家族性高コレステロール血症が、脳の病気と関係、脳小血管病のリスクに|プレスリリース|広報活動|国立循環器病研究センター
2025年7月14日
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の服部頼都:認知症先制医療開発部特任部長/脳神経内科医長、猪原匡史:副院長・脳神経内科部長、西村邦宏:予防医学・疫学情報部 部長、村田博朗:脳神経内科研修生(現:山梨大学脳神経内科)、大阪医科薬科大学 斯波真理子教授、島根大学脳神経内科 長井篤教授、山口修平名誉教授らは、国立循環器病研究センターを受診された家族性高コレステロール血症の患者とヘルスサイエンスセンター島根での脳ドック受診者の脳MRIを比較する研究を行い、家族性高コレステロール血症が脳卒中や認知症に関連する脳小血管病注1)の特徴である脳微小出血とラクナ注2)の独立したリスクであることを明らかにしました。
背景
家族性高コレステロール血症は、本邦でよくみられる遺伝性疾患の一つであり、日本で500人に1人、欧米では100~250人の1人の割合で発症します。この病気では、LDLR遺伝子変異、PCSK9遺伝子変異、APOB遺伝子変異のために、出生時から悪玉コレステロールである高LDLコレステロール値が高くなります。このため、患者は若い年齢で心筋梗塞・狭心症などの冠動脈疾患を発症します。しかし、家族性高コレステロール血症と脳血管障害との関連は定まっていません。 脳小血管病は、年を取るにつれて増える、様々な病因により脳の細い血管に異常を来す病気のグループで、病理学的には様々なタイプが見られ、脳MRIで観察できます。この脳小血管病は、脳卒中と認知症の主な原因になるため、早期に発見することが、脳卒中や認知症の予防につながります。
研究手法
2006年11月~2021年4月にかけて、国立循環器病研究センター内分泌・脂質代謝内科で脳MRIを施行された家族性高コレステロール血症患者151名と、2000年12月~2010年12月におけるヘルスサイエンスセンター島根での脳ドック受診者3,172名が対象でした。脳小血管病のMRI所見である、ラクナ、脳微小出血、血管周囲腔の拡大、大脳白質高信号域の存在と重症度を比較し、さらに、脳小血管病の重症度を0〜4点の範囲(点数が高いほど重症)で包括的に評価するトータルSVDスコア(SVDはsmall vessel disease、小血管病)の比較も行い、家族性高コレステロール血症が脳血管障害の一病型である脳小血管病のリスクであるかどうかを明らかにすることを目的としました。
成果
家族性高コレステロール血症と脳小血管病のMRI所見の有無を解析したところ、家族性高コレステロール血症は、ラクナ(オッズ比 1.60、95%信頼区間 1.03–2.51、p = 0.036)、脳微小出血(オッズ比 9.42、95%信頼区間 5.81–15.28、p < 0.001)の発現の独立したリスクであることがわかりました。さらに、家族性高コレステロール血症とラクナ、脳微小出血、トータルSVDスコアの重症度(病変数、スコア数)との関連を検討したところ、ラクナ(健常者の1.67倍の病変数、95%信頼区間 1.17–2.31、p = 0.003)、脳微小出血(健常者の6.95倍の病変数、95%信頼区間 4.34–10.83)、p < 0.001)、トータルSVDスコア(健常者の1.33倍のスコア、95%信頼区間 1.05–1.67、p = 0.017)であり、家族性高コレステロール血症は重症度においてもラクナ、脳微小出血と独立したリスクであり、脳小血管病の包括的な重症度も高いことが明らかとなりました(図)。
(図)家族性高コレステロール血症(FH)と脳小血管病のなかの脳微小出血とラクナは、有意に関連していました。今後の展望
本研究の解析結果から、家族性高コレステロール血症は脳小血管病のリスクであることが判明し、家族性高コレステロール血症と脳血管障害との関連の一端を明らかにしました。このため、家族性高コレステロール血症患者においても脳卒中、認知症の予防が重要となるため、一次予防のために脳MRI撮影、他の血管危険因子(高血圧症、糖尿病など)のコントロールが重要です。今後は、家族性高コレステロール血症が実際に脳卒中発症と関連があるかどうかを、検討する必要があります。
※本研究成果は、米国心臓協会機関誌「Stroke」オンライン版に2025年6月26日に掲載されました。
注釈
注1)脳小血管病(SVD: small vessel disease) 脳小血管病は、脳の細い動脈・静脈や毛細血管が障害されることで、脳の循環や代謝の維持が難しくなり、脳に病変ができたり、脳の機能が低下する病態です。脳小血管病による脳病変は、加齢に伴って脳MRIで観察され、脳卒中のリスク因子であり、また、認知症の主要原因のひとつでもあります。脳MRIで見られる脳小血管病の病変としては、ラクナ、脳微小出血、大脳白質高信号域、血管周囲腔の拡大などが代表的です。
注2)ラクナ 脳梗塞のなかで、脳の深い部分を流れている細い血管が詰まることで起こる小さな脳梗塞(径15mm)のことです。
発表論文情報
著者:村田博朗、服部頼都、野田浩太郎、堀美香、尾形宗士郎、中奥由里子、森田佳明、西村邦宏、長井篤、斯波真理子、山口修平、猪原匡史 題名:Familial hypercholesterolemia, as an independent risk of cerebral small vessel disease 掲載誌:Stroke
DOI:10.1161/STROKEAHA.124.050070
研究実施機関
代表機関名:国立研究開発法人国立循環器病研究センター 代表者名(所属・役職):猪原匡史(副院長、脳神経内科部長)、服部 頼都(認知症先制医療開発部 特任部長・脳神経内科 医長)
謝辞
本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
- AMED循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業「脳卒中における循環器病感受性遺伝子の役割解明とゲノム医療の探索」により支援されました
【報道機関からの問い合わせ】
国立研究開発法人国立循環器病研究センター 企画経営部広報企画室TEL : 06-6170-1069 (31120) MAIL: [email protected]
最終更新日:2025年07月14日