ミイラの違法ネット売買で現代によみがえる「呪い」の正体とは?

Gayoung Lee - GIZMODO US[原文]岩田リョウコ / GIZMODOライター )
Credit: University of Staffordshire

「呪い」はなくても、科学的な意味での災いは降りかかるかもしれない。

「古代エジプトの墓には呪いがかけられている」というイメージがありますが、少なくともスコットランド国立博物館の学芸員ダニエル・ポッター氏によると、それはただの迷信なんだそう。

とはいえ、「呪われたミイラ」はこれまで数え切れないほど映画や小説の題材になってきました。そして今、超常現象ではなく、違う意味で「呪い」が現実のものとなってきているようで。

ネットを通じてミイラを違法売買しようとする人たちがいて、取引した人たちが健康を害するカビや有害物質に曝されてしまうケースがあるというのです。

学術誌『International Journal of Cultural Property』に掲載された最新研究によると、人間や動物のミイラ化した遺体には、カビや菌類が繁殖していることが多く、場合によってはミイラとしての保存処理に使われた有害な化学物質まで残っている可能性があるとのこと。

博物館などの保存修復の専門家は、こうした遺体を安全に扱うための訓練を受けていますが、非公式な取引、とりわけ違法にミイラや遺体の売買がおこなわれる場合、そうした安全対策がほとんど取られていないことが、この研究では指摘されています。

研究を率いた英スタッフォードシャー大学の生物考古学者カースティ・スクワイアーズ氏は以下のように声明で説明しています。

インターネット、とりわけSNSの普及によって国を越えた密売が増加し、人間や動物のミイラなど珍しい文化財への需要も高まっています。

明らかに生物による劣化の兆候が見られるにもかかわらず、販売者は安全上の注意を一切示していません。危険性を理解していないか、意図的に無視している可能性があります。

こうした出品物には明らかに生物による劣化の兆候が見られるにもかかわらず、販売者は安全上の注意を一切示していません危険性を理解していないか、意図的に無視している可能性があります。

ホラー映画ではなく、現実の「バイオハザード」

「呪われた墓」の話は古代エジプトだけではありません。1970年代には、ポーランド王カジミェシュ4世の墓が開かれた際、保存・調査に携わった研究者十数人が相次いで死亡し、「王の墓の呪い」ではないかと噂されました。

© Veit Stoß via Wikimedia Commons

ところが約20年後、ドイツの微生物学者が墓から採取された試料をあらためて調べたところ、有毒なカビの一種であるアスペルギルス・フラバスが確認されたのです。

この発見により、1920年代から語り継がれている有名な「ツタンカーメンの呪い」なども含む「墓の呪い」の正体は、微生物なのではないか、との考え方が再び注目されるようになったというのが、研究チームの主張。

そう、菌類の生命力は驚くほど強く、数百年にわたって休眠状態で生き延びることができます。

墓が開かれるとその胞子が空気中に舞い上がり、知らずに吸い込んだ人の肺や皮膚などに付着する可能性があります。しかも、ミイラに潜んでいる危険はカビだけではありません。

研究チームは、遺体の保存処理に使われてきた物質のなかには、ヒ素、水銀、鉛、銅など、人間の健康に有害とされる元素が含まれていることも指摘。

さらに古い時代にさかのぼると、油や樹脂、煙から生じる物質などもミイラ作りに使われていました。

これらの影響は、軽い皮膚炎程度で済むものから、重度の中毒、臓器障害、心血管系や神経系の深刻な問題を引き起こすものまでさまざまだそうです。

危険物もネット通販

考古学や博物館では、時には手痛い失敗を重ねながら、長い年月をかけて研究対象を安全に扱う方法が確立されてきました。手袋やマスクなどの個人用保護具の着用はもちろん、博物館の収蔵庫では微生物による劣化や人体への曝露を防ぐため、定期的な監視やメンテナンスもおこなわれています。

しかし、個人間などで非公式に取引されている人間や動物の遺体となると、そこまで管理されていないのは想像できますよね。

今回の研究では、2015年から2025年にかけてSNSやECサイトに掲載されたミイラ化遺体の出品情報128件を収集し、遺体の保存状態や、安全上の注意書きがあるかどうか、販売者がどこから発送しているのかなどを調べています。

© Squires et al., 2026

ただし、法律上・倫理上の問題があるため、調査には限界もあったそうです。

例えば、微生物が繁殖しているかどうかは、販売者が掲載した写真から明らかに確認できる場合にしか判断できません。また調査対象となった国も限られており、表には出てこない闇取引などの非公開取引までは調べられていません。

「見た目がきれい」でも安全とは限らない

それでも、生物学的には、残存する軟組織はいずれ劣化することが広く認められている、と研究チームは説明しています。そして、その劣化というのは、必ずしも目に見えるとは限りません

128件というサンプル数は決して多くありませんが、研究チームは「こうした遺体の取引マーケットが実際に存在しているとみられ、今後さらに調査する必要がある」としています。

スクワイアーズ氏が述べた確認済みのケースでは、「ミイラ化した遺体が国内外の購入者に郵送されている一方、その行為がもたらす健康・安全上の問題について、ほとんど、あるいはまったく考慮されていないことを示す証拠がありました」とのこと。

「より効果的な対策が導入されるまでは、一般の人々もこうしたミイラ化遺体の販売に注意し、見つけた場合には関係当局や専門機関へ通報する必要があります。公衆衛生を守り、考古学的な遺物を保全するためにも、監督体制の強化と教育が不可欠です」と注意喚起しています。

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