AIブームが切り開き牽引する、新たな「原子力発電」の時代(Forbes JAPAN)
人工知能(AI)革命、生成AIの最大のボトルネックは、半導体ではなく「電力」にある。データセンターが消費する膨大なエネルギーを賄うには、天候に左右される風力や太陽光だけでは不安定すぎるからだ。この物理的な制約に対し、米国では「原子力回帰」が現実解として急浮上している。 エネルギー安全保障とAI覇権、脱炭素。そしてトランプ政権による強力な優遇策、シリコンバレーの豊富な資金力がこの流れを決定づけた。すべてのピースが噛み合った今、野心的な起業家が、工場で量産可能な「小型原子炉」の開発に数十億ドル(数千億円)を投じている。かつて敬遠された原子力技術は、AI時代を支える無限の可能性を秘めた投資対象へと変貌を遂げた。 ■AI電力需要の急増と小型原子炉、Aaloを筆頭に新興企業が動き出す 米テキサス州オースティン南部にある約3700平方メートルのAalo Atomics(アーロ・アトミックス)の組み立て工場では、作業員が厚さ約16ミリの鋼板を、ゆっくりと曲げて直径約3.7メートルの円筒に加工し、高さ約7.6メートルの容器に溶接している。この工程は本来であれば、外部業者に委託したほうがコストを抑えられる。しかし、共同創業者兼CEOのマット・ロザック(35)は、最終的にこの容器が10メガワット(MW)級の核分裂炉の心臓部を収めることになるため、内製化を選択した。Aaloが開発する「Aalo-1」炉は5基を連結して稼働し、1基の50MWタービンを駆動する。ここから生まれる電力は、大型データセンター1棟、あるいは約4万5000世帯の電力をまかなえる規模だ。 ●期限は米国建国250年の2026年7月4日、トランプ大統領「先進原子炉の設計が実際に機能することを証明せよ」 「これは机上の空論ではない。実際に建設が進んでいる原子炉だ」と、カナダ出身エンジニアで、今回が3社目の起業となるロザックは語る。Aaloは2025年8月、米エネルギー省アイダホ国立研究所(INL)の敷地内で実験炉の建設を開始した。ここで同社は、2026年7月4日までに、原子炉を自立的な連鎖核分裂が続く「臨界状態」に到達させる計画だ。トランプ大統領は、米国建国250年でもあるその日までに、少なくとも3社の米企業に対し、「先進原子炉の設計が実際に機能することを証明せよ」と課している。臨界を実現するためにAaloは、商用規格の燃料棒アセンブリを容器に装填し、核分裂の連鎖反応が自立して続く状態を作る必要がある。 しかし、同社が実際に電力を生み出すまでの道のりはまだ長い。Aaloは臨界を達成した後も製造体制やサプライチェーンの構築、データセンター企業との契約、そして原子力規制委員会(NRC)の最終承認という難関を次々にクリアしなければならない。 「工場を本格的に立ち上げて、コスト曲線を下げて、究極のゴールである製品に仕上げるつもりだ」とロザックは語る。彼は現在、大規模な量産工場の用地を探しており、最近ではスペースXでFalcon 9の製造責任者を務めたブライソン・ジェンティルを採用し、量産体制構築を任せた。「イーロン(マスク)は、電気自動車とロケットで、不可能だと思われていたことを実現した。そういう瞬間が訪れると、周囲はそれが可能であることに初めて気づく」と語るロザックは、2027年には原子力による発電を開始したい考えだ。 ■AIブームが牽引する電力需要の急増、小型炉スタートアップへ巨額資金が流入 AIブームを支えるデータセンターが、膨大な電力を必要とすることを受けて電力需要は急騰している。そして、こうしたAIマネーの波に乗ろうとしているのは先述のロザックだけではない。Valar Atomics(ヴェイラー・アトミクス)、Oklo(オクロ)、Kairos Power(カイロス・パワー)、X-energy(エックス・エナジー)など十数社が、次世代原子炉の開発でしのぎを削っている。これら企業は、単体のデータセンターを動かしたり、より大規模な電力を電力網へ供給したりできる、小型でプレハブ型の原子炉の実用化を目指している。 2025年に入りベンチャーキャピタルや株式市場の投資家、ビリオネア、米エネルギー省(DOE)などから、こうした新興の米原子力企業に流れ込んだ資金は40億ドル(約6240億円。1ドル=156円換算)を突破し、2020年の5億ドル(約780億円)の約8倍にも膨らんだ。しかし、原子力が本格的に復権するには数百億ドル(数兆円)単位の資金が必要になる。 創業2年のAaloはこれまでに1億3600万ドル(約212億円)を調達しており、そのうち1億ド(約156億円)ルは2025年8月に確保した。同社の調達を主導したのは、テスラ初期の機関投資家の1つのValor Equity Partnersだ。Valorを率いるビリオネア、スペースXの取締役アントニオ・グラシアスはフォーブスに対し、Aaloの成功見込む理由について「製造と垂直統合に徹する姿勢が、テスラが電池や電気自動車(EV)、ロボティクスで貫いたアプローチに通じるからだ」と語った。 ■電力価格の上昇、天然ガスや再エネの制約、AIデータセンター需要が原子力への回帰を後押し これら企業すべてが成功するわけではないが、原子力が復権する条件は揃いつつある。OpenAIのサム・アルトマンは、「今後8年で250ギガワットの電力が必要になる」と述べており、これはブラジル1国の消費量に相当する。より現実的な予測でも、2030年までにデータセンターの電力消費は現在の約40GWの2倍に達する見通しだ。 ●産業用電力価格の上昇と天然ガス依存、需要の先行で電力市場に供給ギャップが生じる 現在の産業用電力価格(1キロワット時あたり約9セント)で計算すれば、40GWの年間コストは320億ドル(約5兆円)になる。だが需要の伸びが発電能力の増加を上回れば、価格は上昇する可能性が高い。アナリストは、増加する需要の6割程度を天然ガス火力が補うと見ているが、そのタービンは現在、納期が4年待ちの状態だ。 石炭は、トランプが「美しくてクリーンだ」と言い続けているにもかかわらず依然として敬遠されている。風力や太陽光は、データセンターが求める24時間365日の安定供給には向かず、トランプの攻撃対象でもある。こうした巨大な供給ギャップこそが、原子力スタートアップにとって最大のチャンスになっている。 「世界が必要とするエネルギーの量は、さらに増える。だから、この分野には巨大なチャンスが広がっている」。そう語るのは、ガス冷却型原子炉を手がけるX-energyの創業者、イラン生まれのビリオネア、カマル(カム)・ガファリアンだ。同社は、メリーランド州ロックビルを拠点とするスタートアップである。