アングル:一躍脚光のディープシーク、創業者が目指すのは中国の技術革新
[北京 28日 ロイター] - 世界の株式市場や人工知能(AI)関連業界に衝撃をもたらした中国の新興企業ディープシーク(深度求索)。創業者の梁文鋒氏(39)は中国ハイテク産業の顔として、また米国による厳しい輸出規制を乗り越える希望として、彗星のように表舞台へ登場した。
今月20日に李強首相が開催した非公開のシンポジウムで意見を求められた出席者9人の1人として紹介されるまで、梁氏の存在はほとんど知られていなかった。2023年と昨年に中国メディア「Waves」のインタビューを受けた以外では、ほとんど公の場に姿を現してこなかったためだ。
中国中央テレビで放映されたシンポジウムの映像や動画を見ると、ミレニアル世代の梁氏の若さは居並ぶ白髪の学者や当局者、国営企業トップらと好対照をなしている。しかし、首相が政府の方針に関して意見を求めようと梁氏を招待したという事実は、ディープシークこそが世界のAI開発を巡る構図を中国有利な方向に一変させる役割を果たす潜在力を持っていると当局が認識していることを浮き彫りにした。
一方、梁氏が率いるディープシークは意図的にアプリ開発を避け、オープンAIと同等またはより高性能のモデル創出に向けて優秀な研究者と資源を集中。今後も消費者や企業用のAI製品を企業が構築する際に使う最先端のモデル開発を重視したい考えだ。
この手法は、スマートフォン用アプリから電気自動車(EV)まで外国由来の革新的技術を活用し、本家よりもずっと素早く量産化にこぎ着けるのを得意としてきた中国のハイテク産業において異色と言える。
梁氏は昨年7月のWavesのインタビューで「中国のAIが永遠に追随者の立場に甘んじることは許されない。中国製AIと米国の差は1-2年だとわれわれはしばしば口にするが、実際のギャップはオリジナルと模倣の間にある」と語った。
こうした発言からは、中国のハイテク産業が基本的な研究開発の突破口を開く上で、不足しているのは資金ではなく自信だ、との梁氏が考えが伝わってくる。
<チャレンジ精神が原動力>
梁氏はこのインタビューで「過去30年間(中国のハイテク産業は)収益化だけを強調し、イノベーションは無視してきた。イノベーションはビジネスのほか、好奇心や創造意欲にけん引される」と説明した。
1月28日、世界の株式市場や人工知能(AI)関連業界に衝撃をもたらした中国の新興企業ディープシーク(深度求索)。創業者の梁文鋒氏(39)は中国ハイテク産業の顔として、また米国による厳しい輸出規制を乗り越える希望として、彗星のように表舞台へ登場した。写真は中国の旗とディープシークのロゴ。同日撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
ディープシークは、オープンAIと異なり、全てのモデルをオープンソース方式にすることを決めている。基本コードは開発者なら誰でも利用可能で、自由に修正できる。
米ハイテク産業関係者らは、カリフォルニア州のシリコンバレーが中国勢に対して優位を維持してきた理由の1つとしてこのオープンソースの文化を挙げてきた。梁氏もその姿勢を受け入れたことがうかがえる。
梁氏は「オープンAIがソースを非公開にしても、他社のキャッチアップを止めることは不可能だ。オープンソースはビジネス慣行というよりも文化的慣行で、これを採用する企業はソフトパワーを手に入れる」と言及している。
1980年代から90年代にかけて中国で先駆けて資本市場経済を取り入れてきた南部広東省で育った梁氏は、勉強よりも起業を重視する人々に囲まれていたが、自身は学術志向が強かった。
17歳で名門の浙江大学に入ると電気通信工学を専攻。2010年に情報通信工学の修士号を取得した。
15年には複雑な数式のアルゴリズムを利用するクオンツ投資のヘッジファンドを共同で創業。21年末にはファンドの資産を1000億元(137億9000万ドル)余りにまで膨らませた。
ところがこのファンドは23年4月、活動を投資業界の外に広げ、汎用AI(AGI)開発に資源を集中すると発表。その翌月にディープシークが誕生した。
オープンAIの定義に基づくと、AGIとは経済的価値を有する作業の大半で人間の能力を超える自律的なAIを指す。
ディープシークの従業員は、中国のトップクラスの大学の卒業生や博士課程の研究者が中心となっている。梁氏の見方では、彼らはAI開発における最大の課題に取り組めるからこそ、ディープシークへの就職を望んだ人々だ。
梁氏は昨年7月に「何が最優秀の人材を引きつけるのかと言えば、世界で最も困難な問題に取り組むことであるのは間違いない。われわれの目標は引き続きAGI(の実現)に向けられている」と語っていた。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab