Ciscoが量子コンピューティングの実用化を最大10年短縮できる量子ネットワークエンタングルメントチップを発表、同時に量子ネットワーク技術を構築するための専用研究所も開設
Ciscoは量子インターネットの基盤となる量子ネットワーク技術を開発しています。新たに、量子コンピューティングの実用化を何年も早くすることが可能な量子ネットワークエンタングルメント(量子もつれ)チップを発表しました。同時に量子科学者とエンジニアが量子ネットワーク技術を構築するための専用研究所となる「Cisco Quantum Labs」の開設も発表しています。
Quantum Networking: How Cisco is Accelerating Practical Quantum Computing - Cisco Blogs
https://blogs.cisco.com/news/quantum-networking-how-cisco-is-accelerating-practical-quantum-computingCisco quantum computing: new entanglement chip speeds timeline - Fast Company https://www.fastcompany.com/91329302/cisco-quantum-computing-new-entanglement-chip-timeline
Cisco shows quantum networking chip - iTnews
https://www.itnews.com.au/news/cisco-shows-quantum-networking-chip-616985Cisco unveils prototype quantum networking chip | Network World
https://www.networkworld.com/article/3978702/cisco-unveils-prototype-quantum-networking-chip.htmlCisco Pulls Together A Quantum Network Architecture
https://www.nextplatform.com/2025/05/06/cisco-pulls-together-a-quantum-network-architecture/ 既存の量子プロセッサは数百量子ビットしか搭載していませんが、アプリケーションには数百万量子ビットが必要です。しかし、最も野心的な量子コンピューティングのロードマップでさえ、2030年までに数千量子ビットの実現を目標としているに過ぎません。数十年前、従来のコンピューティングも同様の課題に直面していましたが、ネットワークインフラストラクチャーを介して小規模なノードを相互に接続することで、データセンターやクラウドコンピューティング内に強力な分散システムを構築することが可能となり、問題を乗り越えることに成功してきました。 従来のモノリシックな大規模コンピューターシステムの仕様が段階的に廃止されたように、量子コンピューティングの未来は単一のモノリシックな量子コンピューターにあるわけではありません。そのため、「プロセッサが専用ネットワークを介して連携するスケールアウト型の量子データセンターこそが、現実的かつ実現可能な量子コンピューティングの未来」とCiscoは主張しています。
そこでCiscoが開発したのが、量子ネットワークエンタングルメントチップです。量子ネットワーク構想の重要な部分を担うもので、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームと共同でプロトタイプが開発されました。Ciscoは量子ネットワークエンタングルメントチップについて、「量子テレポーテーションを通じ、距離に関係なく瞬時に接続を可能にする、量子もつれ光子対を生成します」と説明しています。 Ciscoは量子ネットワークエンタングルメントチップの優れた点について、以下の4点を挙げました。
・既存のインフラストラクチャーで動作可能
標準的な通信波長で動作するため、既存の光ファイバーインフラストラクチャを活用可能です。・実用展開
量子ネットワークエンタングルメントチップは小型フォトニック集積回路(PIC)として室温で機能し、既存のスケーラブルなシステム展開に適しています。・エネルギー効率
消費電力は1mW未満です。・高性能
出力チャネル当たり100万の高忠実度量子もつれ光子対で、チップ当たり毎秒最大2億量子もつれ光子対を生成可能です。Ciscoのイノベーション・インキュベーターであるOutshiftでヴァイスプレジデントを務めるビジョイ・パンディ氏は、ロイターに対して量子ネットワークエンタングルメントチップについて「活用事例はたくさんある」と語っており、具体的には「金融機関が取引のタイミングを同期させる作業」や「科学者が引責を発見する作業」などが挙げられています。 これに加えて、CiscoはサンタモニカにCisco Quantum Labsを開設することを発表しました。Cisco Quantum Labsは理論的な概念と実用的な実装を橋渡しする量子ネットワークソリューションを実験できる場として機能する研究所となります。 なお、Cisco Quantum Labsのアプローチについては、分散型量子コンピューティングシステムに必要なアーキテクチャを概説した以下の論文でも詳しく説明されています。
[2501.05598] Quantum Data Center Infrastructures: A Scalable Architectural Design Perspective
https://arxiv.org/abs/2501.05598Cisco Quantum Labsでは量子ネットワークエンタングルメントチップのほか、エンタングルメント分散プロトコル、分散量子コンピューティングコンパイラ、量子ネットワーク開発キット、量子真空ノイズを用いた量子乱数生成器など、量子ネットワークスタックのビジョンを完成させるための重要なコンポーネントの研究・開発も進められています。 同時に、Ciscoはポートフォリオ全体にポスト量子暗号(PQC)標準を実装することで、ポスト量子の世界でも従来のネットワークの安全性が確保されることを目指すと記しました。 以下はCisco Quantum Labsの紹介動画です。
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