(笑)」という言葉そのままに、メイクルームからは楽しそうな声が漏れ聞こえてくる。

 「CAT CITY」は、その名の通り、そして歌詞の世界観の通り、『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』という作品の世界観に寄り添って制作された楽曲である。しかし、制作そのものは『Sparkle X』と並行して行われていた。だから、その延長線上にあるハードで鋭いロックが貫かれているのだ。

 吉井「今回は『これでもか!』っていうくらい久しぶりのグラムファッションで、恥ずかしいくらい(笑)。最初にどういう作品にしようか考えていた時に、『もともとTHE YELLOW MONKEYが持っているユーモアでカラフルでキャッチーな感じがいいんじゃないか』というふうに話していて。バンドも『Sparkle X』でひとつレベルが上がった気がしていて、そこからさらにポップなものを出していくのは新しい層にもわかりやすいかもね、って。令和の『LOVE LOVE SHOW』をやろうというのが、最初にあったコンセプトだったんです」

 撮影部屋のなかに扉が現れる。床には、猫じゃらしやボール、餌、猫缶が散らばっている。完全に猫の世界ができあがった。猫の足跡も一つひとつ、位置と内股具合を確認しながらスタンプされていく。猫缶には「LOVIN」「EMMA」「HEESEY」「ANNIE」とメンバーの名前のロゴも。こんな細かな仕掛けも「CAT CITY」を象る大事な要素なのだ。それぞれの小道具がどのようにカメラに映るのか、足跡とのバランスは黄金比か、猫の目線としてのあり方はどうか……。監督は「CAT CITY」を聴いて、すぐにアメコミの世界観を連想したという。幼少期に『忍者タートルズ』を観て育った監督は、「80年代のマンハッタンの裏路地と、人間と動物の狭間で揺れるミュータントたちによる奇想天外な出会い劇が、コミカルなテイストで包括されるムードそのものが、自分の原風景としてあって。曲の世界観がそことリンクしました」と語ってくれた。

 そこに、猫耳をつけた菊地英二(Dr/以下、ANNIE)が撮影を覗きにやってきた。黒耳をつけている。「今ね、耳が4つあるの。あと少しで聖徳太子(笑)」と楽しそうだ。続いて菊地英昭(Gt/以下、EMMA)もやってきた。EMMAは、猫耳をつけ、緑のラメがギラつく豹柄のパンツを履いている。ひと足先にビジュアルが完成したようだ。両手で猫らしいポーズを取りながら、「かわいい(笑)?」と尋ねてくる。撮影再開を待っていた吉井もやってきて、「猫おじ!」と野次を入れる。

 吉井は猫にミューテーションするためにメイクルームへ。ここから、猫姿でのソロパートの撮影だ。13:10。ANNIEがカメラがまわる前にドラムのチェックをしている。その裏では、猫の格好に身を包んだダンサーふたりもスタンバイしている。この時間で、グリーンバックに演奏している姿、メンバーそれぞれにスポットライトが当たるシーン、演奏しているところに猫の魔の手が伸びてくるシーンの3つを撮影していくのだ。

 スポットライトは、1番Bメロの〈足音(ニャア)聞こえない(ニャア)/気付いたら(ニャア)足にすりすりです〉というラインで楽器隊それぞれに当たり、メンバーは楽器を弾きながらカメラに向かって「ニャア!」と叫ばねばならない。ANNIEと監督が、ライトが当たってから顔を上げるタイミング、そこで「ニャア」と叫んだ時の表情を入念に擦り合わせている。そこにEMMAが「猫にメガネ〜」と言いながら見学にやってきた。今回の撮影ではメンバーそれぞれがカラーコンタクトをつけているが、そこには度が入っていないため、EMMAはメガネをかけているのだ。一方ANNIEの撮影は、猫ダンサーとの絡みのシーンへ。かなりアップの画角で撮るということで、ANNIEは「どのあたりが映ってる?」と確認。アゴのあたりが抜かれていると聞くと、「じゃあ変な顔できる!」と茶目っ気たっぷりである。するすると撮影は進んでいき、ものの3分で撮り終わってしまった。「耳にスティックが当たっちゃった(笑)」と言っていたが、その演奏姿はやはりロックスターとしての姿であった。

 ソロパートの撮影を終えたANNIEは、「もともと犬を飼っていたから、猫になるのに時間がかかってる(笑)」「猫耳、嫌いじゃないですからね。僕がつけるのも、相手がつけるのも……なんだ? この会話(笑)」と楽しそうに話してくれた。そして、「今回は“猫”というテーマがあるからビジュアルが作りやすいけど、THE YELLOW MONKEYはかっこよければいいと思ってるんですよ。シチュエーションに合わせた作り込みは、もっとあってもいいんじゃないかなと僕は思っていたので。ここまで作り込めて、楽しいです。今回のようにポップに解釈するための含みを持たせた、意味のあるビジュアルであれば、もっともっと作り込んでいいと思うんです」と、続ける。本来彼らが体現してきたグラムロックへの回帰という側面は、やはり自身としてもしっくりくるものがあるようだ。

ANNIE「バンドの今のテンションにも合ってると思う。再集結一発目がこの曲だったら、『君たち、どうしちゃったの!?』という話になると思うんだけど(笑)。でも、今バンドがすごく安定した状態で、非常に芯のある演奏ができているし、結束もある。そのなかでグラムロックをやっていくのは、すごくいいなって。とてもポップだと思う。タイアップのような大義名分がないとやりづらい部分も、こうやって振り幅が大きくなる。きっと吉井もそんな感覚があったんじゃないかな。テーマが狭まることで、より深くそれについて歌うことができるというのもあるし。アニメタイアップなしでいきなり『ニャー!』って言われても……ねえ(笑)? 今までのタイアップがそうだったように、THE YELLOW MONKEYのカラーが一つひとつできていった歴史もあるから、楽しみです」

ZUMI監督による絵コンテ

 続いてはEMMAの撮影へ。彼の後ろに置かれているアンプは、ツアー『THE YELLOW MONKEY TOUR 2024/25 ~Sparkleの惑星X~』でもメインで使われていたもの。色合いもMVの世界観にちょうどマッチし、監督もぴったりだと言ってくれたのだという。グリーンバックでの演奏シーンから背景をチェンジしている間に、EMMAはゴールドのギターを爪弾いている。緑色のズボンと、ギターのゴールドによく似た色でジャケットの袖口にデザインされた豹柄を指しながら、「バイカラーにしました」と教えてくれた。撮影では、「ニャア」の顔で正面を向きながらも、手を動かして演奏しなくてはいけない。なかなか普段しないアクションに「難しい!」と言いながらも、無事に撮り終えたEMMAは安堵の表情だ。撮影を終え、話を聞かせてもらおうとすると、開口いちばんに「猫好きなので、猫になれてうれしいです!」と満面の笑みを浮かべる。猫好きのEMMAは、サンプル段階から耳の角度など細かくフィードバックを伝えていたのだという。曰く、「猫にはうるさい(笑)」と語る。

EMMA「8ビートの曲は今までにもあったけど、歌詞は突き抜けてますからね。よくぞここまで猫に徹したな、って。不思議なのは、今まで猫猫言ってなかった吉井が、ここまで猫のことをちゃんと感じながら書いていること。『すごいなあ!』って。アニメのオープニングテーマとか主題歌をいろいろ聴いても、ここまで内容に沿った歌詞はあまりないですよね。曲を作ったのが僕だから、吉井も歌詞を書く時に好き勝手できたのかな。自分で曲も作って歌詞も作るとなると、世界観もいろんなところに向いたものになるのかなと思うんだけど、ここまで一筋に書けたのは、僕が書いた曲だからというのもあるのかもしれない」

ZUMI監督と猫エフェクター

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