ロシア人、ウクライナが嘲笑するレベルのプロパガンダにうんざり

ロシアはメディア統制でウクライナ戦争に関する批判を封じ込め「何の問題もない」と装ってきたが、2025年頃から政府やメディアのプロパガンダに声を上げる国民が目立ち始め、ロシア人は国境沿いの状況について「問題ないという中途半端な報道=プロパガンダにはもううんざりしている」と訴えた。

参考:«РЕН ТВ»: «Шебекино возвращается к мирной жизни» 参考:«Мирная жизнь» по 45 дронов в сутки. Что говорит об атаках на Шебекинский округ официальная статистика? 参考:Военкор Денис Кулага забанил жителей Шебекино, не согласных с его сюжетом о «мирной жизни» 参考:Просто Михаил Шебекино 参考:Сливочный каприз

RYBARの運営者=ロシア人のミハイル・ズヴィンチュク氏はウラル愛国者フォーラムで「国防省の情報機関はチェチェンでの情報戦失敗を受けて情報独占体制を構築した」「2015年に始まったシリア内戦介入時、このアプローチは効果を発揮したが、2022年に始まった特別軍事作戦では全く機能していない」「情報ボランティア=ミルブロガーが登場して戦場の情報を迅速に伝え始めたため公式情報は信頼を失ってしまった」「公式情報はフェイクに反応し反論することが出来なかったのだ」と指摘した。

出典:RYBAR

ズヴィンチュク氏はロシア軍で情報を扱っていたプロなので「真実が重要」だとは思っておらず、Washington Postの取材に応じた際も「祖国を守る戦いに志願して関与するということは『何を話し』『何を口にすべきではないか』を理解しなければならない」「客観的な情報という単純な原則は存在しない」「客観的なメディアやブログを持っていると主張する人は嘘つきだ」「今は低質な情報が氾濫しているため人々はより馬鹿になっている」「原理的に人々を操るのは可能だ」「陰謀論が大衆を操作することを可能にした」「どんなナンセンスな話でも大きなストレスに晒されると信じてしまう」と述べたことがある。

日本では第二次世界大戦時の大本営発表を教訓にして「真実が重要だ」と考えがちだが、自国民の士気を向上もしくは維持するため、敵政府の信頼性や敵国民の士気を毀損させる情報戦において「真実かどうか」などは副次的要素に過ぎず、目的のために情報をどう加工して見せるのかが重要で、もし目的のために必要な「戦果」や「事実」がなければ真偽不明なニュースを自ら作れば良いだけで、特に戦争という極端な対立の中でどちらかの正義を信じる人々は「信じる陣営の情報戦=主張」を盲目的に信じる傾向が強い。

出典:Генеральний штаб ЗСУ

短期間ならまだしもウクライナとロシアの戦いは4年半を経過しており、SNS上でまことしやかに語られていた「ウクライナは兵士不足で前線が崩壊する」「ロシアは戦車不足で侵攻作戦を維持できなくなる」「ウクライナは街頭から動員対象者を強制的に連れ去っている」「ロシアも街頭から動員対象者を強制的に連れ去っている」「◯◯という新兵器が戦争のゲームチェンジャーになる」という話は関連した数字や事実を元にしていたとしても「ある側面から見た場合に限った話」や「元の数字や事実を大きく誇張しているだけの話」で、そうでなければウクライナとロシアの戦いはどちらかが一方的な勝利を収めて終結しているはずだ。

この4年半で一番顕著に実証されたのは「総力戦において個別の戦闘結果は戦争全体の結果を左右しない」「前線で戦力を激しく消耗しあっても敵の回復力を上回る打撃を与えられない」「どれだけ激しい長距離攻撃でも街を丸ごと灰にした第二次世界大戦レベルの火力投射量とは比較にならないほど小規模」「双方が積極的に情報戦を行うと敵政府の信頼性や敵国民の士気に決定打を与えられない」「戦いが長期化すると情報戦の効果はどんどん低下する=飽きられる」という点で、ウクライナでは軍事機密に触れない一定の範囲で報道の自由が守られているため政権や軍の批判が可能だが、ロシアでも政府やメディアのプロパガンダが馬鹿にされ始めている。

露メディアのREN TVはロシア人特派員のデニス・クラガ氏が出演した番組(シェベキノでの生活に平和が戻る)を放送し「シェベキノでは住民の日常生活が元に戻りつつあり、商店も休まず営業しており、車が通りを走り、人々は修復可能な家に戻りつつある」「レズニコヴォ包囲作戦(ハルキウ州ヴォウチャンスク地区の約300人が暮らす小さな集落)が国境沿いの街や集落に直接的な良い影響を与えている」とアピールしたが、シェベキノの住人たちはクラガ氏の報道に「二度と自分たちの街について誤った報道をするな」と反論した。

