自宅に日本刀「親がヤクザの組長」、ペット店元経営者が従業員6人脅し性暴力10年か…懲役30年求刑

 経営する福岡市などのペットショップの女性従業員6人に性的暴行などのわいせつ行為を繰り返したとして、準強制性交罪などに問われた福岡県糸島市の元経営者被告(66)の公判が福岡地裁で行われている。女性たちが性被害を受けたと語るのは2022年までの約10年間。公判では、従業員に対し、暴力団関係者を装ったり、解雇をちらつかせたりして、服従を誓わせる異様な状況が浮き彫りになっている。(水木智)

福岡地裁

■「逆らうと殺される」

 「暴力団関係者と言われて信じており、逆らうと殺されると思い抵抗できなかった。数え切れないくらい被害にあった」。トリマーとして勤務していた女性(事件時20歳代)は1月、法廷で声を震わせた。

 検察側の冒頭陳述などによると、被告は共同経営者と01年に福岡市中心部に同店を開業した。11年に共同経営者が退任し、被告1人による経営になったあと、従業員に対する支配構造が強まった。

 12年6月頃から、被告に「生涯尽くす」とする誓約書を従業員に書かせるようになり、その頃には従業員は性的被害を受けていたという。「糸島勤務」と称して、女性従業員らに交代で自宅で炊事や掃除をさせており、「逆らえば解雇する」と不安をあおるなどして、乱暴していたとされる。

■自宅に並ぶ日本刀・やり

 法廷に立った複数の女性らの証言によると、多くは入社から1年足らずで、被告の自宅で被害を受けるようになったという。被告は従業員らに「親がヤクザの組長。人を殺したことがある。裏切ったら仲間が殺す」と繰り返し脅迫。自宅には日本刀や、やりが並び、女性らは被告を暴力団関係者だと信じていた。

 女性2人(ともに同30歳代)は一緒に「やめたい」と退職を訴えたことがあったが、日本刀を首に突きつけられ、「家族も親戚も関係なく手にかける」などと言われ、うち1人は「本当に殺されると思った」と振り返った。もう1人の女性は「裸の写真を撮られ、個人情報も握られており、家族も殺されると思って助けを求めることができなかった」と説明した。

 被告による経営が続く中、15年に社長に就任した男性(同30歳代)は証人尋問で「被害相談を受けていた。性被害者は10人以上いたと思う」と述べた。自身も暴力団関係者と信じ恐怖を感じていたといい、「何もしてあげられなかった」とうなだれた。

■懲役30年求刑

 検察側は「従業員を私物化し、卑劣極まりない犯行」として有期刑の上限である懲役30年を求刑。一方、被告は公判で一部の行為はあったことを認めたうえで「脅していない」と起訴事実を否認し、弁護側は「いずれの女性とも親密な関係で、拒絶できない状態ではなかった」として無罪を主張している。被告は、いずれも従業員だった男女に暴力をふるうなどして昨年10月に有罪の部分判決が出ており、これらの事件と合わせて、今月25日に判決が言い渡される予定。

上下関係の悪用後絶たず

 会社や学校などの組織では、幹部と部下、指導者と教え子といった上下関係を背景にしたとみられる事件は後を絶たない。

 警視庁は昨年12月、元同僚を踏切内に立ち入らせ、自殺に偽装して殺害したとして塗装会社社長らを逮捕した。社長らが日常的に元同僚に暴力をふるっていたとみられる。福岡地裁は昨年12月、卓球教室の教え子の中学生2人に性的暴行をしたなどとして、不同意性交などの罪に問われた教室経営者の男に懲役5年6月の実刑判決を言い渡した。判決は「コーチの立場や関係性を利用した」と認定した。大阪地裁は2022年、野球部員8人にわいせつな行為をしたとして、強制性交罪などに問われた私立高校野球部のコーチの男に懲役10年の実刑判決を言い渡している。

 立正大の西田公昭教授(社会心理学)は「小さな組織や閉鎖的な環境下では、指導や業務の一環と称した暴力やわいせつ行為が起きやすく、加害者がトップの場合は、周囲も黙認したり、同調したりする可能性があり、被害が発覚しづらい。被害に遭ったり、遭いそうになったりした場合は、すぐに警察や家族など外部に連絡、相談すべきだ」と説明している。

関連記事: