〈驚異の数値〉「がん王国」日本で死亡率が激減!5年生存率が史上最高を記録した背景とは?(Wedge)|dメニューニュース
先日、筆者の前職のOB会に参加する機会があった。平均年齢約75歳の後期高齢者が集まる中、驚くべきことに、参加者の約半数ががん経験者であり、かつ5年以上生存していた。彼らの間で交わされる会話は、もはやがんを「慢性疾患」と捉えるかのようなものであった。もちろん、がん経験といっても比較的健康な者が集まる場であるため、これが厳密なエビデンスとなるとは言えない。しかし、この経験は、日本のがん医療が確実に進化していることを強く示唆するものだった。
帰宅後、筆者はこの印象を裏付けるべく、最新のがん死亡率と5年生存率に関するデータを国立がん研究センターの主治医の報告に基づき深く掘り下げてみた。(注1)
その結果、日本のがん医療が驚くべき進歩を遂げている実態が明らかになった。
(Anna Bergbauer/gettyimages)日本におけるがん死亡率と5年生存率の最新動向
日本におけるがんを取り巻く状況は、依然として深刻である。2023年には、がんで亡くなった人数は日本全体で約38万2504人(男性22万1360人、女性16万1144人)に上り、国民の主要な死因であり続けている。しかし、その一方で、がん患者の生存率は着実に改善の兆しを見せている。
国立がん研究センターの報告によれば、2009年から2011年に診断されたすべてのがん患者の5年相対生存率は、男女平均で64.1%(男性62.0%、女性66.9%)と、改善傾向にあることが示されている。さらに注目すべきは、全国15万1568例を対象とした調査で、2011年から2013年症例の5年相対生存率が68.9%に達し、1997年から1999年の61.8%から着実に上昇している点である。この数字は、日本のがん医療が全体として大きな進歩を遂げていることを明確に示している。
進行がん(ステージIII・IV)でも「生き延びれば」さらなる生存が可能に
がん医療の進歩は、早期がんだけでなく、進行がんにおいても顕著な効果を発揮している。国立がん研究センターが約39万人の進行期がん患者の院内がん登録データを分析した結果、診断後5年以降の生存率が上昇する傾向が明らかになった。これは、「生き延びる」こと自体が予後改善につながるという、画期的なエビデンスを提示している。
具体例を見てみよう。ステージIV胃がんの「診断直後の5年生存率」は、わずか約6%に過ぎなかった。しかし、このデータの内訳を詳細に見ると驚くべき事実が浮かび上がる。診断後1年生存率は12.3%、2年生存率は25.9%、3年生存率は41.8%、そして5年生存率は61.2%という驚異的な改善が見られた。これは、診断直後の厳しい生存率が、実際に時間を経るごとに大幅に向上していくことを示している。
同様に、膵臓がんステージIVにおいても、初期の5年生存率は1.3%という極めて厳しい数字であったが、診断後5年生存では42.5%にまで上昇している。これらのデータは、進行がんにおいても、適切な治療を継続し、「生き延びる」ことで、長期生存の可能性が飛躍的に高まることを示唆している。これは、進行がん患者にとって大きな希望となるデータであり、治療を諦めないことの重要性を強く裏付けるものである。
日本のがん医療が進歩し続けている背景
このような劇的な生存率の改善は、日本のがん医療における多角的な進歩によって支えられている。
まず、治療技術の向上が挙げられる。近年、免疫チェックポイント阻害剤に代表される免疫療法や、がん細胞特有の分子を標的とする分子標的薬の導入によって、これまで治療が困難とされてきたがん種においても、生存率向上の可能性が広がっている。これらの新しい治療法は、がん細胞に特異的に作用するため、従来の化学療法に比べて副作用が少なく、患者のQOL(生活の質)を維持しながら治療を継続できるケースも増えている。
次に、検診制度の整備と受診率の向上も、生存率改善の重要な要因である。胃がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんなどの主要ながん検診受診率は回復傾向にあり、これによりがんの早期発見・早期治療が可能となっている。早期にがんを発見できれば、より治療の選択肢が広がり、根治の可能性も高まるため、結果として全体の生存率改善に寄与している。
さらに、国立がん研究センターの報告によれば、2005年から2015年にかけて、75歳未満のがん死亡率は16%減少している。特に肝臓がんは49%、胃がんは33%と大幅な減少を記録しており、これは特定の部位における治療法の進歩や予防策の浸透が大きく貢献していることを示している。