ベルゴロド州の独立系メディア=FONAR.TVも「特派員がシェベキノを訪れた瞬間的な印象ではなく、地元当局が6月1日から9月29日までに発表した公式情報をまとめるとシェベキノ地区へのドローン攻撃は確かに減少している。4ヶ月間に記録されたドローン攻撃は計5,264回、8月は1,587回で9月は1,265回だったため約12%減少(1日の平均攻撃回数)したことになるが、それでも6月の水準を超えている。さらに砲撃回数は8月よりも9月の方が激しくなっており、1日の平均攻撃回数と死傷者数も8月とほぼ変わらないため、シェベキノに平和が戻ったという言葉を裏付ける数字も兆候も存在しない」と指摘。

クラガ氏は住民の批判に「私が街での暮らしが良くなったと言っただろうか? 言っていない。私は息がしやすくなったと言ったのだ。これは事実だ。私は8月上旬から9月末まで常にシェベキノを経由して移動しなければならなかった。8月は生きるか死ぬかの過酷な状態だったが9月に向けて状況は変化していった。そう見ていたのは私だけではない。地元住民も同じことを言っていた。確かに平和な生活には程遠いが地獄は終わったのだ」と弁明したが、シェベキノの住民を「ラジオとインターネットで武装した群衆で血と騒ぎを求めている」と批判し、批判的なコメントを削除して一部の読者をブロックし始めた。

そしてREN TVは当該番組を削除し、タイトルを「シェベキノでの生活に平和が戻る」から「ロシア軍兵士がシェベキノでウクライナのドローン攻撃を撃退」に変更して再公開し、ベルゴロド州シェベキノ出身のジャスト・ミハイル氏が運営するテレグラムチャンネル(Просто Михаил Шебекино)が29日「シェベキノでの生活に平和が戻るという記事が削除された。これはシェベキノ住民の協力のおかげだ」と投稿して多くのロシア人ミルブロガーから支持されているのが興味深い。

“私たち全員がメディアの虚偽報道に憤慨し決して沈黙しなかった。とりわけミルブロガーのTwo MajorsとRYBARに感謝したい。彼らが我々を支持してくれたのは今回が初めてではない。実際の状況を伝える代わりに「踊るおばあちゃん」を映し出し、平和な日常への回帰を語る半端な報道にはもううんざりしている。特に腹立たしいのはジャーナリストが我々のことを「血と過激な話題性を求める群衆」と呼ぶことだ。我々が必要としているのは平和な生活であり、それが叶わない現状においてはせめて真実が必要なのだ”

“あの番組はウクライナメディアでさえ嘲笑するほどの見事な出来栄えだった。我々にとっては全く笑えない話だが、住民が憤慨し敵が嘲笑しているという事実こそがあの番組のレベルを物語っている。我々が現在の状況を変えることはおそらくできないだろう。きっと番組の制作者は表彰とボーナスを手にするのだろうが、我々はこのシェベキノで生き続けるのだ。それでも次回からは防弾チョッキとヘルメットに身を包み、護衛を引き連れてシェベキノを走り回り嘘を吹き込むよそ者の連中も、自分たちの番組作りにおいてもう少し慎重になるのではないかと思う”

出典:President of Ukraine

この投稿はTwo MajorsやRYBARも自身のテレグラムチャンネルで再投稿しており、ロシアはメディア統制で戦争への取り組みや対応への批判を封じ込め「ロシア国民はプーチン大統領が主導する特別軍事作戦を支持しており何の問題もない」と装い、ロシアメディアもミルブロガーも当初「これはプロパガンダで事実ではない」と知った上で支持し、ウクライナで報じられる戦争への取り組みや対応への批判を何倍にも誇張して情報戦用に武器化してきたが、戦いが長期化すると「敵を攻撃するプロパガンダでもロシア国民を欺いたり犠牲を強いるものは許せない」に変化してきた。

ウクライナの長距離攻撃が本格的に問題を引き起こし始めた2025年8月、あるロシア人(Старше Эдды)が自身のテレグラムチャンネルに「長距離兵器分野において我々より何十倍も劣る敵に破壊される石油、ガス、その他インフラの映像を海外メディアが流すという屈辱を避けたいなら行動を起こせ」と訴えて注目を集めたことがある。

