人工的に日食を起こす「Proba-3ミッション」、生放送あります
約18カ月ごとに月が太陽と完全に重なって、太陽の表面を隠します。数分間続く皆既日食は、普段はまぶしすぎて見えない太陽の最も外側にあるコロナを調査する絶好のチャンスなのだとか。
今回予定されているミッションの目標は、人工衛星2基でこの自然現象を定期的に再現することだそうです。どうやるかって? トップ画像のように、1基が太陽を遮って、もう1基がコロナを観測。100歩譲って思いついたとしても、実現させるのかなりすごくないですか。
欧州宇宙機関(ESA)の二重衛星であるProba-3は、インド宇宙研究機関(ISRO)のPSLV-XLに搭載されて、米東部時間4日午前5時38分(日本時間4日午後7時38分)にインドのシュリーハリコータにあるサティシュ・ダワン宇宙センターから打ち上げられます。
ISRO打ち上げの30分前から、ESA Web TV が現地の様子を生配信するそうですよ。
衛星が2基必要なワケ
2基の衛星は一緒に打ち上げられますが、約18分後に分離し、極めて正確な編隊飛行のデモンストレーションを開始する予定です。衛星は極端な楕円(だえん)の軌道に打ち上げられ、約150mの距離を保ちながら飛行します。ミッションを成功させるためには、衛星間の距離の誤差を1mmの精度で維持する必要があるとのこと。
Proba-3のミッションマネージャーであるDamien Galano氏は、声明で次のように述べています。
2基の衛星がサッカー場1.5個分の距離を保って編隊飛行するProba-3はとてもユニークです。しかも、互いの相対的な位置を6時間にわたって1mmの誤差で維持するんです。
2基の衛星は、1つの巨大な仮想望遠鏡のように機能します。1基がもう1基のために正確に制御された影を落として太陽の光を遮ることで、光学機器を搭載した衛星が太陽のコロナを観測できるようにします。
アクティブ編隊飛行は、地球から約6万km離れた軌道の最上層部で行なわれる予定とのこと。地球からこれだけ離れていれば、衛星が地球の重力の影響をそんなに受けないので、位置を調整するために必要な燃料も少なくすみます。
ESAのFrederic Teston氏は、声明のなかで
初期のシミュレーションでは、スラスター(衛星の姿勢や位置を微調整するための補助的な推進装置)による位置調整を何度も行なう必要があるために推進剤がすぐに尽きてしまい、ミッションが30分ほどで終了してしまうことが判明しました。
と話していますよ。
衛星は、19時間36分かけて地球を1周して、そのうちの6時間をコロナの観測に費やします。Proba-3は、地球から600kmの距離まで接近します。極端な楕円軌道を周回することで、燃料消費を最小限に抑えるそうです。
本当は、太陽と地球のラグランジュ点(2つの天体の重力によって物体が軌道の定位置を維持する点)に配置するのが理想的でなのですが、そのためには大きな予算が必要になるらしく、低予算のProba-3では実現できなかったとESAは述べています。
なぜコロナを研究するの?
コロナの明るさは、太陽の100万分の1しかありません。数百万kmにわたって宇宙空間に広がり、太陽の外層大気の最も外側にあるガス層のコロナには、太陽に関する最大の謎が隠されているといいます。
コロナの温度は約100万度で、これは太陽表面のおよそ200倍です。想像もつかないというかあり得ない熱さですが、天文学者たちは太陽の外層大気がどうやってそんなに熱くなっちゃうのか、まだ解明できていません。
謎だらけのコロナは、宇宙の天気を左右する太陽風とコロナ質量放出を引き起こします。また、宇宙空間に放出されるコロナの荷電粒子は、軌道上の人工衛星や地球上の通信システムに影響を及ぼすこともあります。
Probaミッションって何?
Probaミッションという名称は、PRoject for OnBoard Autonomyの略でもありますが、「やってみよう」という意味を持つラテン語のProbaに由来しているといいます。この低コストの小型衛星ミッションは、宇宙飛行における新しい技術やコンセプトのテストを目的としています。
ESAが打ち上げたProbaミッションは3回で、そのうちの1基は現在も太陽の観測を継続中です。2009年に打ち上げられたProba-2は、太陽同期軌道で2年間運用される予定でしたが、15年以上経過した現在も運用は続いています。みんな丈夫で長持ち。
Proba-3の運用期間も、Proba-2と同じ2年を想定しているとのこと。このミッションで制約になるのはなんといっても推進剤で、6時間の編隊飛行中、10秒ごとに冷ガススラスターで短い噴射を行なう必要があるそうです。
Proba-3の技術実証実験では、2基の小型衛星に科学者チームが寄せる期待はかなり大きいようです。Proba-3ミッションで主要な観測機器の主任研究員を務めるAndrei Zhukov氏は、声明で以下のようにコメントしています。
初めてProba-3の話を聞いたとき、まるでSF映画に出てくる技術のように思えました。でも、実際の設計は、素晴らしい科学的成果をもたらすことでしょう。
スケールが大きいのにやることは正確無比というこのイメージを表現する言葉が見つかりません…。