アングル:イラン攻撃で「政治延命」狙うネタニヤフ首相、イスラエルの危険な賭け

 イランはかつて、イスラエルのネタニヤフ首相(写真)を「おおかみ少年」と呼んだ。13日の攻撃で、ネタニヤフ氏は一矢報いた格好だが、自身の政治生命の「延命」という思惑も透ける。写真は5月、エルサレムで代表撮影(2025年 ロイター)

[エルサレム 13日 ロイター] - イランはかつて、イスラエルのネタニヤフ首相を「おおかみ少年」と呼んだ。ことあるごとにイランの核の脅威をあげつらい、それを叩くと主張していたからだ。13日の攻撃で、ネタニヤフ氏は一矢報いた格好だが、自身の政治生命の「延命」という思惑も透ける。

2018年、イランのザリフ外相(当時)は、同国の核開発計画を巡り非難を繰り返すネタニヤフ氏に「そう何度も人をだますことはできない」と言い放った。かつてフランスのサルコジ大統領は「もう彼(ネタニヤフ氏)には我慢できない、彼は嘘つきだ」とオバマ米大統領にこう語ったとされる。

イスラエルのイランへの攻撃について、軍事アナリストからは、イスラム組織ハマスやレバノンのヒズボラが即反撃に動くことが予想されるため実行は難しいという見方が出ていた。

しかしこの2年で状況が変わった。イスラエルはパレスチナ自治区ガザでハマス掃討作戦を実施し、ヒズボラにも壊滅的な打撃を与えた。その意味で、イラン攻撃の「機が熟した」とネタニヤフ氏が判断したと考えられる。

<米国は「塩対応」>

ネタニヤフ氏を取り巻く環境は厳しい。国内では長期化するガザ戦闘に対し厭戦(えんせん)ムードが広がり支持率は低下。内閣解散の危機はかろうじて乗り切ったが政権運営は綱渡りの状態が続く。自らは汚職罪に問われている。ガザ戦闘に続き、イラン攻撃も保身をかけた危険な賭けだ。

それが吉と出るか、凶と出るか、大きなかぎを握るのが米国だ。しかし強力な後ろ盾であるはずのトランプ米政権の反応は今のところ冷ややかだ。ルビオ米国務長官は、イスラエルのイラン攻撃について事前に連絡を受けていたとしたが関与を否定した。

今回の攻撃は、米とイランが核問題で協議を重ねる中というタイミングだ。しかし、ネタニヤフ氏にしてみれば、4月に訪米した際、トランプ氏がイランと直接協議を開始する準備があると表明し不意打ちを受けたという思いがある。

         氏は国民への演説で、第二次世界大戦中のナチスによるホロコーストの恐怖を挙げ、 「ほぼ1世紀前、ナチスに直面した指導者たちは時宜を得た行動を取れなかった」と指摘。 「戦後、ユダヤ人とユダヤ国家は『二度と繰り返さない』と誓った。その『二度と繰り返さない』は今日なのだ。イスラエルは、歴史の教訓を学んだことを示した」と主張した。

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