“1918年末の最高傑作と比べて僅かに劣る程度のウクライナ製無人機と戦う方法は2つしかない。1つ目は現状維持、つまり燃える製油所の報道を禁止し「全て上手く行っている」と装うことだ。そうすれば法を遵守する市民は安心して眠り、製油所から立ち上る火柱を祝日の花火と思い込むだろう。なぜなら緊急事態を知らせるロシアのメッセンジャーには都合の悪い情報が一切表示されないからだ。善良な市民が問題に気づくのは実家へパンケーキを食べに行く際、ガソリンスタンドで車に給油できなくなった時だけだ”

“2つ目は前者よりも遥かに困難で費用がかかり、頭脳と意思の力、そして創造的なアプローチを必要としている。無人機の発見、追跡、破壊に従事できる者に防衛権限の一部を移譲し、必要な装備を購入するための資金を与えることだ。何度も指摘されているように問題は迎撃手段ではなく状況に対する怠慢、問題に対処しようとする積極性の欠如、もし責任の範囲で何かが起こったらという恐怖や能力不足にある”

出典:Минобороны России

“我々には持っている手段を工夫することで無人機攻撃の被害を食い止めることが可能だが、そのためには何千人もの人々を動員したり、多額の資金を投資し、多くの苦労を乗り越える必要があるだろう。さらに誰かが権限の一部を手放す必要もある。それでも見返りは苦労した分の100倍になる。製油所の価値は組織全体よりも遥かに大きく、長距離兵器分野において我々より何十倍も劣る敵に破壊される石油、ガス、その他インフラの映像を海外メディアが流すという屈辱を避けられるのだから”

この投稿もロシア人ミルブロガーの中でも影響力が大きいTwo MajorsやRYBARが自身のテレグラムチャンネルで再投稿し注目を集めたが、2026年9月時点の状況を見るとロシア当局は現状維持=燃える製油所の報道を禁止して全て上手く行っていると装うことを選択したように見え、ウクライナとの戦争も4年半を経過し「問題ない」と装う情報戦のアプローチ自体が限界を迎えているのだろう。

出典:РИА Новости

ちなみにクラガ氏が番組で言及したレズニコヴォ包囲作戦とはハルキウ州ヴォウチャンスク地区の東方向で発生しているとされる包囲網のことだが、西側メディアが引用するUkraine Control Mapを見ても、ロシア人ミルブロガーが運営するСливочный капризを見てもレズニコヴォ包囲網は存在せず、RYBARは露国営メディア=РИА Новостиの戦況マップほどではないもののレズニコヴォ包囲網を報告しているが、ウクライナ人が運営する情報分析グループ=DEEP STATEはレズニコヴォ包囲網の欠片も報告していない。

ロシア軍は前線の状況が思わしくなくなると壮大なプロパガンダや成功の前借り(覚えているだけでもクラスノホリフカ、シンキウカ、ビロホリウカ、チャシブ・ヤール、トレツク、オレクサンドロ・シュルティン、クピャンスク、ドブロピリア、ポクロウシクなど)を連発する傾向が強く、ロシア軍や露国営メディアはザポリージャ州でもオレホボ包囲網を報告しているが、こちらはUkraine Control Map、Сливочный каприз、DEEP STATE、RYBARのいずれもがオレホボ包囲網を否定している。

出典:РИА Новости

ロシア軍や露国営メディアの戦況マップによればクピャンスクは街全体が、リマンもほぼ街全体がロシア軍の占領下にあるが、Сливочный капризは2026年のロシア軍前進率=占領地域の増加率について「2025年と比べると大幅に停滞している」と報告しており、もはやロシア軍や露国営メディアが主張する戦況はファンタジーだ。

それでもファンタジーを信じるロシア国民やウクライナ人がいるなら有用で、これを根拠にSNSで大暴れしてくれる外国のロシア支持者がいるなら無駄ではないかもしれないが、プロパガンダに基づいてSNS上で罵り合う行為もすでに賞味切れに近く、情報戦のアプローチを変更するにはファンタジーを修正して「2026年の前線は上手くいかなかった」と認める必要があるため、恐らく政治的にアプローチの変更は不可能だろう。

繰り返しになるが情報戦において「真実かどうか」などは大して意味がなく、ロシアが自国民の士気を向上もしくは維持し、敵政府の信頼性や敵国民の士気を毀損させるために行う情報の加工は教科書通りなのだが、それが4年半の中で効果を失い機能しなくなっている事実に対応していないことが問題で、現在も賞味切れのアプローチにしがみついていることが大問題なのだ。

この話はプロパガンダの善悪ではなく「情報戦におけるアプローチの効果は時間経過と共に摩耗する」という戦術的な問題なので、一般論的な嘘つきが悪いという話ではない。

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※アイキャッチ画像の出典:Минобороны России

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