「タワマン空室課税」で抑制できるのか 投資目的で購入の住民票ないマンション
タワーマンションの空室への課税の是非に関する検討が神戸市で始まった。30日に検討会の初会合が開かれたが、有識者ら7人の委員からは「課税が本当に必要なのか」など、慎重なものを含めさまざまな意見が噴出。以前からの批判も含め、論点が無数にあることが浮き彫りになった。タワマンの空室に絞った課税は実現すれば全国初だが、多くの人が納得できる制度とするには、丁寧な議論が必要となる。
「結論ありきでなく、白紙で議論を進めるべきだ」。神戸市役所で開かれた「居住と税制のあり方に関する検討会」の初会合で、会長の田中治・大阪府立大名誉教授はこう述べた。
市では1月、別の有識者会議がタワマンの空室に対する新税の創設を提言。検討会はその当否を話し合うためつくられた。今後も会合を開いて報告書をまとめ、市はそれを踏まえて新税を創設するか決める。
提言の背景には、投資目的の購入などによりタワマンの空室が増えかねないという市の現状がある。住民登録のない部屋の比率は高層階ほど高く、40階以上では3割超に達するという。
提言は、空室が増え所有者に連絡がつかないケースが多くなれば、所有者の多数決が必要な修繕や解体の合意が難しくなることを懸念。最悪の場合、「廃虚化」する恐れがあるとした。そして空室の所有者に税負担を求め、管理の費用に充当することなどを検討すべきだと訴えた。
ただ、検討会の初会合では「タワマン以外の大規模マンションへの課税も検討すべきだ」「(建て替えの要件などを緩和した)最近の法改正と突き合わせ、それでも課税が必要か検証を」など、多様な意見が出た。
神戸市役所で開かれた「居住と税制のあり方に関する検討会」の初会合=5月30日、神戸市中央区(山口暢彦撮影)田中氏は今後の会合の開催について「4、5回程度」「(今回のような会合の)期間は一般論では1年程度」としたが、議論を深めるのに十分なのか疑問が残る。
1月の提言には世論の批判も多い。「タワマン課税は拙速だ」。東京都内で複数のタワマンの部屋を賃貸している50代の会社社長の女性はこう話す。
空室の原因には、賃貸用の部屋に借り手がつかないことなどもある。
女性は、まず「住みたいマンション」にするため、ゴミ置き場の清掃などマンション管理に住民が主体的に関わることが大切と指摘。さらに「管理会社の役割が非常に重要だ」とも話す。管理組合の総会への所有者の出席率が低く、修繕を決められない事態を防ぐため、管理会社は出席を促すことなどを徹底すべきだとした。
また、住民や管理会社がしっかりしているタワマンの空室も一律で課税されれば「不満が出るだろう」とも述べ、「行政も、ずさんな管理会社にペナルティーを科すといったチェック機能を強化すべきだ」と話した。
このほか交流サイト(SNS)には、賃貸用の部屋に一時的に借り手がつかないような悪質でないケースがあり、「空室」の定義が難しいといった声も。「固定資産税に加えて課税することは二重課税になるのでは」という意見もあり、専門家は、新税が盛り込まれる条例案を市議会でしっかり議論してほしいとしている。
「長期的な街づくりの視点必要」
一方、課税に賛成の寺川政司・近畿大学准教授(都市・地域計画)は「課税の議論は、タワマンの持続可能な住宅地としてのあり方を考えるきっかけになる」と話す。
タワマンは「立体的な都市」で、空室だらけになるのは〝限界集落化〟だと指摘。防ぐためには、管理や運営に「長期的な街づくりの視点が必要だ」と話す。
街づくりは地区計画にもとづき街並みのルールなどを細かく決める。タワマンも同じくどの階にどんな施設を置くかなどを決め、良好な住環境につなげるべきだとする。
東京カンテイによると24年末現在、タワマンは全国に1561棟。人口減少が進む地方では空室が増えやすいとの見方もある。神戸市の対策はモデルケースになる可能性があるだけに、多岐にわたる慎重な検討が求められる。
空き家などへの「法定外税」、京都市など先行
神戸市が是非を検討しているタワーマンションへの課税は「法定外税」となる。地方自治体が住んでいる人に課す税金が地方税。法定外税は、地方税法に記載されておらず、自治体が条例で独自に決められる税金だ。
導入するには、自治体は法定外税を盛り込んだ条例が議会で可決された後、総務相と協議しなければならない。総務相が意見聴取などを経て同意すれば条例は施行される。住民の負担が著しく重すぎたりしない限り、総務相は同意しなければならない。
タワマン課税の先行事例となる法定外税の「空き家税」には、静岡県熱海市が1976年に導入した「別荘等所有税」がある。「別荘」「空き家」などを所有していながら人が住んでいない住宅に課され、税額は延べ床面積1平方メートル当たり650円となっている。
課税の目的は、ごみ処理といった行政コストを負担してもらうこと。課税標準(税額の算定基準)は別荘等所有税が延べ床面積、固定資産税が家屋の価格で異なっているため、市は二重課税にあたらないとしている。
一方、京都市が2029年度の導入を予定しているのが「非居住住宅利活用促進税」だ。すでに総務相は同意している。
空き家や別荘などで住んでいる実態がない住宅に課すもので、市によると、おおむね固定資産税の半額程度の負担となる場合が多いという。
課税を避けるため空き家に住む人を増やしたり、税収で空き家活用支援の施策を行ったりすることを狙っている。
神戸市は、こうした先行事例で税導入の議論がどのように進んだかを踏まえ、今後の議論にいかすことが求められる。(山口暢彦)