米国の人種差別の矛先、今度はインド系米国人に 背景に経済的不満
Photo Illustration by Alberto Mier/CNN/Getty Images
(CNN) インド系米国人のパテル連邦捜査局(FBI)長官は先月、X(旧ツイッター)上でヒンドゥー教の祭典「ディワリ」を祝い、「よいディワリを」と書き込んだが、この投稿が不評を買った。
キリスト教ナショナリストや白人至上主義者から、偏見に満ちたミーム(ネット上で模倣されて拡散する画像)やコメントが大量に送りつけられた。「この国から出て行きやがれ」「ここは米国だ。そんな慣習はない」という書き込みもあった。
ヘイリー元国連大使や大統領選の共和党候補者指名争いに参加したビベック・ラマスワミ氏、司法省のディロン公民権担当次官補がXに投稿したディワリのあいさつや、ホワイトハウス、国務省、アボット・テキサス州知事、サンダース・アーカンソー州知事がディワリに言及した書き込みにも、同様の敵意が向けられた。
保守派のインド系米国人らは、右派の一部が今度はインド系に矛先を向け始めたことに衝撃を受けている。ラマスワミ氏は今月初めの地方選挙で民主党が大勝したことを受け、共和党員らに「アイデンティティー政治はもうやめるべき」「私たちがこだわるのは肌の色や宗教でなく、人格の内容だ」と呼びかけた。右翼コメンテーターのディネシュ・ドゥスーザ氏は黒人差別を長年あおってきた人物だが、インド人の存在に嫌悪感を抱くというXへの書き込みに対し、「40年のキャリアを通してこういう発言に遭遇したことはなかった。右派は決してこんなことを言わないものだった」と述べ、「私たちの仲間でこういう下品な侮辱を正当化したのはだれか」と問いかけた。
白人のキリスト教徒だけが米国にふさわしい
かつて非主流派だった人物らが存在感を増し、トランプ大統領がほぼすべての移民に対する締め付けを強めるなかで、同氏が率いるMAGA(米国を再び偉大に)運動の一部メンバーは、白人のキリスト教徒だけが米国にふさわしいとの主張を公然と展開している。
米NPO「組織的ヘイト研究センター」(CSOH)によると、X上ではこの1年間に反インド感情が急拡大し、収まる気配がまったくみられない。同センターの創設者でもあるラキブ・ナイク事務局長によれば、インド人やインド系米国人に対する差別や嫌悪感をあおる投稿は先月だけで2700件近くを記録した。このうち少なくとも一部は、Xを所有する米実業家イーロン・マスク氏の改革に起因している可能性がある。同氏がXを買収してから、それまで監視チームによって規制されていた人種差別的なコンテンツが逆に増幅、助長されるようになった。
ディワリをめぐる投稿は、インドやインド人関連のニュースが相次いだタイミングで炎上した。トランプ氏がインド系のスリラム・クリシュナン氏を人工知能(AI)政策顧問に任命し、ラマスワミ氏がSNSで米国文化を平凡と評し、米印間の貿易摩擦が悪化。フロリダ州ではシーク教徒の運転するトラックによる死亡事故が起きた。
高度技術者向け就労ビザが非難の的に
ナイク氏らによれば、なかでも一貫して非難の的になっているのが、高度な外国人技術者向けの就労ビザ(査証)「H-1B」だ。取得者の国籍はインドが最も多い。H-1Bビザをめぐってはトランプ政権内部でも意見が分かれ、ミラー大統領次席補佐官ら反対派はインドが「移民政策関係で多くの不正行為」を働いていると非難してきた。トランプ氏は立場が定まっていなかったが、このほど10万ドル(約1550万円)の申請手数料を課すことで制限に乗り出した。
極右のアカウントや活動家らは、インド系移民を米国人から高収入の職を奪う詐欺師と呼び、送還を求める発言を繰り返している。インド人は自分と同じカースト(階級)や民族の出身者しか雇わないと非難し、「汚い」「くさい」というレッテルを張り、手を使って食べるといった風習を後れた文化として取り上げる。これは極右のネット荒らしに限った傾向ではない。最近のニューヨーク市長選では、無所属で出馬したクオモ前ニューヨーク州知事の陣営が、対立するインド系のゾーラン・マムダニ氏に対する中傷広告で、同氏が米飯を手で食べるAI生成の映像を流した(が、まもなく削除した)。
南アジア系の人々に対する中傷は、ほぼ放任状態のネット掲示板「4chan(フォーチャン)」などで始まり、今やオンラインでも実社会でも急増して共通語となりつつある。公共の場にいるインド系の人々をわざわざうつし出した写真や映像が、「侵略」の証拠として掲げられる。その背景にあるのは、白人人口が移民らによって「置き換えられる」という説だ。こういう説は、ひとりでに生まれたわけではない。トランプ氏が大統領に初当選するよりさらに前から、同氏周辺のスティーブ・バノン氏やミラー氏ら有力者は、白人至上主義者らが好むフランスの小説「Le Camp des Saints」を教訓として引用していた。インド系移民がフランスを侵略し、西側世界を屈服させるという物語だ。
地位や名声を手にしたインド系米国人が格好の標的に
ナイク氏とともにCSOHの報告書をまとめたサンタクララ大学のロヒット・チョプラ教授によれば、この人種差別的、経済的な不満を背景に、地位や名声を手にしたインド系米国人が格好の標的となっている。米調査機関「ピュー・リサーチセンター」が国勢調査を分析した結果によると、インド系移民とインド系米国人は米国内の人種、民族のうち最も高所得の層に属する。政府の要職や大企業のCEOに上り詰めたり、メディアや娯楽、科学技術、ビジネス、医療、学術分野のトップで活躍したりする人材も多い。
このイメージが全体を反映しているわけではない。米国内にいるインド系の人々は宗教的、民族的に多様な集団で、米市民権や合法的な就労ビザの保持者から留学生、不法移民まで含まれる。だが裕福なインド系米国人に対する長年の反感が高じ、インド系の人々全体を悪者として敵視する風潮が広がっている現状では、それが現実世界の暴力を触発する恐れもあると、チョプラ氏は指摘する。