雑草対策に敷き詰めるのは「イチョウの落ち葉」…JR西、除草の負担減・費用削減にも期待
JR西日本が兵庫県内の一部路線で、イチョウの落ち葉を使った雑草対策を始めた。イチョウには、周囲の植物の生育を抑える「アレロパシー」と呼ばれる効果があり、落ち葉を敷き詰めることで光合成を遮る効果と合わせ、雑草の生育を阻害できるという。除草作業の負担が減るため、他の鉄道事業者も注目している。(姫路支局 立花宏司)
線路脇に敷き詰められたイチョウの落ち葉(2月、兵庫県高砂市で)=JR西日本提供取り組んでいるのは、JR西の姫路保線区加古川保線管理室。きっかけは、長浜哲朗室長が2023年夏、長野県の親類宅に遊びに行った際、親戚の高齢女性から「イチョウを植えたら、作物が育たなくなる」と聞いたことだ。
線路脇の雑草は、放置すれば信号を覆うなどして電車の安全運行を妨げる恐れがあり、定期的な除草が必要だ。同室では年3回程度、約3000万円をかけて除草しており、長浜室長はイチョウを雑草対策に活用できないかと思い立った。
アレロパシーに詳しい東京農工大の藤井義晴名誉教授に監修を依頼し、23年12月に山陽線魚住―土山間の約100メートルの区間で実証実験を開始。線路脇の雑草を刈り取り、〈1〉除草剤を散布する〈2〉除草剤を散布し、イチョウを敷き詰める〈3〉除草剤は使わず、イチョウを敷き詰めるのみ――などのエリアに分け、9か月間観察した。
その結果、〈1〉では雑草が生い茂ったが、〈2〉では育たず、〈3〉は〈2〉に比べると一部の草は生えたが、刈り取りが不要な程度だった。厚く落ち葉を敷き詰めた方が雑草の光合成を遮ることができ、成長を抑える効果が大きかった。長期間の効果が確認できたため、除草作業の負担が減り、費用削減も期待できるという。
昨年12月に同保線区で実用化に着手。今年2月中旬までに、加古川市や高砂市の山陽線沿いの4か所でイチョウを敷き詰める作業を行った。1平方メートルを埋めるのに、家庭用のゴミ袋半分程度の落ち葉が必要で、イチョウの木のある県内の学校や寺院に呼びかけて集めたという。
藤井名誉教授は「植物の生育を抑える効果に着目し、捨てられるはずのイチョウの葉を有効活用する取り組みは評価できる」と話す。
長浜室長は「『おばあちゃんの知恵』を生かした取り組みが実用化できて驚いている。地域と連携しながら進めたい」と意気込む。JR西では今後、エリアの拡大を検討するという。
同室の取り組みは他の鉄道事業者からも注目されている。京阪電鉄は同室の実証実験を視察し、今年1月から宇治線の 木幡(こわた) ― 黄檗(おうばく) 間の約60平方メートルで独自に効果の検証を進めている。広報担当者は「イチョウが労力、費用の削減につながれば」と期待する。
同室にはほかに、JR東日本やJR九州、神戸電鉄から視察や問い合わせなどがあるという。