日本代表候補として成長。明大・秋濱悠太は早明戦敗退にも「切り替え」が大事と決意。
国内 2024.12.04
[ 向 風見也 ]
その時、ボールを触らなかった。明大ラグビー部4年の秋濱悠太副将は、ラストワンプレーを悔しそうに思い返した。
「BKのほうで、急いでしまった」
12月1日、東京・国立競技場。早大との関東大学対抗戦Aの最終節に、BK陣の一角たるアウトサイドCTBとして先発した。
総じてミスボールへの反応、運動量でチームを支え、24-27と3点差を追う格好で件の最終局面に突入していた。
逆転に近づいた最後の攻撃は、思わぬ形で終わらせてしまった。
場所は敵陣ゴール前左。自身を含めた4名で数的優位を作るも、自身のふたつ手前からひとつ左側へ飛ばしパスが渡るのを見送った。
ボールを受けた味方は、早大の内側から外側へ流れる防御にかかった。タッチラインの外へ出た。
球が浮いている間に、向こうの防御にカバーする余力を与えてしまったか。
「アタックでミスが…。焦って、早稲田のやりたいディフェンスをさせてしまった」
別の選手も、秋濱を交えて速く短いパスをひとつずつ繋ぐべきだったと後述する。24-27。今季の対抗戦2敗目を喫したこの80分は、伝統の早明戦の第100回目というメモリアルマッチでもあった。
大一番での敗戦から、どう立ち直るか。14日より参戦の大学選手権を見据え、秋濱は言った。
「どうしても早明戦に負けるとチーム全体が落ち込む可能性がありますが、主将と一緒に切り替えられるようにしたいです」
身長174センチ、体重86キロと決して大柄ではないが、深い競技理解に裏打ちされた位置取りとスキルで光る。
早大の佐藤健次主将には、戦前より警戒されていた。
出身の神奈川・桐蔭学園高の同級生で、ともに全国高校ラグビー大会で2連覇を果たした間柄の佐藤はこう断じていた。
「ひとりでも(状況を)打開できるし、周りも活かせる。彼は、友達じゃなくても一番マークするし、友達だから余計に凄さがわかる。(実際にはラグビーの構造上)特別マークはしないですけど、ある程度、しっかり見たいです」
当の本人は、その桐蔭学園高で鍛えられたという。
普段のトレーニングで「選手主体でトーク」をする文化があり、「選手同士で(味方を)怒ることも」。互いに意見をぶつけ合うために、普段からラグビーそのものやチームの戦いと向き合い、その内容を理解し、それに沿った動きをするために然るべき準備をしなければならなかった。
その日常のおかげで、進歩できた。
「自分だけではなく人のことも見なくてはいけなくて、言う分、自分のプレーに責任が生まれる」
全国の俊英が集う明大の門を叩いたのも、桐蔭学園高でプレーしていたからだ。高校の1学年上で仲のよかった石塚和己に明大を勧めてもらった。高校の関係者と進路について話したところ、実際に自分へオファーが来ていると知った。決断した。
明大では1年目から1軍に絡んだ。創部100周年を迎えた昨年度は全国準Vと、2018年度以来14度目の大学日本一に近づいた。
ラストイヤーには、新たなギフトを得た。
オフ期間にあたる2月と年度が改まっていた5月に、日本代表の候補合宿に参加した。約9年ぶりに復帰のエディー・ジョーンズヘッドコーチに、スペースの使い方を評価されたようだ。
当初はチーム活動に専念しようも考えたが、「行くからには、色々と吸収しよう」と帯同を決めた。将来は国内リーグワンで長く活躍する選手になりたいから、行った先で「どんな選手がどんな行動をするか」も知りたかった。
キャンプで感銘を受けたのは、根塚洸雅の動きだった。2022年にリーグワンの初代新人賞にも選ばれた26歳は、身長173センチ、体重82キロと小柄もコンタクトシーンでうまさがあったという。
ぶつかる瞬間にフットワークと身体を巧みに使い、迫るタックルの芯から逃れながら接点を作っていたのだ。秋濱は、細部にこだわる重要性を再確認できた。
ダン・ボーデン アシスタントコーチからは、いまのジャパンの攻撃布陣に沿ったポジショニングについて学んだ。
一般的にFWだけで編まれる複数名のユニットへ、ジョーンズ体制下のジャパンはBKの選手を混ぜ込むこともある。その塊の後ろにCTBが立つ際には、より防御との間合いを取っても好パスがもらえ、大外の走者を気持ちよく走らせることができないか…。映像を交えてボーデンから伝えられたのは、そういうことだった。
「(状況)判断について、成長できたかなと」
物事を俯瞰する視点と学習能力を真骨頂とする。卒業後は国内リーグワン1部のクラブで爪痕を残すつもりだが、まずは選手権優勝を見据える。