オオムギのアルミニウム耐性を担うクエン酸輸送体の構造的基盤を解明
2025年08月05日
◆発表のポイント
- オオムギの根からクエン酸を分泌し、酸性土壌でのアルミニウム毒性を緩和するクエン酸輸送体AACT1タンパク質について、これまで不明だった立体構造を解明しました。
- この構造解析により、クエン酸を輸送する仕組みも明らかになりました。
- 本成果は、AACT1タンパク質の働きを応用すれば、安定して収穫できる作物の開発に役立つことが期待されます。
岡山大学学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所)の菅倫寛教授の研究グループは、同領域(資源植物科学研究所)の馬建鋒教授、三谷奈見季准教授、同領域(異分野基礎科学研究所)の篠田渉教授、浦野諒助教(特任)らと共同で、オオムギ由来のクエン酸輸送体AACT1タンパク質の立体構造を明らかにしました。この立体構造の解析から、AACT1がクエン酸を放出する仕組みの構造的基盤が解明されました。 本研究成果は、日本時間8月5日(火)午前4時(米国東部標準時:4日午後3時)、米国の科学アカデミー発行の機関誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に掲載されます。 酸性土壌では、アルミニウムが溶け出し、植物は生育不良に陥ります。しかし一部の植物は、この環境ストレスを緩和するように進化し、根からクエン酸を分泌する機能を獲得しています。オオムギは、イネや小麦と比べて酸性土壌での生育が難しい作物とされていますが、一部の品種では、AACT1を介して根からクエン酸を分泌することで酸性ストレスを緩和しています。
本研究により、クエン酸を輸送するこのAACT1の巧妙な働きが明らかになりました。植物のアルミニウム耐性を担うタンパク質の立体構造を深く理解し、その機能を精密に制御できれば、酸性土壌でも健全に生育可能な作物の開発につながることが期待されます。
◆研究者からひとこと
このクエン酸輸送体 AACT1 は、馬教授のグループによって発見されたものであり、その構造研究は岡山大学大学院命自然科学研究科に在籍していたベトナム出身の留学生、チャン・グエン・タオ大学院生が、5年の歳月をかけた研究の末に成し遂げた成果です。この輸送体タンパク質のグループは、すでにいくつかの構造が明らかにされていましたが、クエン酸のように負電荷をもつ物質を輸送するタイプの立体構造は、長らく未解明のままでした。 本研究は、彼女の粘り強い努力と、共同研究者の多大な支援のもとで実現された成果です。 菅教授■論文情報 論 文 名:”Structural insights into a citrate transporter that mediates aluminum tolerance in barley” 「オオムギのアルミニウム耐性に関わるクエン酸輸送体の構造的知見」 掲 載 紙:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 著 者:Tran Nguyen Thao, Namiki Mitani-Ueno, Ryo Urano, Yasunori Saitoh, Peitong Wang, Naoki Yamaji, Jian-Ren Shen, Wataru Shinoda, Jian Feng Ma, and Michihiro Suga D O I:10.1073/pnas.2501933122 ■研究資金 本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金「特別推進研究」(課題番号:JP16H06296)、「基盤研究S」(課題番号:JP21H05034)、「基盤研究B」(課題番号:JP23K27143)、JST・創発的研究支援事業JPMJFR230W、日本学術振興会・論博事業等の支援を受けて実施しました。 <詳しい研究内容について>
オオムギのアルミニウム耐性を担うクエン酸輸送体の構造的基盤を解明
<お問い合わせ> 岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(異分野基礎科学研究所) 教授 菅 倫寛(すが みちひろ) (電話番号)086-251-7877 岡山大学 学術研究院先鋭研究領域(資源植物科学研究所) 教授 馬 建鋒(ま けんぼう) (電話番号)086-434-1209図1. クエン酸輸送体タンパク質AACT1の立体構造とその中央部に見つかったくぼみ