アングル:米車突入事件、導入予定の車止めでも阻止できず コストと運用優先で強度不十分

[ニューオーリンズ 4日 ロイター] -   米ルイジアナ州ニューオーリンズ中心部の繁華街で群衆に車が突入し、14人の死者、数十人の負傷者を出した今月1日の事件。市当局はそれより何カ月も前に、今回用いられた車種に似た大型の「フォードF150」を使って、容疑者が今回の事件現場となったバーボン・ストリートに車両で突っ込むシミュレーションをしていた。

エンジニアたちの結論は、この種のピックアップトラックが観光客で混雑するこの通りに時速20キロ-112キロで突入することは可能だ、としていた。だが、ロイターが閲覧した市の委託によるエンジニアリング分析と入札の文書によれば、市が新たに設置を進めている道路の防護設備は、時速16キロでの衝突にしか耐えられない仕様だった。

「ボラード(車止め)」と呼ばれる新たな防護設備は、事件のあった1日の時点ではまだバーボン・ストリートには設置されていなかったが、米プロフットボールリーグ(NFL)のスーパーボウルがニューオーリンズで開催される2月9日までには設置が完了する予定だ。今回、ロイターが確認した文書がこれまでに報道されたことはないが、このシステムでは中速から高速での車の突入を防ぐことはできないと明記されている。

入札文書、さらにはバーボン・ストリートにおける市の安全対策を直接知る関係者によれば、新たな車止めシステムを選択する際、市が優先したのは新システムの耐衝撃性よりも運用の容易さだった。従来のシステムは運用面での慢性的な問題に悩まされていたからだ。ニューヨークのタイムズスクエアなどの歩行者専用ゾーンとは異なり、バーボン・ストリートでは1日の大半を通じて車両の通行が可能であり、市当局は毎日夕刻に車両の進入を遮断しなければならない。

1日の車による突入攻撃以来、ニューオーリンズ市当局は、従来の車止めを撤去し新たなシステムを設置する過程で市民を危険な状態にさらしていたのではないか、という厳しい指摘に直面している。だが、前述の関係者や、ロイターが閲覧した市の文書によれば、新旧どちらのシステムでも、今回の惨劇を防ぐことはできなかったことになる。

今回の襲撃犯が突入したカナル・ストリートとバーボン・ストリートの交差点には、車止めが設置されていない。だが1日の時点では、横向きに駐車したSUVタイプのパトロールカーにより車道は封鎖されていた。

テキサス州出身で軍での戦闘経験があるシャムスディン・ジャバール容疑者は、市の安全対策の別の盲点を狙った。午前3時15分頃、同容疑者は、封鎖された道路ではなく、ドラッグストアの壁と警察車両の間に残された幅約2.4メートルの歩道に全幅2.1メートルのピックアップトラックを乗り入れ、アクセルを踏み込み、群衆をなぎ倒していった。

犯行後、ジャバール容疑者は警察との銃撃戦で死亡。連邦捜査当局は、同容疑者が過激思想に染まり、過激派組織「イスラム国」(IS)への忠誠を表明していたと述べている。

ニューオーリンズ市の安全対策シミュレーションは、新防護システム選定の参考として実施されたエンジニアリング研究の一環として行われていた。しかし、検討されたのは車両が車道経由でバーボン・ストリートに突っ込むシナリオだけで、歩道経由は想定していなかった。前出の関係者によれば、歩道には消火栓やバルコニー、街灯の柱といった既存の障害物があり、ほとんどの地点で車は侵入不能だったという。

この関係者は、現在設置が進められている新たな車止めシステムでも脆弱性は残っているため、1日の事件に対しても「何の効果もなかった」はずで、これについて市当局者は「つらい会議」を重ねることになるだろうと話している。

ロイターではニューオーリンズ市当局に対し、バーボン・ストリートにおける安全対策と、耐衝撃性が時速16キロの衝突までという障害物を選択した決定について詳細な質問を送付したが、回答は得られなかった。

市の安全対策を直接知る関係者は、障害者が通行しやすい歩道を含め、車両と歩行者の通行を確保しながら車両による攻撃を防ぐことは、すべての都市が直面する難題だと強調する。

この関係者によれば、市当局は、時速16キロまでの衝突に耐えられる車止めシステムを「1-800-ボラード」という企業から調達することに決定した。8、9月付けの市の入札文書では、システム名称を「RCS8040 S10撤去可能車止め」として、設置事業者を募集している。4月に市の委託で行われたエンジニアリング分析では、この製品は耐衝撃性の評点が「S10」で、時速16キロで走行する重量約2267キロの車両を阻止できると説明している。

エンジニアリング分析には、「耐衝撃性の評点は、S10(時速10マイル=16キロでの衝突)、S20(同20マイル=16キロ)及びS30(同30マイル=48キロ)と規定されている」とある。

前述の関係者は、時速16キロでの衝突に耐えられる防護設備は、それ以上の速度で走行する車両に対しても、減速させる、あるいは大きな損傷を与えることができるとした。1-800-ボラードの代表者はコメントを控えた。

