財政タカ派のドイツが急転換、EUに財政ルール緩和訴え-防衛費増で

ドイツ連邦債が5日の取引で大きく売り込まれ、過去35年で最大の下落となった。

  次期首相就任が確実視されるメルツ氏が、防衛力強化のため、大胆な財政改革案を提示したことに反応した。財政規律を重視する「財政タカ派」として知られるドイツにとって劇的な変化となる。これを受けて、欧州各国で財政支出が増え、経済成長が促されるとの期待が強まった。

  ドイツの10年物国債利回りは30ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し、2.80%と2023年11月以来の水準となった。1日の変動幅としては、ベルリンの壁崩壊後にドイツ再統一への準備が進められていた、1990年3月以来の大幅上昇だった。

  メルツ氏は4日夜、大規模な財政改革の一環として5000億ユーロ(約80兆円)の特別基金を設立すると発表。また、防衛費として国内総生産(GDP)の1%以上を支出する場合には、憲法上の借り入れ制限(債務ブレーキ)の対象外とすることも提案した。メルツ氏は、国を守るために「あらゆる手段を講じる」と強調した。

  財政支出拡大への期待から、短期金融市場では年内の欧州中央銀行(ECB)利下げ見通しが大幅に後退した。ドイツ債のほか、イタリア債も売りを浴び、英国債も下落した。イタリアの10年債利回りは29bp上昇し、3.92%と8カ月ぶりの高水準になった。

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  また欧州経済が押し上げられるとの期待から、ユーロも買われ、3日間の上げとしては2015年以来の大きさを記録する勢いだ。欧州株式も上昇した。

EU財政ルール緩和

  5日には、ドイツの駐EU代表が加盟国に予算上の追加余地を認めるようEUに促し、ブリュッセル関係者の間で驚きが広がった。地政学的な情勢を踏まえ、長期的に防衛関連支出を増やすためだと訴えたという。事情に詳しい関係者が明らかにした。  

  EU首脳は6日に会合を開く予定で、財政ルールの変更の可能性を巡り議論する予定。ブリュッセルのドイツ政府報道官はコメントを控えた。

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  EUはロシアによる侵略の脅威に対抗するとともに、トランプ米政権が欧州安全保障への関与を大きく後退させていることを補うため、数兆ユーロ規模の防衛費上積みを急いでいる。

パラダイムシフト

  ヌビーンのグローバル投資ストラテジスト、ローラ・クーパー氏は 「ドイツの現状は、欧州の投資戦略の再考を促すものだ。市場は財政面で今後見られるであろう事態の規模を過小評価している可能性がある」と指摘した。

  バンク・オブ・アメリカ(BofA)の欧州担当エコノミスト、エブリン・ハーマン氏はドイツの発表について「大規模かつ大胆、想定外の内容で、見通しを一変させる」と指摘。これは「地殻変動」だと述べた。

原題:German Debt Has Worst Day Since Aftermath of Berlin Wall’s FallGermany Urges EU to Ease Fiscal Rules to Boost Defense Funds (2)Germany’s ‘Whatever It Takes’ Moment Powers European Markets (3)(抜粋)

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