ノルディックウォーキングは「高齢者のスポーツ」にあらず、カロリーを消費して筋肉の鍛錬にも
ノルディックウォーキングは通常の散歩よりも多くのカロリーを消費し、下半身と上半身を鍛える/amriphoto/E+/Getty Images
(CNN) 欧州をはじめ世界各地で、トレッキングポールを手に田園地帯を歩く人たちの姿をよく見かける。市街地でも、関節への負担を和らげ、安定性を高め、身体を支えるためにポール(ウォーキングスティックやハイキングポールとも呼ばれる)を使って歩く人は少なくない。
ノルディックウォーキング用のポールを使用すれば、さらに多くの効果が得られそうだ。
例えば、ある研究によれば、ノルディックウォーキングは線維筋痛症などの慢性疾患を持つ人の痛みや疲労の軽減につながる可能性がある。
2022年のランダム化比較試験によれば、ノルディックウォーキングは冠動脈疾患患者について、高強度インターバルトレーニングや中強度から高強度の連続トレーニングよりも「機能的能力」を向上させた。機能的体力とは心臓の健康状態を予測する指標で、階段の昇降や買い物袋を持つなど日常の身体活動をこなす能力を指す。
米クーパー研究所によると、ノルディックウォーキングは通常の散歩より約20%多くのカロリーを消費する。他の推計ではカロリー消費が67%増えるとの指摘もある。これは上半身と下半身の双方を使い、全身の80~90%の筋肉を使うためだという。スイス・ローザンヌ大学でスポーツ心臓学部のディレクターを務めるアーロン・バギッシュ教授が説明した。
「ただ楽しいという理由もある」と話すのは、米バージニア州アレクサンドリア在住で、北米ノルディックウォーキング協会副会長のイワン・セミレチェンスキー氏。ロシア・ボリショイ劇場でバレエのソリストだった経験を持つセミレチェンスキー氏は、脊椎(せきつい)の問題の回復からの一環としてノルディックウォーキングを取り入れたという。現在は、同協会の会長で認定インストラクターのアルバート・ファティホフ氏とともに、健康増進や体力向上、地域社会の活性化を目指して、米国でノルディックウォーキングの普及活動を行っている。
「高齢者のスポーツだと思う人もいるが誰にでも向いている」とセミレチェンスキー氏。「とても社交的なスポーツでもあり、クラブやチームをつくることもできる」
実際、世界各地にはノルディックウォーキングの団体や大会があり、レースの距離は5キロ、10キロ、20キロが一般的だ。ファティホフさんは24年の国際ノルディックウォーキング連盟の世界選手権で複数のメダルを獲得している。
ポールがすべて
ノルディックウォーキング用のポールは、トレッキング用のポールとは異なり、手を包み込む「グローブ」が備わっている点が特徴だ。単なるストラップではなく、グローブが手のひらを包むため、ポールを握らずに支点として活用できる。
「腕や肩により多くのエネルギーを伝えられる」(バギッシュ氏)
ポールの先端はわずかに角度がついており、舗装路で使う場合のゴム製のキャップも同様に角度がついている。これは、ポールの先端が足の中央からかかと付近で地面に接し、歩くたびに後方へ押し出す必要があるためだ。一方、ハイキングポールは体の前で地面に着くため、押す方向も下向きだ。
「ノルディックウォーキングの効果を最大限に引き出すには、正しい方法で行うことが大事だ」とセミレチェンスキー氏は語った。「ハイキングでは常にポールを握り続けるが、ノルディックウォーキングではポールを後ろに押し、手を放し、また上に持ち上げて、また握る」
バギッシュ氏は、山岳でのウルトラマラソンなど難度の高い地形を行き来するアスリートから、ウォーキングやハイキングなど歩くことを楽しむ一般の運動愛好者、さらには障害などによりノルディックウォーキング用ポールの利用でより安全かつ健康的に歩行できる人など、多くの患者にノルディックウォーキングを勧めているという。
始めるのは簡単
バギッシュ氏によれば、ノルディックウォーキング用のポールを使って動くことに慣れるまでにかかる時間は5分ほどで、数週間もすれば自然で滑らかな使い方ができるようになるという。
「ほとんどの人は数回のレッスンだけで十分」とファティホフ氏も同意する。「動きをどれだけうまく調整できるか次第だが、考えすぎないで。特別なものではなく、自然な歩き方だから」
始めるには、地元で開講しているクラスか認定インストラクターによるオンライン講座を探すといいだろう。また、本物のノルディックウォーキング用ポールを買うことも重要だ。
バギッシュ氏は、医師に相談したうえで、最初は10分ほど試すことを勧める。その後、時間を徐々に延ばし、運動セッション全体を通じてポールを使って歩けるようにする。理想的には、週5日、1回30分ずつ行うのがいいだろう。痛みを感じたらすぐに中止しよう。
普段、杖を使っている場合でも心配はいらない。ノルディックウォーキングはそのような人にも適している。
「長時間のウォーキングでは、最終的には杖よりもポールを使う方がよいと感じる人が多い」とバギッシュ氏は述べ、まず理学療法士の指導を受け、短時間の監督を受けることが最善だと言い添えた。