付属池田小事件24年、学校侵入やまず…校門無施錠に遺族「教訓生かされていない」
無施錠の校門から学校に侵入される事件が後を絶たない。2001年に起きた大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件を機に、文部科学省は「原則施錠」を求めてきたが、5月にも東京都立川市の小学校で傷害事件が起きた。付属池田小事件から8日で24年。遺族は「教訓が生かされていない」と訴えている。(上田裕子)
■担任らに暴行
5月8日、立川市立小で、酒瓶を持った男2人が無施錠だった正門脇の通用扉から校内に入り、授業中の教室へ押し入った。その場にいた児童32人は避難して無事だったが、担任らが暴行を受けてけがを負った。
市教委によると、同小の危機管理マニュアルでは、「正門は施錠しない」と規定。児童の遅刻や給食業者の出入りを考慮した措置という。事件後、東京都教委と市教委は各校に校門の施錠を求め、同小はマニュアルの見直しを検討している。
市教委は読売新聞の取材に「児童に負傷者がいなかったとはいえ、全く問題がなかったとは言えない。反省点を検証したい」としている。
■学校ごとに事情
01年の付属池田小事件で、宅間守・元死刑囚は開放されていた東門から侵入。裁判で「施錠されていたら門を乗り越えてまで侵入しなかった」と述べた。
校門にオートロック(左)を導入している大阪市立小。登下校時以外は施錠を徹底し、保護者や業者はインターホンで用件を伝える(大阪市北区で)文科省は翌02年、不審者侵入時の「危機管理マニュアル」を策定し、全国の学校に登下校時以外の校門の施錠を求めた。
だが、近年も学校への侵入事件が相次いでいる。埼玉県戸田市立中で23年、高校生が教員を切りつける事件が発生。今年4月にも茨城県古河市で包丁を持った女が小学校の校庭に侵入した。いずれも校門は無施錠だった。
文科省は事件が起きる度、全国の教育委員会に「原則施錠」の通知を出し、施錠できない場合、警備員を配置したり、校舎を施錠したりするよう求めている。実際の判断は市町村教委や各校に委ね、実態の全国調査は行っていない。担当者は「学校ごとに事情が異なり、一律に強制することはできない」と話す。
校門の施錠は徐々に広がっているが、様々な理由で無施錠を続ける学校もある。
福岡市教委によると、「地域住民の出入りが頻繁」「交通量が多く、校門前で車を止められない」などの理由で施錠を見送る市立学校があり、市教委も「施錠は困難」と許容している。千葉市教委も「保護者ら来訪者が多い学校では、解錠の対応で職員の業務に支障が出る」と無施錠を認めている。
■「防犯意識の薄れ」
大阪教育大が付属池田小事件の遺族らと毎年開いている「再発防止報告会」では、今年4月、遺族から「いまだに校門を開けたままの学校がある」と懸念の声が上がった。
長女の麻希さん(当時7歳)を亡くした酒井肇さん(63)は取材に「校門の施錠は、不審者を校内に侵入させないための重要な対策の一つ。無施錠の利便性と児童の安全のどちらを優先すべきか。答えは明白だ」と訴えた。
保護者ら学校関係者かどうかを識別するIDカードの導入も重要だと強調。「安全が確保されてこその学びの場。事件から月日が流れ、防犯への意識が薄れてきているのではないか。事件の悲しい教訓を発信し続けていく」と誓った。
◆大阪教育大付属池田小の児童殺傷事件
=2001年6月8日午前10時過ぎ、宅間守・元死刑囚(当時37歳、04年執行)が付属池田小(大阪府池田市)の校舎に侵入し、包丁で児童らを襲った。1、2年生計8人が死亡、児童13人と教師2人が重軽傷を負った。確定判決は犯行動機について「生活に行き詰まり、自暴自棄になった」と認定した。