米空軍は航空優勢を確保しただけ、イランとの戦争には勝利できなかった

Breaking Defenseは2日「米空軍にとって対イラン作戦は歴史上最も成功した失敗だった」「この戦いで問われていたのは『誰がテヘラン上空を支配するか』ではなく、その眼下で繰り広げられる『混乱の戦いに誰が勝つか』であり、航空優勢だけで戦争に勝つことはできない」と指摘した。

参考:Iran was the most successful failure in US airpower history

イラン製の自爆型無人機=Shahed-136やFPVドローンのような小型無人機がウクライナで成果を挙げたため、世界中の国々に「特性の異なる脅威を単一レイヤーで対処する難しさ=多層式防空システムの重要性」「Shahedのような安価な脅威の登場=低空域で対処すべき目標の増加」「前線に大量投入される小型ドローン=低空の戦いの成立」といった課題を突きつけ、米シンクタンクのアトランティック・カウンシルは2022年8月「ハイエンドの有人機が制空権を確保できても有人機が飛行する高度と地上の間に広がる“エア・リトラル=Air Littoral”の戦いは別ものだ」と指摘。

出典:U.S. Air Force photo by Eric Dietrich

米空軍のアルヴィン参謀総長も2024年3月「以前のように航空戦力を増強し『何日も何週間も制空権を維持する』というのはコスト的に無理がある」「必要な時に必要な分だけ『空を支配する』といった現実的で手頃なコストのアプローチが必要だ」「空の心配をすることなく『恒久的に軍事作戦を実施できる』という考え方から転換しなければならない」「空を支配するために制空権を握るのではなく、他の戦力と協調するため空の支配が必要になる」と言及、スライフ副参謀総長も2024年7月「小型で安価な無人機が航空優勢の定義をどのように変えるか再考する必要がある」と述べた。

ダルトン空軍次官も「国防総省、特に空軍省では歴史的に『量よりも質を重視した能力の優れるプラットホーム構築』に重点を置いてきたが、我々が直面するかもしれない戦場で『如何に侵入するか』『如何に敵を混乱させるか』を考えた場合、量自体に独自の質がある可能性がある」と述べ、スライフ副参謀総長も「ネットワーク技術や自動化技術の進歩に加え、AIの登場で空軍の常識的な考え方に変化が生まれている」「もはや1人のパイロットが1つのプラットホームを運用するのではなく1人のオペレーターが高度の自動化された複数のプラットホームを運用することだ」と指摘。

出典:U.S. Air Force photo by Courtesy photo

米空軍大学も2024年9月「エア・リトラルをめぐる争い」という報告書の中で「小型無人航空機システム、移動式防空システム、そして自爆型ドローンの普及は戦争の性格を急速に変貌させており、米国の敵対者は空域を争うための新たな手段を手にしている 。制空権はブルー・スカイ(戦闘機や爆撃機が通常運用される中・高高度のこと)で決まるという伝統的な概念はもはや時代遅れだ。たとえ空軍がブルー・スカイにおける制空権を獲得したとしても、それ以下の高度の空域、つまりエア・リトラルと呼ばれる領域は依然として争われたままだ」と警告。

“米空軍は過去の紛争のほぼ全て制空権もしくは航空優勢を維持してきた誇り高い伝統がある。過去一世紀の大部分において航空制御はブルー・スカイ、つまり戦闘機や爆撃機が運用される中・高高度での戦いで決まると考えられてきた。このブルー・スカイでの優位性を維持するために、空軍はステルス技術や精密誘導兵器に多額の投資を行ってきたが、中国は先進的なレーダーシステムを開発し、世界最大級の先進的な長射程地対空ミサイルを保有しており、米軍機が高高度の聖域を享受することを拒否するのに十分な能力を備えている”

出典:Pratt&Whitney

“さらに伝統的な航空戦力主義者らは将来も過去と同じようになると考え「次世代航空機技術への継続的かつ高額な投資によって優位性を奪還できる」と想定している 。しかし、このブルー・スカイ・バイアスは「航空制御がもはやブルー・スカイの争いだけで決まるものではない」という点を見落としている。ロボット工学、AI、マイクロエレクトロニクスなどの画期的進歩により、大量、小型、安価かつ致死性の高いシステムをエア・リトラルに投入することが可能になった”

“エア・リトラルの戦いは過去の軍事技術革命とは異なり、政府主導ではなく民間セクターが技術的進歩を牽引している 。これらのデュアルユース技術は安価で操作が容易なため急速に普及した。中国のDJIは世界最大の商用ドローンメーカーであり、中国軍はこれらの技術を自律型スウォームなどによる消耗戦に統合しようとしている。従来の航空機は高価で数に限りがあり、燃料や人間の持久力の限界から「空域の占有は一時的なもの」であったが、大量のドローンでエア・リトラルに継続的な侵入を繰り返せば間接的に「空域の持続的な占有」が可能になる”

出典:GA-ASI LongShot UAV

“米空軍の思考と運用に大幅な修正がなされない限り、このエア・リトラルの制御を敵対者や他軍に譲り渡すリスクを負うことになる 。そのため米空軍は制空権の概念や近接航空ミッションを含む航空戦力の概念を再発明し、航空領域の専門家としての目的と役割を果たすべきだ”

防衛省の航空研究センターも2024年10月「低高度空域と航空作戦との関連性:ブレマーらによる航空拒否概念の検証」という報告書の中で「現在のウクライナの状況は最初の大規模なドローン戦争とも呼ばれる状況となっている」「これらのドローンは単なる陸上作戦の支援だけでなく航空作戦においても貴重な存在となっている」「固定翼戦闘機の規模でロシアに劣勢なウクライナにとってドローンはこれを相殺するための貴重な手段となっている」「大型無人機に比べ注目が薄かったドローンは軍事作戦における重要な手段となっている」と言及。

出典:航空研究センター

“ドローンの使用が拡大するとともに、最近ではこれらの活動する高度の重要性が指摘され始めた。既存の航空機と異なりはるかに低高度で活動するこれらは迎撃困難な一方、大量に投入可能とされる。そのため、この高度の使用が今後の軍事作戦に与える影響は大きい。特にロシアによるウクライナ侵略を契機に低高度の空域は、これまでの航空作戦の中心であった固定翼航空機の活動する中・高高度と異なる独自の重要性を持つものと強調されている。エア・リトラル=空の沿岸域とも呼ばれるこの空間の重要性は、いまや米国だけでなく様々な国の論者によって指摘されている”

この話をシンプルに言うと「固定翼機や巡航ミサイルが敵のレーダーを避けて目標に侵入するため低空域を一時的に活用することはあっても、地表から高度3,000mまでの空域=エア・リトラルは制空権を確保するブルー・スカイの概念外で、この空域の防御も監視も重視してこなかった。しかし、第四次産業革命とオープン・イノベーションを活用することでエア・リトラルに小型かつ安価なシステムを大量投入することが可能になって状況が変わった」「いくら次世代航空機技術に投資したところでブルー・スカイの概念は時代遅れになっているため制空権を確保できなくなる」という意味だ。

出典:U.S. Central Command

Breaking Defenseは2日「米空軍にとって対イラン作戦=エピック・フューリー作戦は歴史上最も成功した失敗だった」「米国はイランとの紛争に突入するにあたり『破壊を目的にした航空作戦』については詳細な計画を持っていたが、イランによる『混乱を目的にした航空作戦』についてはまともな計画を一切持っていなかった」と報じた。

“4ヶ月間にも及ぶ対イラン作戦中、イラク侵攻=ショック・アンド・オー作戦以来の激しい空爆作戦が6週間も続いた。この結果がもたらした合意は最終交渉中ではあるものの、よく言っても引き分けであり、多くの点でイランに有利なものとなっている。米国は対イラン作戦中に2つの航空戦を同時に展開していた。すなわち『破壊を目的にした航空作戦』と『混乱を目的にした航空作戦』である。そして米国は最も重要だった後者の戦争に敗れたのだ”

出典:U.S. Central Command

“破壊を目的にした航空作戦とは、米国とイスラエルがイラン上空の高高度空域を掌握し、それを活用して大規模な攻撃を行うことを中心としていた。ステルス機や精密誘導兵器が勝敗を分ける高度2万フィート以上の空域において、米軍はまさに設計通りの能力を発揮した。イラン南部および西部の広大な空域で航空優勢を獲得し、イランの防空網を弱体化させ、イランの従来型海軍の大部分を沈め、ミサイルおよびドローン戦力の一部に打撃を与えた。破壊を目的にした航空作戦は目標に命中した数(DMPI=所望平均着弾点)と破壊した戦力の規模によって評価され、これらの指標に従えば米国は完全に勝利した”

“それでもイランはホルムズ海峡を封鎖し続けることに事実上成功した。それを決定づけたのは『破壊を目的にした航空作戦』ではなく、政治的に耐え難いものになるまで心理的・経済的コストを強いる『混乱を目的にした航空作戦』だった。イランのドローンやミサイルを使用した攻撃は紛争初日からテヘラン上空における米国の航空優勢を阻止することではなく、それを無意味なものにするだけを目的にしていた。イランは高高度空域をほぼ放棄し、軍事力の全てをホルムズ海峡とその周辺=沿岸の低高度空域に投入した”

出典:U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Jonathan Sunderman/Released

“イランの安価なドローンやミサイルは「世界で最も重要なエネルギーのチョークポイント=ホルムズ海峡の通過コストを恐ろしく高価にし、商船にとっても米海軍にとっても危険な場所にできる」と証明した。言い換えれば、イランは『破壊を目的にした航空作戦』に勝利する必要はなく「米国にとって勝利する価値がない」と感じさせる必要があったのだ。 テヘランの戦略は単純な非対称性に基づいていた。つまり人々は「慢性的で増大し続ける不便さ」より「急激な破壊」を許容できるということだ”

“国家の存亡をかけた戦争を戦うイランにとって「破壊」は耐え忍ぶべきものであった。指導者や将軍の殉教、爆撃された飛行場、沈没した艦船は体制の決意をさらに固める材料にしかならなかった。逆に米国は国家の存亡から程遠い「限定的な国益」しか懸かっていなかったため「破壊による不便さ」は避けるべきものだった。米国はイランが封鎖したホルムズ海峡を航空戦力でこじ開けることに失敗したため、米国はより広範な経済的圧力キャンペーンへと戦線を拡大した”

出典:U.S. Central Command

“イランの石油輸出に対する海上封鎖は経済に相応の圧力をかけ『破壊を目的にした航空作戦』では得られなかった優位性を獲得する目的だったが、この封鎖は時間的な持久戦となり、米国はこれに勝てる立場にはなかった。情報機関の評価によれば「イランは海上封鎖に少なくとも90日から120日、あるいはそれ以上耐えられる」と結論づけていた。一方で米国はガソリン価格の上昇を目の当たりにする消費者、自国経済へのコストを計算する欧州諸国やアジア諸国、そして「いつまでこれが続くのか」と尋ねてくる湾岸諸国からの政治的・経済的圧力が蓄積していった”

“イランが『混乱を目的にした航空作戦』で最も多用したのは自爆型無人機のシャヘドで、米国からしてみれば取るに足らない代物だった。低空を低速で飛行し、撃墜が容易でコストも数億ドルではなく数万ドルしかかからない。それでもシャヘドは高価なレーダーや指揮統制施設を破壊し、石油生産を混乱させ、地域全体の港湾や飛行場を攻撃し、イランにとって米軍が余儀なくされた軍事的後退こそが成功の証となった”

出典:U.S. Air Force

“2003年当時の米国は支援機を含む航空戦力をクウェート、カタール、アラブ首長国連邦、バーレーン、サウジアラビアに前方展開させ、空母は地中海やペルシャ湾から作戦を展開していたが、今回の戦いではそれは一変した。イランの攻撃の脅威により、作戦指揮はカタールのアルウデイド空軍基地内にある合同航空作戦センターから移され、空母、ステルス戦闘機、空中給油機はイスラエル、ヨルダン、アラビア海に後退させられた”

“米国は後退した距離からでもイラン全土の目標を攻撃することは出来たが、その距離からでは21マイルのホルムズ海峡を支配することはできなかったのだ。航路を維持するには、近距離で持続的なカバーが必要となり、脅威が到達する前にそれを検知し、素早く対処できる距離に部隊を配置しなければならない。イラン沿岸から発射されたドローンは数分で石油タンカーに到達でき、米軍はこのような『混乱を目的にした航空作戦』に対応する態勢を整えていなかったのだ”

出典:U.S. Central Command

“このギャップを埋めるには米国が組織的に軽視してきた、あるいは開発してこなかった能力が必要となる。例えば比較的低空で長時間滞空できる、多数の兵器を搭載可能な航空機、移動式の防空システム、飛来するドローンやミサイルから艦船を防衛するため大量生産された兵器などだ。これらはまさに『混乱を目的にした航空作戦』に求められる能力で、米国が大規模に投入できなかった能力でもある”

“海峡封鎖が続く中で破壊と混乱のどちらが重要だったかは明白だった。通過船舶の戦争保険は事実上崩壊し、何百隻もの船がペルシャ湾に足止めされる事態となった。世界最強の軍隊はイラン全土の目標を攻撃することはできても、世界で最も重要な航路の安全を保障することはできなかった。イランは局地的な兵器で世界的な影響力を行使する方法を見出したのだ”

