イーライリリーの経口タイプの肥満治療薬、体重減少に有望な効果を示す

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米製薬大手イーライリリーは、実験的なGLP-1経口薬「オルフォグリプロン」の臨床試験結果を公表した。高用量群の約60%の参加者の体重が10%以上も減少し、糖尿病治療薬としての可能性も示されている。
Photo-illustration: WIRED Staff; Getty Images

米製薬大手イーライリリーが8月上旬に発表した初期試験の結果によると、同社が開発中の実験的な経口薬が、肥満のある人の平均体重を12%以上減少させた。服用は1日1回で、週1回注射するタイプの同社の人気肥満治療薬「ゼップバウンド」に代わる選択肢となる可能性がある。

経口タイプのGLP-1薬

「オルフォグリプロン(orforglipron)」と呼ばれるこの薬は、ノボ ノルディスクの「オゼンピック」や「ウゴービ」などを含む、GLP-1受容体作動薬と呼ばれる薬の一種である。これらの薬は、体内で自然に生成されるホルモンと同じように作用することで、血糖値を調整したり満腹感を促進したりする。注射型のGLP-1薬では、およそ15〜20%の体重減少が確認されている。

イーライリリーが実施した18カ月間の試験には、開始時の平均体重が228ポンド(約103kg)、BMIが37(肥満に分類される)に該当する成人3,000人以上が参加した。参加者は、オルフォグリプロンを6mg、12mg、36mgのいずれか、またはプラセボ(偽薬)を服用するグループに無作為に分けられた。最も低い6mgの投与では体重減少は8%未満(約18ポンド、8.2kg)で、中間の12mg投与では9%(約21ポンド、9.5kg)の減少となった。

プラセボ群の体重減少は約2ポンド(0.9kg)であったのに対し、最も多い36mgの投与では、平均で12%(約27ポンド、12.2kg)の体重減少が見られた。この高用量群では、約60%の参加者が体重を10%以上減らし、さらに約40%は15%以上減らしていた。

オルフォグリプロンを服用した参加者は、最初は1日1mgから開始し、4週間ごとに量を増やして最終的な服用量に達した。プラセボ群を含む試験参加者全員には、健康的な食事と運動が指導された。なお、この薬の服用にあたって食事や水分の摂取に制限はなかった。

試験を通じて薬の安全性は確認されたものの、注射型のGLP-1薬と同様に、多くの参加者で消化器系の副作用が見られた。最も多かったのは吐き気で、高用量群の3分の1が報告した。便秘は同群の約4分の1に発生し、下痢や嘔吐も同程度だった。こうした副作用により、いずれの用量群でも20%以上の参加者が試験を途中で離脱している。

イーライリリーは、詳細な結果を9月に開催される欧州糖尿病学会の年次総会で発表し、査読付きの学術誌に掲載する予定としている。ノボ ノルディスクも糖尿病治療用のGLP-1経口薬「リベルサス」を有しているが、注射型ほど減量効果は高くなく、体重管理目的では承認されていない。

オルフォグリプロンは、糖尿病治療薬としての効果も期待されている。最近『The New England Journal of Medicine』に発表された研究では、2型糖尿病患者で血糖値の低下と体重減少の両方が確認された。イーライリリーは、年内に規制当局への承認の申請を予定している。

より効果的な経口薬を開発する上での課題は、生物学的利用能(バイオアベイラビリティ、血中に到達して実際に作用する薬の量)をいかに高めるかという点にある。ほかのGLP-1薬は分子が大きく消化管で吸収されにくいことから、その多くが分解されてしまう。イーライリリーは、小さい分子でオルフォグリプロンを設計することで、この問題を解決できた可能性がある。

(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)

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