4億5300万光年先からのX線放射 恒星がブラックホールに破壊される「潮汐破壊現象」を観測か

こちらは、「ハッブル宇宙望遠鏡(HST)」が観測した楕円銀河「NGC 6098」(右上)と「NGC 6099」(左下)。

ヘルクレス座の方向、約4億5300万光年先にある銀河です。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した楕円銀河「NGC 6098」(右上)と「NGC 6099」(左下)。NGC 6099の右側にある紫色はチャンドラX線宇宙望遠鏡の観測データを重ねたもの(Credit: Science: NASA, ESA, CXC, Yi-Chi Chang (National Tsing Hua University); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))】

NGC 6099の右側を見ると、紫色に着色された円形の部分があるのがわかりますか?

これは、NASA=アメリカ航空宇宙局のX線宇宙望遠鏡「チャンドラ(Chandra)」の観測データを重ねたもの。

その中央付近には、観測例が少ない「中間質量ブラックホール」が存在するのではないかと考えられています。

発見が難しい「中間質量ブラックホール」

ブラックホールを質量の違いで分類する場合、太陽の数倍~100倍程度は「恒星質量ブラックホール」、太陽の数百万倍~数十億倍は「超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)」と呼ばれています。

そして中間質量ブラックホールはその名の通り、恒星質量ブラックホールと超大質量ブラックホールの中間にあたる、太陽の数百倍~数十万倍の質量のブラックホールです。

ブラックホールそのものを電磁波で観測することはできませんが、周回しながら落下する過程で高温になった物質から電磁波が放射されるため、X線などで観測すると間接的にその存在を捉えることができます。

恒星質量ブラックホールは連星をなす恒星から、超大質量ブラックホールは周囲から物質が流れ込むことがあるため、この方法で観測することが可能です。

しかし、中間質量ブラックホールは超大質量ブラックホールほどにはガスや星を取り込むことがないため、発見するのが難しいとされています。

中間質量ブラックホールによる潮汐破壊現象が観測された可能性

2009年、チャンドラはNGC 6099の近くにX線で明るい天体を発見。

ESA=ヨーロッパ宇宙機関のX線宇宙望遠鏡「XMM-ニュートン(XMM-Newton)」も加えて「NGC 6099 HLX-1」(以下「HLX-1」)と呼ばれるこの天体の追跡観測を行ったところ、放出されるX線の明るさが2012年にピークを迎え、2023年にかけて減少していく様子が捉えられました。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した楕円銀河「NGC 6098」(右上)と「NGC 6099」(左下)。NGC 6099の右側にある紫色はチャンドラX線宇宙望遠鏡の観測データを重ねたもので、拡大図が添えられている(Credit: Science: NASA, ESA, CXC, Yi-Chi Chang (National Tsing Hua University); Image Processing: Joseph DePasquale (STScI))】

台湾・国立清華大学のYi-Chi Changさんを筆頭とする研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡の観測でHLX-1の周囲に小さな星団が存在する証拠が見つかったことや、検出されたX線放射の温度をもとに、ブラックホールに接近した恒星が潮汐力で破壊される「潮汐破壊現象」が観測されたと考えました。

その上で研究チームは、NGC 6099の中心から約4万光年離れているHLX-1は銀河中心の超大質量ブラックホールではなく、中間質量ブラックホールの候補だと指摘しています。

今後は広範囲を短期間で観測できる、南アメリカのチリに建設されたベラ・ルービン天文台の「シモニー・サーベイ望遠鏡」のような望遠鏡によって、いつどこで検出できるかわからない突発的な現象がより多く捉えられることで、潮汐破壊現象だけでなく、形成過程がはっきりわかっていない中間質量ブラックホールに関する情報がさらに得られるようになると期待されます。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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