アメリカ産ビールから安全基準値超えのPFASが検出される

サイエンス

フライパンのコーティングやファストフードの包装紙に使われるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、分解されにくく長期にわたり環境中に残留するため、「永遠の化学物質」と呼ばれて環境や健康への影響が問題視されています。新たな研究では、アメリカで販売されている一般的なビールから、環境保護庁(EPA)が定めた基準値を超えるPFASが検出されたと報告されました。

Hold My Beer: The Linkage between Municipal Water and Brewing Location on PFAS in Popular Beverages | Environmental Science & Technology

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.4c11265

Research reveals ‘forever chemicals’ present in beer - American Chemical Society https://www.acs.org/pressroom/presspacs/2025/may/research-reveals-forever-chemicals-present-in-beer.html

'Forever Chemicals' Found in Popular US Beers, Above EPA Limits : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/forever-chemicals-found-in-popular-us-beers-above-epa-limits

PFASはアルキル鎖に複数のフッ素原子が結合した有機フッ素化合物の総称であり、合計で約1万2000種類ものタイプがあると推定されています。はっ水・はつ油性や熱への耐性が高いPFASは、フライパンのコーティング・消化剤・食品の包装紙・電子機器などに広く利用されています。

しかし、これまでの研究によってPFASは長期間にわたって環境に残留することが知られており、近年はその有害性に注目が集まっています。PFASが及ぼす健康への悪影響についてはよくわかっていない点が多いものの、特にペルフルオロオクタン酸(PFOA)ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の2種類は、がん先天性欠損症のリスク増加といった問題に関連しているとのこと。

2023年の研究では、軍人や消防士の精巣がんリスクと消化剤の泡に含まれるPFASが関連していることが報告されています。

「永遠の化学物質」ことPFASと軍人に多い精巣がんとの関連が明らかに - GIGAZINE

PFASによる汚染はアメリカを含む世界中に広まっており、地表の水や地下水だけでなく、地方自治体が供給する水道水からもPFASが検出されています。そこで、アメリカの非営利団体であるResearch Triangle Instituteの研究チームは、製造に水道水を利用する「ビール」にもPFASが含まれているのではないかと考えました。研究リーダーのジェニファー・ホポニック・レドモン氏は、「私自身、たまにビールを飲むことがあるので、水道中のPFASがビールに浸透しているのではないかと疑問に思いました」と述べています。

研究チームは2021年に、アメリカ南東部のノースカロライナ州にある酒屋で、23種類のビールをそれぞれ5缶以上購入し、ビールの中にPFASが混入しているのかどうか、混入している場合はどの程度の量が含まれているのかを調査しました。購入したビールの内訳は、ノースカロライナ州の醸造所で作られたビールが10種類、ミシガン州コロラド州カリフォルニア州のビールが2種類ずつ、マサチューセッツ州ペンシルベニア州ウィスコンシン州ミズーリ州のビールが1種類ずつ。残りはアメリカ国外のビールで、オランダのビールが1種類、メキシコのビールが2種類でした。

分析の結果、テストされたほぼすべての缶から、少なくとも1種類のPFASが検出されました。特に、ノースカロライナ州のケープフィア川上流域にある醸造所で作られた2種類のビールと、ミシガン州の醸造所で作られた1種類のビールは、EPAが定めた上限を超える量のPFOAが含まれていました。また、ケープフィア川下流域にある醸造所で作られた1種類のビールは、EPAが定めたPFOS濃度の上限を超えていたと報告されています。 以下の図は、今回テストが行われたビールの醸造所の位置を示したもの。Aにはアメリカおよびメキシコにある醸造所の位置が、Bにはオランダの醸造所の位置が示されています。Cは特にビールの種類が多かったノースカロライナ州の醸造所を示したもので、同じノースカロライナ州産のビールであっても、水色で示されたケープフィア川流域の醸造所で作られたものもあれば、異なる地域の醸造所で作られたものもあることがわかります。

以下は公共の水道水に含まれるPFAS濃度を州ごと(Aがカリフォルニア州、Bがミシガン州、Cがノースカロライナ州)に示し、ビール醸造所の位置を丸い円で表したものです。Dは各州のアメリカにおける位置を示しています。研究チームは、地方自治体の飲料水中に含まれるPFAS濃度と、地元で醸造されたビールのPFAS濃度に強い相関関係があったと報告しています。

研究チームは、「EPAが飲料水中のPFASを検出するために開発したメソッド533を適応し、アメリカの小売店で販売されているビール中のPFASを分析した結果、ビール中のPFASは醸造に使われる都市飲料水中のPFASの種類や濃度と相関していることがわかりました」「ノースカロライナ州のビール、特にケープフィア川流域のビールは、一般的にミシガン州やカリフォルニア州のビールよりも多くの種類のPFASが検出されました。これは、ノースカロライナ州のPFAS供給源の多様性を反映しています」と述べています。 アメリカ産のビールで高いPFAS汚染が見つかった一方で、オランダやメキシコ産のビールではPFASが検出される可能性が低かったことも報告されています。これは、オランダやメキシコがアメリカで見られるほどのPFAS汚染に直面していない可能性を示唆しています。 研究チームは論文で、「私たちの調査結果は、飲料水中のPFASとビールとの間に、強い関連性があることを示しています。地域の飲料水中のPFAS濃度が高い地域で醸造されたビールは、ビール中のPFAS濃度も高く、飲料水がビールのPFAS汚染の主要な経路であることを示しています」と結論付けました。

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