被災女性の思いまとめた手記集再び、「ウィメンズネット・こうべ」が出版…30年経た重み伝える

 阪神大震災から30年の節目に合わせ、神戸で活動する認定NPO法人「女性と子ども支援センター ウィメンズネット・こうべ」が被災女性の手記集を出版した。災害時に女性が抱える困難を訴え続けた活動の歩みも記録。「性別を問わず、尊厳ある暮らしが守られる社会を」という代表理事の正井礼子さん(75)らメンバーの願いも込められている。(島香奈恵)

災害と女性に関する数々の本や報告書を出版した「ウィメンズネット・こうべ」。正井さんは「現状を知ってほしい」と語る(神戸市内で)

 同団体は1995年1月の震災直後に「女性支援ネットワーク」を発足させ、物資の配布や電話相談などに取り組み、家や仕事を失ったり、夫からの暴力など家族関係に悩んだりする被災女性らに寄り添った。

 「被災して大変な時に家庭内のもめ事を相談するのはわがままでしょうか」「避難所は更衣室もなく、安心して着替えもできない」「娘が性被害に遭った」。打ち明けにくい思いや切実な訴えを社会に届けようと、会報を通じて64人分の手記を集め、翌年1月に書籍化した。

 今回の手記集「女たちが語る阪神・淡路大震災1995―2024」(ペンコム刊、2200円)は当時の寄稿のうち、42本を再録し、改めて25人に今の思いを寄せてもらった。二つの手記を並べることで30年の重みを伝える構成で、昨年12月に発行した。

 家が全壊し、避難所暮らしを経て神戸を離れた当時40代の女性は、喪失感をつづってから時が過ぎた今も、〈過去の事になっていません〉〈被災した人々を見ると、気持ちが30年前にタイムスリップします〉。わずか数行の寄稿に悲しみがにじむ。

 30代だった女性も家が半壊。仮設住宅では夜が怖くて電気が消せず、いつでも外に逃げ出せるようにパジャマに着替えない日々を送った。その後、看護師となり、東日本大震災の被災地でボランティアに携わったといい、新たな手記では〈生きる意味を 見出(みいだ) す30年間だった〉と振り返る。

 同じく住居が崩れ、30代で離れた地に移り住んだ女性は、今の思いを〈災害や暴力の被害に遭った時、人や社会とのつながりを保つことが傷つきの回復に不可欠と知った〉とつづり、女性を支えるカウンセラーとして活動している。

 日常生活が崩れた中で家事育児や介護を担う負担感。非正規で働く割合が多いだけに職を失いやすい――。被災女性が直面する困難は阪神大震災を機に浮かび上がり、同団体は講演会や集会などで実態を訴えてきた。災害時は性被害やDVが増す恐れがあるとして、被害防止のマニュアルを作成するなど、災害と女性に関する数々の報告書や書籍をまとめた。

 対策が進んだのは2011年の東日本大震災以降で、13年に国が「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を発表。16年には女性への配慮やリーダーシップの重要性が盛り込まれた避難所運営指針も作成された。

 正井さんは「一人ひとりが日頃から、ジェンダー平等の意識を高めることが災害時の対応につながる。防災は日常から始まることを粘り強く伝えていきたい」と話している。

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