なぜ目標は「宇宙法」? 17歳で司法試験突破、灘・東大の異才が目指すキャリア像
17歳で司法試験に合格した仲西さん 現在は東大3年生
日本最難関の司法試験に17歳11カ月という2022年当時最年少で合格した仲西皓輝さん。灘高校(神戸市)を卒業して現在は東京大学法学部で改めて法律を学んでいる。今夏、国内外の異才が集う「孫正義育英財団」のメンバーにも選ばれた。医師になるのが夢で数学オリンピックにも挑んでいた「理系少年」はなぜ法律家を目指したのか。将来のキャリア像について仲西さんに聞いた。
数学オリンピックから興味は宇宙法に
――どうして灘中学に進学したのですか。
小学校の2年生の頃、祖父が病に倒れたのをきっかけに医師を目指すようになりました。算数や理科が得意になり、将来は東大理科3類など国公立大の医学部に進学したいと思い、灘中に入りました。そこで数学研究部に入り、数学オリンピックに参加していました。最終的に部長も務めました。
――灘中学・高校は今や8割方が理系志望ですが、何がきっかけで法律家の道を目指すことになったのですか。
社会見学で原子力発電所を訪問した際、エネルギー問題に興味を覚えました。その際、宇宙を舞台にした壮大な太陽光発電プロジェクトの存在を知ったのですが、技術的な課題を解決しても、実用化には大きな壁があることも認識しました。宇宙空間は誰のものと決まっていないので、各国が協調して法律などの様々なルールを整備する必要があるからです。その時、法律って面白そうだと思いました。
――古くから国際法は存在しますが、「宇宙法」なんてあるのですか。
一応、宇宙法と総称される宇宙基本5条約はあります。1950年代後半から米国とソ連(当時)の間で人工衛星の打ち上げ競争が始まり、60年代に宇宙条約が採択されましたが、現代の民間会社が参入する競争市場に追いつけていません。基本条約では、宇宙空間は地球人全体の共有の財産とされていますが、具体的なルール作りには至っていません。日本でも小惑星探査機「はやぶさ」が話題になりましたが、宇宙から持ち帰ってきた石などの物質の所有権は主張できるのかとか、早い者勝ちでいいのかなど様々な議論があります。再び宇宙開発が盛んになってきていますが、明確なルール、法律を定める必要が出てきています。
司法試験勉強に熱中、論理的な思考法が大事
――日本でも宇宙ごみ除去などを目指すアストロスケールなど宇宙ベンチャーが注目を集めていますが、確かにルールが整備されていないと、実際の活動には支障が出ますね。ところで、どのようにして高校生が司法試験を突破したのですか。
高1の頃、コロナ禍で休学になり、時間の余裕ができたので司法試験の勉強を始めました。別に予備校に通ったわけではなく、基本は独学です。学校が再開して、普通に数学などの課題をこなした後、3〜4時間、自宅で司法試験の勉強をし、12時頃までには就寝していました。
――司法試験の独学は至難の業と言われますが、具体的にどんな勉強をやるのですか。六法全書を丸暗記するとか、そんなことをやるのですか。
六法全書を丸暗記する必要はないですね(笑)。最低限必要な法律の知識は覚えますが、基本は条文の理解をしたり、判例を学習したりして過去問を分析して試験の準備をしました。当時の灘で法律を勉強している同級生はいなかったので、数学の解法のように仲間と競ったり、盛り上がったりすることはできません。しかし、司法試験の勉強は、ある意味で数学的というか、論理的な思考法が必要なので、面白くてはまりました。高2で予備試験に受かり、高3の5月に本試験に臨み、9月に合格通知を受け取りました。
――法曹界に早く入るなら、大学に進学せず、司法修習生になる道もあったと思いますが、なぜ東大に入ったのですが。
確かにその選択肢もありました。ただ、独学で合格したので、知識のひずみというか、ゆがみがあるのではと懸念し、学び直しが必要だと考えました。もっと教養も身につけたかったので、東大の法学部に推薦入学しました。一般入試と違い、推薦なので、一般的には専攻を決めてから受ける法学部の講義に参加しながら、教養学部の理系などの学問も学べますし、有意義な時間を過ごせました。
仲西さんは今、東大で国内外の法律の歴史を学んでいる。
オックスフォードに短期留学 法律の歴史を研究中
――現在は東大の3年生ですが、どんな法律の勉強をしていますか。
今は「信託法」にはまっています。1年の夏に英国のオックスフォード大学に1カ月間の短期留学をしました。信託制度はもともと中世の英国で生まれたそうです。当時の英国では会社の売買は禁止でしたが、信託制度を駆使して会社の売買をやるようになり、市場独占が巻き起こり、それが反トラスト法の成立につながったとか、そんな法律の成り立ち、歴史の流れを学んでいます。日本の法律はやはりドイツやフランスの影響を受けていますが、どのように法律がつくられるのか、強い関心があります。
――確かに将来、「宇宙法」制定に携わるのなら、グローバルな視点に立って法律の歴史を学ぶのは有効でしょうね。ロースクールなどへの海外留学も考えていますか。
もちろん欧米のロースクールなどへの留学は検討していますが、現時点では具体的な計画はありません。
――宇宙事業に関わる上で、卒業後はどんなキャリア形成を考えていますか。
主には2つの選択肢があると思っています。1つは国際法、宇宙法に関わる学者の道です。もう1つは大手の法律事務所に入って、宇宙関連の企業の法的な支援業務を行うことです。ただ、ファーストキャリアをどうするかはまだ決めていません。
――医師ではなく、法律家の道を選んで良かったですか。
実は自分は手先が器用ではありませんし、あまり医者向きではなかったと思います。一方で法律も奥が深くて面白い。今は自分が法律に向いているという確信がありますね。中高時代に周りが理系の人間ばかりだったからこそ、逆に文系の需要にも気づけたと思います。大学に進学して法律の様々な分野の興味がわいてきたので、今後もどんどん学んでいこうと考えています。
(聞き手は代慶達也)