出典:U.S. Central Command

“これこそが本紛争の核心となる教訓だ。長距離精密打撃、ステルス、統合防空網を遠距離から解体する能力など『破壊を目的にした航空作戦』に最適化された数十年にわたる調達の選択が、近接した消耗戦を遂行する米国の能力にギャップを残してしまった。米国に欠けているのは生存性や航続距離よりも「持続性と量が重要となる地表もしくは海面近くで使用する安価なシステム」を大量生産する能力だ。イランのシャヘドをコピーしたLUCASは正しい方向性を示しているが、3,000万ドルの契約で数百機のドローンを生産しても数万機を生産するイランのような敵国に対しては依然として圧倒的に不利な状況である”

“この状況を修正するには国防総省がこれまで抵抗してきた調達の選択を優先させることを意味する。すなわち長時間の滞空が可能なドローン、大量の兵器を搭載可能なプラットフォーム、移動式の防空システム、そして大規模配備が可能なほど安価で大量生産された迎撃兵器などだが、本質的なより深い問題は概念的な部分にある。米国は対イラン作戦を開始するにあたり『破壊を目的にした航空作戦』に関する詳細をもっていたが『混乱を目的にした航空作戦』についてはまともな計画を一切持っていなかった”

出典:IMA Media 演習に登場したShahed-136

“高高度で本物の軍事作戦を進行する間、イランのミサイルやドローンは対処すべき厄介事として扱われていた。この誤算によってテヘラン上空の航空優勢は獲得できたものの、この戦いを決定づける本当に重要な領域において敵を打ち負かすことに失敗した。国防総省が好んで戦うシナリオの「後知恵」としてではなく『混乱を目的にした航空作戦』が主要な計画の一部にならない限り、次回も同じ結果を招くだろう”

“現在策定中の枠組み合意は、どちらの航空戦がより重要であったかを示す指標である。イランをさらに激しく、再び強力に攻撃するというトランプの脅しは的を射ていない。米国の航空戦は激しさが足りなかったために失敗したのではない。勝敗を決しない航空戦を優先させたために失敗したのである。爆弾を増やしたところで本当に重要だった戦いに勝つことはできない。問われていたのは「誰がテヘラン上空を支配するか」では決してなかった。常にその眼下で繰り広げられる「混乱の戦いに誰が勝つか」であったのだ。

出典:Командування Повітряних Сил ЗСУ

Breaking Defenseの記事は米空軍のブレマー元大佐(現在はスティムソン・センター所属)が執筆したもので、退役前の2023年1月にはロシアがシャヘドを投入した意図について「これは世界初の空中消耗戦だ」「ロシア軍は航空優勢を確保するため敵防空システムを直接破壊するのではなく、インフラを攻撃することで地対空ミサイルの枯渇を狙っている」「ウクライナは国民を暗くて寒い生活から救うため地対空ミサイルを消耗し続けるか、長期的な成功のため高い代償を支払うかの選択を突き付けている」と述べ、あの段階で「安価なドローンによる長距離攻撃が従来型の防空システムに深刻な問題をもたらす」と見抜いていた稀有な存在だった。

ブレマー元大佐の指摘は「戦争の勝敗を左右する制空権(航空優勢)はブルー・スカイで決まるという伝統的な概念に従った調達を重視しすぎたため、エア・リトラルと呼ばれる領域=低空域の軽視に繋がり、米空軍が得意とする『破壊を目的にした航空作戦』は純粋な軍事的成果で成功を収めても、破壊や不便さを受け入れてしまう相手を屈服させることに繋がらない」「逆に米国は『混乱を目的にした航空作戦』がもたらす不便さや政治的・経済的圧力に耐えらず、軍事的な作戦に成功しても戦争で最も重要な政治的意思の押し付けに失敗した」となる。

出典:U.S. Army photo by Sgt. Luis Garcia

米軍はウクライナでの教訓を取り入れて「安価な自爆型ドローンがもたらす効果」「これを安価に迎撃する手段の重要性」「エア・リトラルと呼ばれる領域での争い」が重要だと認識し、それに対応する様々な対策も講じているが、それでも「安価なミサイルやドローンの脅威は対処すべき厄介事」という認識に大きな変化が起こらず、ブルー・スカイという伝統的な概念を体現する『破壊を目的にした航空作戦』のみで対イラン作戦を開始してしまって屈辱的な失敗を経験したのだ。

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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Central Command

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