苦境で減給宣言も従業員から予想外の反応 市場への支払いができず、最大のピンチに
《経営拡大を目指して奮闘するも、借入金は重くのしかかる。ベテラン従業員の言葉もあり、現状を正直に話した》
まずアキダイの経営がどれだけ苦しいのかを正直に話しました。辞める人もいることは覚悟しました。でも残ってくれた従業員はみんな、「頑張って乗り切りましょう」と言ってくれたのです。会社の雰囲気は良くなっていきました。
《同級生が救いの手を》
ちょうどそのころ、中学校の同窓会があったんです。その席で銀行に勤めている同級生の女性に、うちが組んだローンについて相談しました。彼女の答えは「条件がひどい」でした。
そこで融資先の銀行に条件の見直しをお願いしたのですが、答えは「ノー」。彼女の勤め先の支店長さんが好条件での借り換えを提案してくれたので、乗り換えることにしました。
ところが手続きの前日になって、融資先の重役がやってきた。「どんな条件でものむから、変えないでほしい」と。
お世話になった彼女、そして支店長さんの顔をつぶすのは申し訳なかったので相談したら、支店長さんが「いい話じゃないですか」と言ってくれました。これは本当にありがたかった。こうしてメインバンクを変えることなく、ローンの支払いも楽になったのです。
《2400万円が払えない》
商売には浮き沈みはつきものです。
中央卸売市場が豊洲に移転する前、築地市場(東京都中央区)があったころです。仕入れ先だった築地市場への支払いができなくなってしまいました。その額は2400万円です。
市場の仕入れ代金は通常、加盟している青果信用組合(信組)が立て替え、後で回収することになっています。その代金を用意できなければ、信組からの市場への支払いが止まります。そうなると市場は出入り業者に売り止めを通達します。八百屋にとって、仕入れができなくなることは「死」を宣告されたようなものなのです。
信組からお店に、督促の電話がひっ切りなしにかかってきました。自宅は事務所を兼ねていたので、家に帰ると経理を任せていた母親と妻が「ダメだ―」と話している。このときは最大のピンチでした。
《「みんなで乗り越えましょうよ」の言葉に救われる》
ついに僕は従業員全員を集め、「申し訳ない。給料を下げさせてほしい」と頭を下げました。経営者として非難されると覚悟をしていました。
ところが、みんなの反応は予想外でした。「アキさんをそんな思いにさせてしまってすいませんでした。みんなで乗り越えましょうよ」と、逆に励まされたのです。苦境のとき、自分を支えてくれている従業員に感謝してもしきれなかったですね。
このときは自分の貯金を取り崩して1千万円支払い、残りは半年間支払いを猶予してもらう返済計画が認められ、倒産の危機から脱出できました。
《苦しいときこそ笑顔を》
人間、苦しいときは顔に出てしまいます。そこで、「暗い顔をするのは1人のときだけ」と決めました。
アキダイはお店の壁が鏡張りになっています。それは店内を広く見せたり明るくしたりする効果もありますが、自分の表情を見るためでもあったのです。苦しいときこそ、口角を上げて笑顔を作る。それが大事だと思っています。(聞き手 慶田久幸)