メタ、新型AI「ミューズスパーク」で反転攻勢 1350億ドルの巨額投資と開発体制の刷新で挑む覇権

米メタが4月初旬、新型のAIモデル「Muse Spark(ミューズスパーク)」を公開してから、3カ月近くが経過した。

市場の熱狂が落ち着きを見せるなか、業界関係者の間では、このモデルが同社の命運を左右する転換点になるとの分析が強まっている。

ミューズスパークは、メタが昨年設立した専門組織「Meta Superintelligence Labs(メタ・スーパーインテリジェンス・ラブズ、MSL)」が開発を主導した新シリーズ「Muse」の第1弾となるモデルだ。AI開発の遅れを指摘されてきた同社にとって、反転攻勢の成否を占う試金石となる。

■巨額投資の「成果」実証へ一歩

新モデルの登場は、この1年間に同社が断行してきた大規模な組織再編が実を結んだものといえる。

メタは昨年6月、米スケールAIの創業者らを引き抜く「リバース・アクハイヤー(reverse acquihire=逆アクハイヤー)」に踏み切った。この際、同社は約143億ドル(約2兆2500億円)という巨額の出資を行った。

当時、一部のトップ人材のみを巨額の報酬で引き抜くこの手法は、シリコンバレー特有のイノベーション文化を損なうとの批判も招いた。

だが、専門組織であるMSLは、わずか9カ月でAI基盤を再構築した。開発段階で「アボカド」のコード名で呼ばれていた新モデルは、沈滞ムードを払拭し、開発スピードの回復を印象づけるものとなった。

MSLを率いるアレクサンダー・ワン氏は、モデルの挙動に「粗削りな部分がある」ことを認めつつ、時間をかけて洗練させていく考えを示している。以前の主力モデル「Llama(ラマ)4」が性能不足と評されるなど、同社のAI開発は一時、停滞を余儀なくされていた。

そうしたなか、ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は、自らトップ研究者の勧誘に直接関わるなど、開発体制の刷新に注力してきた。

背景には、既存の技術スタックをゼロから作り直すという抜本的なアプローチがある。同社は、モデルの規模を段階的に拡大させる「科学的なスケーリング」を重視しており、次世代モデルの開発も並行して進める。

■「知覚するAI」で生活圏に浸透へ

技術面の大きな特徴は、テキスト処理に限定されない「マルチモーダル知覚」の強化にある。

スマートグラスなどの端末を通じ、利用者が現実に見ている光景をAIが捉える仕組みだ。これにより、買い物や健康管理のアドバイスをリアルタイムで行えるようになる。

例えば、売店の棚にカメラを向けるだけで、栄養価の高い食品を特定できる。メタは、ユーザーの日常を深く理解する「個人向け超知能(Superintelligence)」の実現を目標に掲げている。健康分野では医療チームの監修を受け、画像やチャートを用いた回答の精度向上を図った。

新機能の「コンテンプレーティング(熟考)モード」では、複数のAIエージェントが並行して推論を行う。旅行計画の策定では、あるエージェントが旅程を組み、別のエージェントが宿泊地を比較するといった分業が可能だ。

こうした高度な処理により、複雑な問いに対しても、より精度の高い回答を迅速に提供できるようになった。

■戦略の転換点、非公開モデルへの舵切り

ビジネス戦略上で注目すべきは、長年維持してきた「オープンソース」路線の修正だ。メタはこれまでAI技術を外部に広く開放してきた。

だが、ミューズスパークは非公開の独自モデルとして展開する。これは、巨額投資を早期に回収する狙いが鮮明になったことを示唆している。

メタは2026年12月期に、最大1350億ドル(約21兆2300億円)の設備投資を計画している。その多くはAIインフラに投じられる見通しだ。かつて米グーグルと締結した100億ドル(約1兆5700億円)規模のクラウド契約など、インフラ確保に奔走してきた同社にとって、収益化は急務の課題といえる。

今後は特定のパートナーへのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の提供や、SNS上でのショッピング機能との連携を通じ、AIを直接的な収益源に変える道筋を探る。

特にショッピングモードでは、利用者のフォロー関係や投稿内容に基づき、個別の好みに合った商品を提案する機能を強化している。

■「協調と競争」の難局は続く

もっとも、先行する米オープンAIや米グーグルとの差が完全に埋まったわけではない。外部の評価指標では、言語や視覚の理解で健闘する一方、コーディングや抽象的な推論では依然としてライバルの後塵を拝している。

米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、ミューズスパークは米xAI(エックスエーアイ)の「Grok(グロック)」に対し、大半のテストで優位性を示した。

一方で、AI性能を分析する米アーティフィシャル・アナリシスによる評価では、ミューズスパークは同率4位にとどまった。トップ層との実力差は依然として存在しており、今後の課題として残る。

業界全体を見渡せば、インフラ層、モデル層、アプリ層の3階層で合従連衡が加速している。メタはインフラ層でグーグルの基盤を利用しつつ、モデル層ではそのグーグルと激しく競う。

巨大テック各社が複雑に絡み合う「協調と競争(Co-opetition)」の構図は、今後も続く。メタの新型AIモデルが、どこまで独自のエコシステム(経済圏)を構築できるかが、今後の焦点となる。

【執筆者コメント】

今回の記事では、メタが長年維持してきた「オープンソース」という看板を下ろし、収益化へ大きく舵を切った戦略的な転換点に焦点を当てました。新組織「MSL」がわずか9カ月で基盤を刷新したスピード感は、同社の生存本能とも言える危機感の表れです。

特に、スマートグラス等の端末との親和性を高めた「視覚的な知覚能力」への注力は、検索のグーグルやビジネスのマイクロソフトとは異なる、メタ独自の「生活圏AI」としての生存戦略を鮮明にしています。

一方で、技術評価では先行他社に対し、論理推論などの分野でなお課題も指摘されています。人類を凌駕(りょうが)する「超知能」という壮大な目標に向け、今回のモデルが単なる「追い上げ」にとどまるのか、あるいは新たな覇権の起点となるのか。巨大テック各社が複雑に絡み合う「協調と競争」の行方を、今後も注視していきたいと思います。

  • (本コラム記事は「JBpress」2026年4月28日号に掲載された記事に、その後の最新情報を加えて再編集したものです)

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