「超節電生活約10年 原発事故で我らは変わったのか?」稲垣えみ子

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。 【写真】フライパンで焼きミカンを作ったら焦げて柿みたいになったが美味しかった! *  *  * 「世界最悪級の福島第一原発事故を起こした東電が、事故後初めて原発を再稼働することが事実上、決まった」(2025年12月23日、朝日新聞)  結局、あの事故で東電は、国は、我らは、変わったのだろうか。  私といえば、変わったどころか人生が一変した。事故後に始めた超節電生活で月の電気代が300円前後となって約10年。「まだやってるの」と100回ほど聞かれた気がするが、この質問はピントがズレている。質問者は私が何かをガマンしていると決めているのだが、私は心の底から「助かった」と思っているのだ。今の生活を始めていなければ、私は、あれがなきゃこれもなきゃと追い立てられ続ける無間地獄から一歩も抜け出せていなかっただろう。家電という必需品が「なくてもいける」と知ったことは、あらゆることへの失う恐怖からの解放だった。生まれて初めて我が人生に自由と安心が訪れたのだ。  だがここへ来て、事態は新たな局面に入りつつある。

 人々のインターネット依存が高まるにつれ、大量の情報を処理する「データセンター」が必要ってことになってきて、それが大きな電力を食う。そのことが、やっぱり原発動かすしかないという世論を後押ししている。  ってことは私とてそこと無縁ではない。私が今持っている家電は電灯、ラジオ、パソコン、スマホの四つで、どれも大した電力を食わないので今の電気代なわけだが、問題は自分の電気代の話じゃなくなってきたのだ。私とてインターネットには相当依存している以上、自分で電気代を払っていないだけで、そのコストもリスクも他の誰かに押し付けているだけだ。いつの間にか「原発動かすしかない」側に立っているのである。  一体どうすべきか。目指すべきは「インターネット依存からの脱出」だろうが、家電依存からの脱出よりずっと難問に思える。つまりはいつの間にか再び失う恐怖に襲われている。ちょっと前までインターネットなんてなくても全然普通に生活してたのに! いながき・えみこ◆1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。著書に『一人飲みで生きていく』『老後とピアノ』『家事か地獄か』など。初の翻訳本『ピアノが弾けるようになる本』も出す。 ※AERA 2026年1月12日号

稲垣えみ子

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