10億円超の最新鋭戦車でも数万円で無力化できる…プーチンが頭を抱える「ウクライナの使い捨て兵器」の実力(プレジデントオンライン)
ウクライナの戦場で何が起きているのか。元陸上自衛官で「ヒゲの隊長」として知られる佐藤正久さんは「数億円、数十億円もする最新鋭の戦車が、数万円の使い捨てドローンによって破壊されている。前線の兵士がリュックからドローンを取り出し、弾薬を消費するように次々と放つ光景は、現代戦の新しい日常になっている」という――。(第1回)
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※本稿は、佐藤正久『日本人だけが知らない ドローンとAIの戦争論』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。■時速100キロで戦車の「隙間」を狙う ウクライナやロシアの戦場では、これまでの戦争の常識を覆すような変化が起きました。その象徴とも言えるのが小型の「FPVドローン」の爆発的な普及です。 これは操縦者が専用のゴーグルを装着し、機体のカメラが捉える映像をリアルタイムで見ながら操作するもので、まるで自分がドローンに乗って空を飛んでいるかのような視点で操作できるのが最大の特徴です。 FPVドローンの登場により、これまでの遠隔操作兵器では不可能だった、極めて精密な動きが可能になりました。例えば、時速100km以上のスピードで飛びながら、戦車の装甲が薄い後部エンジン付近や、わずか数十センチの砲塔の隙間、ハッチの開口部などを狙って突入するという、これまでの兵器では考えられなかった、ピンポイントの攻撃が行われています。 何よりの特徴は、この高度な攻撃を担っているのが、最前線で戦う歩兵たちであるという点です。 従来の大型兵器は、後方の安全な基地からエリート操縦士が操ります。しかし、今の戦場では、前線の兵士が敵の姿を確認すると、バックパックに詰め込んだドローンを取り出して、その場から飛ばすことができるのです。歩兵部隊の中に「ドローン操縦チーム」が配置され、弾薬を消費するのと同じ感覚で、ドローンが次々と放たれる光景は、現代戦の新しい日常となっています。■数万円のドローンが数億円の兵器を破壊 FPVドローンの驚異的な点はもうひとつ、その安さにあります。一台あたり数万円から十数万円程度の市販部品でできており、そこに安価な手榴弾や対戦車弾頭を括り付けます。数億円、数十億円もする最新鋭の戦車が、わずか数万円の「使い捨てドローン」によって破壊されてしまうのですから驚きです。 このように、前線の兵士が映像を見ながら目標を選定し、弱点を正確に撃ち抜くという戦い方は、単なる兵器の進化に留まりません。「前線の歩兵一人ひとりが強力な航空支援能力を手にした」ということなのです。 兵器の小型化と軽量化が進んだことで、戦い方のポイントは「破壊」から「無力化」へと激変しました。かつての兵器は巨大な爆発力で目標を根こそぎ吹き飛ばすことが重視されましたが、現在は「最小限のエネルギーで相手の機能を停止させる」という戦い方が主流となっています。 小型化の大きな利点は「隠密性」と「コストパフォーマンスの高さ」です。機体が小さく低速で、低いところを飛んでいる物体は、レーダーにとって鳥などの自然物と区別がつきにくく、探知をすり抜けて目標物の懐まで潜り込むことができます。積める爆薬の量が少ないため、広範囲を壊滅させたり、大きなものを粉々にすることはできませんが、艦船のレーダーや煙突、あるいはスクリューといった急所を的確に叩けば、敵の攻撃能力や機動力を奪うには十分です。
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■現代戦は「強い側が必ず勝つ」とは限らない 「非対称戦」とは、軍事力や経済力、技術力などが大きく異なるもの同士の戦争の形態を指します。 従来の戦争は、国家同士がほぼ同等の軍隊をぶつけ合う戦いが中心でした。これを「対称戦」と言いますが、現代ではその構図が大きく変化しています。 圧倒的な軍事力を持つ国家に対して、弱い国家や組織は正面からの戦闘を避けてゲリラ戦やテロ、サイバー攻撃、情報戦など多様な手段で対抗します。このように、戦い方そのものが不均衡である点が、「非対称」と呼ばれる理由です。 非対称戦では、戦いの舞台も大きく様変わりしています。都市部やインターネット空間が主戦場となり、兵士だけでなく民間人や社会インフラも巻き込まれるケースが増えているのです。 さらに、情報操作や心理戦によって世論に影響を与えることも、重要な戦術となっています。軍事力に劣る側が、正面の戦場を避けて社会や人々の意識そのものを攻撃対象にする。これもまた、非対称戦ならではの戦い方と言えます。 加えて、ドローンやAIの活用によって、小規模な勢力でも大きな打撃を与えることができるようになった点も、非対称性をさらに強めている要因です。 このように現代の戦争は、単純な軍事力の差だけでは測れない複雑さを持っています。強い側が必ず勝つとは限らず、弱い側が独自の戦略で対抗する戦いが、現代の非対称戦の最大の特徴なのです。----------佐藤 正久(さとう・まさひさ)ノースアジア大学客員教授福島県出身。防衛大学校卒業後、約二十五年間陸上自衛官として勤務。国連PKOゴラン高原派遣輸送隊初代隊長、イラク先遣隊長・復興業務支援隊初代隊長、第7普通科連隊長兼福知山駐屯地司令などを務める。外務副大臣、防衛大臣政務官のほか、参議院外交防衛委員長や自由民主党国防部会長、自民党外交部会長、自民党国防議員連盟事務局長などを歴任。「ヒゲの隊長」の愛称で親しまれる。前参議院議員(三期)。
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■ドローンが抱える「重さ」のジレンマ 強固な装甲に守られた戦車であっても、ハッチの隙間などを突けば、わずかな爆薬で内部に致命的なダメージを与えることも可能です。 小型で軽量なので、相手や戦況に合わせて柔軟に対応できます。また、複数を組み合わせて使うこともできます。安価かつ効率的に敵を制圧できるのが、小さな兵器の強みなのです。 一方で、機体を軽くしすぎると、積載できる弾薬や燃料、バッテリーが減り、航続距離が短くなってしまうというデメリットがあります。機体を大きく重くすれば、たくさんの弾薬や燃料を積載し遠くまで飛ぶことができますが、それでは機動性が損なわれ、敵に見つかるリスクも高まります。何を目指すかによって、重さと航続距離の折り合いをどこでつけるかがカギとなります。 実際、近年の技術進化は目覚ましく、かつては大型だった偵察機や攻撃機が、今や数百グラム程度の手のひらサイズにまで凝縮されています。これらは単なる縮小版ではなく、高度なセンサーを搭載した精密な「針」のような存在です。 力任せに押し通すのではなく、見えないところから忍び寄り、最小限の一撃で巨体を沈める。小型化・軽量化された兵器は、たいへん効率的で巧妙な道具であると言えます。■潜水艦を行動不能にした「水中ドローン」 ドローンといえば空を飛ぶ姿を思い浮かべますが、今やその技術は地上(UGV:Unmanned Ground Vehicle、無人地上車両)、水上(USV:Unmanned SurfaceVehicle、自律航行型無人船)に留まらず、ついに「水中の領域」へと行動の範囲を広げました。その象徴的な出来事が、ウクライナによる「水中ドローン」(UUV:UnmannedUndersea Vehicle)を用いたロシア軍潜水艦への攻撃の成功です。 2025年12月にウクライナ保安庁が発表した「サブ・シーベビー」による作戦は、無人兵器が潜水艦という海軍の最重要資産を無力化できることを証明しました。 わずか数千万円の水中ドローンが、約4億ドル(約620億円)もの価値があるキロ級潜水艦を行動不能に追い込んだのです。「サブ・シーベビー」の攻撃は、敵の潜水艦の急所である艦尾付近、つまり舵やスクリュープロペラを狙って行われました。これは水中ドローンが、極めて高い精度と知能を持っていることの証明です。
電波の届かない水中でも、AIが自ら判断して水上のレーダー網や水中のソナー網をくぐり抜けて急所を突く。これは“水中のミサイル基地”である高価で巨大な潜水艦が、安価な使い捨てドローンにあっけなく壊されてしまうという、衝撃的な出来事でした。戦争がコストや規模の差が通用しない「非対称戦の時代」に突入したことを意味しているのです。