内輪でしかウケない「内輪ネタ」は脳の報酬系を活性化する
共通の知り合いやかつて一緒に経験した出来事をネタにした「内輪ネタ」は、他の人が聞いたらまるで面白みがないものの、当人たちにとっては何より笑えるもの。組織行動の心理学の専門家によると、内輪ネタは脳の報酬系を活性化し、社会的な安心感や帰属意識を引き起こす可能性があるそうです。
Why We Like Inside Jokes | Psychology Today
https://www.psychologytoday.com/us/blog/possibilitizing/202505/why-we-like-inside-jokes整ったストーリーテリングや「フリとオチ」があるお笑いと違って、内輪ネタの面白さは論理的ではなく、「分かる人には分かる」という閉鎖的な性質を持ちます。そのため、自分には理解できない内輪ネタを好ましく思わない人や、内輪でしかウケないジョークを避けようと思う場合もあります。 組織行動の専門家であるリンジー・ゴドウィン氏によると、内輪ネタは心理学的には「文化的な速記(cultural shorthand)」のような役割を果たすそうです。文化的な速記とは、ある文化に共通した意味や価値観、ステレオタイプなどを簡潔に伝える表現のことで、同じ枠組みでコミュニケーションを取ることで安心感を得られたり、異なる価値観により誤解や偏見の原因になったりします。
内輪ネタは、共通して経験したおかしな出来事や失敗、思い出のフレーズなどが用いられることが多いため、歴史の共有や相互信頼、「仲間」であることの安心感を与えます。ただ面白くて笑えるというだけではなく、コミュニティで認められていると感じさせる効果があります。アリゾナ大学の研究者が進化ゲーム理論を用いてシミュレートした研究では、人間の高い文明を生み出した大きな要因は「他者への共感」であると論じており、内輪ネタは重要なコミュニティの共感力を生み出してくれるとゴドウィン氏は述べています。
人間は道徳観念ではなく「他者への共感性」によって高度な文明を築き上げたという主張 - GIGAZINE
さらに、社会心理学者のバウマスター・ロイ氏とリアリー・マーク氏が1995年に発表した論文によると、所属欲求は人間の根本的な動機であり、内輪ネタは集団に所属しているというシグナルを脳に送るとのこと。このシグナルは脳の報酬系を活性化させ、社会的な安心感を生み出します。
また、ユーモア研究者のロッド・マーティン氏は著書「The Psychology of Humor」の中で、「内輪ネタは、単なる受動的に面白がるものではなく、アイデンティティを積極的に強化するものです」と指摘しています。実際に、看護や教育、救急サービスといった一般的にストレスが多いとされる職業では、くだらないあだ名や内密のジェスチャーなど、内輪ネタが盛んに使われることで、アイデンティティを強化して帰属意識を高めている傾向にあります。
内輪ネタは親しい対面でのやりとりでよく見られますが、オンラインのコミュニティでもしばしば発生します。各SNSや掲示板、特定のオンラインコミュニティでは特有のスラングやミームが流行し、そのコミュニティに慣れた人ではないと会話が理解できないこともよくあります。ゴドウィン氏は、オンラインにおける内輪ネタも、圧倒的な広大さを持つデジタル空間の中で「仲間」とつながることのできる安心感の共有として重要な意味を持つと語っています。
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