「複雑」な豊田織TOBスキーム、少数株主が阻止するにはハードルも

大型の買収・非公開化案件として注目されていた豊田自動織機の株式公開買い付け(TOB)価格が公式発表前の株価を下回ったことを受け、株価は4日の取引で大きく下落した。少数株主の一部から不満の声が出たとしても、トヨタグループ各社が同社株の4割以上を保有していることなどから阻止へのハードルは高そうだ。

  豊田織は3日、TOBに関する55ページの資料を公表。トヨタ不動産傘下での新会社設立や、トヨタ創業家出身で同社会長を務める豊田章男氏による出資など複数の段階を踏み、臨時株主総会を経て少数株主の株式を強制的に買い取るスクイーズアウトの手続きを完了させる計画を明らかにした。

  アナリストのトラビス・ランディ氏は、投資分析情報サイト「スマートカルマ」に配信したリポートで「非常に複雑」な発表内容を精査した結果、買い付け価格が割安なことを理由に「このディールは豊田織の少数株主にとって単純に悪いものだ」との結論に至ったと述べた。

  ただ、豊田織株の多くをトヨタをはじめとするグループ各社が保有しており、買収・非公開化を防ぐハードルは高い。豊田織の株主総会招集通知に記載されている同社の大株主であるトヨタ、トヨタ不動産、豊田通商デンソーアイシンの持ち分を合計すると42.17%になる。単純に考えるとトヨタ陣営は残りの2割強を集めれば、株式併合によるスクイーズアウトの決議に必要な3分の2以上を確保できる。

  ランディ氏はトヨタ陣営の計画を阻止するには、約1億200万株がTOBに応募しない必要があると指摘。信託などパッシブ株主の保有分を除いた約3930万株と買い付け予定価格を基にすると約6400億円に相当するとした上で、阻止には約45億-55億ドル(約6480億-7920億円)が必要になるとの見方を示した。

  企業統治(コーポレートガバナンス)や資本効率の向上を求める投資家の声が高まる中、日本企業の間では親子上場や株式持ち合い解消の動きが広がっている。豊田織TOBは2023年3月に発表された東芝を上回る国内最大の非公開化案件で注目度も高く、ディスカウントととらえられる価格でTOBを強行すれば少数株主の保護をないがしろにしたと見なされる可能性がある。

  英調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエイツのアナリスト、ジュリー・ブート氏もTOBの立て付けの複雑さを指摘した上で、TOB価格には豊田織の「企業価値が十分に評価されておらず、少数株主が損を受ける可能性がある」と断じる。

  ただ、投資家からの今回の案件に対する批判やTOB価格への不満を考慮すると、「価格の見直しが検討される可能性は排除できない」とみる。

  トヨタ執行役員でトヨタ不動産取締役も務める近健太氏は3日に開いた説明会で、買い付け価格について織機の「本源的価値というものを十分に考慮したものだ」と説明。買収計画が最初に報道される前の株価を上回っており、中長期的な株主には、「十分なプレミアムによる売却機会を提供できるものだ」と強調した。  

  ランディ氏は今回の件が実現するかどうかは判断が難しいが「海外の投資家の反応次第だ」との見方を示し、アクティビストが乗り出してくる可能性も示唆した。

  豊田織の株価は4日の取引で一時前日比13%安の1万5975円と昨年8月5日以来の日中下落率となった。3日の終値はブルームバーグの記録に残る1974年9月以来の高値となる1万8400円を付けており、発表されたTOB価格を約11%下回る水準となった。

  一方、リブラ・インベストメンツの佐久間康郎代表取締役は、「TOB価格はプレミアムで決まるのが当たり前」と述べた上で、「トヨタグループはこれがフェアバリューだと、これ以上価格は動かさないと一般株主に突き付けているように見える」とし、価格引き上げの可能性は低いとの見方を示した。

  SBI証券の岩井徹シニアアナリストは4日の豊田織の株価が買い付け予定価格前後まで下落したことを受け、「TOBが達成できる公算は高まっている。ただ、海外投資家を中心に相当反発があるだろう」との見方を示した。TOBまではまだ約6カ月あり、同氏は「まだ紆余(うよ)曲折があるのではないか」と述べた。

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