市の委託を受けたエンジニアが作成したバーボン・ストリートへの攻撃に関するシナリオのうち2例には、速度を上げた車が方向転換せずにまっすぐ通りに侵入する想定がある。

この想定では、信号待ちから発進した2015年型「F-150」は、中央に路面電車が走る広い大通りであるカナル・ストリートを越えて時速80キロまで加速できるという。同車種がバーボン・ストリートの反対端から進入した場合は、時速112キロに達する可能性がある。こちらの端は車止めで保護されている。

ジャバール容疑者は、この報告書のシナリオに登場するピックアップトラックより危険な車種を使った。より新型の「F-150ライトニング」は電気自動車で、想定車種より速度も重量もあるが、音は静かだ。

前述の関係者によれば、新年の祝賀やマルディグラの祝祭といった大きなイベントの際には、市の警備計画上、高速の車両による攻撃に対して最も脆弱(ぜいじゃく)なバーボン・ストリートの両端には大型車両を駐車しておくことになっている。だが、観光客で賑わうバーボン・ストリートでは、こうした安全対策を日常的に実施するのは現実的ではないという。

<「バーボン・ストリート・ジュース」>

前出の関係者は、遅くとも2020年にはニューオーリンズ市当局者は、車両による攻撃対策として不十分な防護システムをどう更新していくべきかの調査を始めていたと話す。

2017年、ニューオーリンズ市は連邦当局がバーボン・ストリートの警備強化を求めたことを受け、車止めのシステムを設置した。当時は世界的に車両を使った攻撃が相次ぎ、16年にはフランスのニースで死者86人、負傷者数百人を出す事件があった。

ニューオーリンズ市の文書によれば、同市が当初選んだシステムは「ヒールドHT2マタドール」と呼ばれ、作業員が道路に設けた溝に沿って障害物を動かせるシステムだった。関係者はロイターに対し、このシステムが選ばれた理由は主として、すでに連邦政府の契約を落札し費用も確定していたため、市としては迅速に導入できたからだと話している。

だが、バーボン・ストリートの厳しい環境のもとでは問題があることが分かった。マルディグラ名物のビーズ・ネックレスなどの残骸で溝が詰まってしまい、動かせないことも多かったのだ。

さらに、障害物を固定・解除する装置は道路に埋設されていた。この観光名所では、汚水やごみ、雨水、こぼれた飲料、そして時には吐瀉物が混ざり合った、いわゆる「バーボン・ストリート・ジュース」が独特の悪臭を漂わせているが、障害物を操作するこうした装置もこの汚水に沈んでしまうことが多かった。前述の関係者は、「障害物を動かすためには、バーボン・ストリート・ジュースに手を突っ込む必要があった」と語る。「ひどい仕事だ。誰だってやりたがらない」

<耐衝撃性より軽量化を重視>

前述の関係者、さらには数十種類の車止めシステムの評価を委託されたエンジニアリング企業モット・マクドナルドが作成した2024年4月の報告書によれば、前述のような問題があったため、ニューオーリンズ市では新たなシステムの選定にあたって、耐衝撃性よりも運用とメンテナンスの容易さなどの要素を優先したという。モット・マクドナルドの代表者はコメントを控えるとしている。

モット・マクドナルドによる報告書では、車止めシステムについては、耐衝撃性基準が3種類あると説明する。最も厳しい耐衝撃性基準は、重量約6800キロの車両が時速48-80キロで衝突する衝撃に耐えられるものだが、毎日車止めを移動したいというニューオーリンズ市のニーズとは「相容れない」と結論づけた。

報告書は、そうした車止めを毎日移動させるには、「トラック搭載型クレーンや重機など、特殊な吊り上げ装置が必要になる」と指摘している。

ニューオーリンズ市が選んだのは、1-800-ボラードが提供する、時速16マイルでの衝突に耐えられるシステムで、道路の基礎部分に沈降する比較的軽量なステンレス鋼製の柱によるものだった。関係者は、この車止めなら1人の市職員で毎日設定と解除が可能だというのが理由の1つだったと話す。エンジニアリング分析によれば、柱の重量は約20キロ。時速32キロまでの衝突に耐えられるタイプだと約40キロになる。

モット・マクドナルドの報告書には車両による攻撃の想定シナリオも含まれていた。想定速度が時速80-112キロに達するというシナリオ以外の場合、「F-150」は時速20-32キロであれば、縁石にぶつかったり歩道に乗り上げたりすることなく、方向転換してバーボン・ストリートに進入できるとされている。それでも、市が選択した時速16キロまでという耐衝撃性基準を上回る速度だ。

関係者は、市当局者やバーボン・ストリートがあるフレンチ・クォーター地区の住民、企業代表者の主な関心は、脇道からもっと低い速度でバーボン・ストリートに出てくる車両から歩行者を守ることだったと話す。報告書では、さまざまな基準に基づいて多様なシステムの評価を下している。ニューオーリンズ市が最終的に選択したシステムは、「指定されたプロジェクト要件を満たしていない」ため、「安全性」の評価が減点されていた。

他のシステムより高い評価を得た要素は、車止めの重量とコストの低さだった。

(翻訳:エァクレーレン)

Reporting by Kentaro Kojima

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Chris Kirkham is a business reporter in Los Angeles who has covered topics including tobacco, worker safety, internet privacy and corporate sustainability efforts. Chris previously worked at The Wall Street Journal and the Los Angeles Times.

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