韓国の難局、韓悳洙首相がカギ…歴代政権で重用・「行政の達人」と野党も一目
【ソウル=依田和彩】戒厳令を宣布して混乱を招いた韓国の 尹錫悦(ユンソンニョル) 大統領に代わり、 韓悳洙(ハンドクス) 首相が政権運営の主軸を担うとの見方が浮上している。堅実な行政手腕を左派政権でも発揮した経歴を持ち、難局突破の救世主になりうるとの期待からだ。
戒厳令に反対
韓悳洙首相は7日、保守系与党「国民の力」の 韓東勲(ハンドンフン) 代表と会談し、党と緊密に連携し、国民生活や経済政策に力を入れることを確認した。韓悳洙首相は3日夜の閣議で戒厳令宣布に反対したこともあり、権威が失墜した尹氏に代わって政権を担う適役と与党内で白羽の矢を立てられた可能性が高い。
7日、ソウルの国会前で尹大統領に抗議する人たち=AP韓国の首相は「大統領を補佐し、行政に関して大統領の命を受け、行政各部を統括する」(憲法86条)役割を担う。「大統領が空席になったり、事故によって職務を遂行できなくなったりした」場合に権限を代行するとの規定もある。憲法改正の発議や事実上3000以上に及ぶポストの任命など強大な権限を持つ大統領に比べると地味な存在ではある。
駐米大使
しかし韓首相は、政党色が薄く、韓国メディアで「政権が代わるたびに最高権力者が重用した『行政の達人』」(韓国日報)と評価されている。左派の地盤 全羅北道(チョルラプクト) 出身の元経済官僚でもあり、野党からも一目置かれている。
米ハーバード大大学院で経済学博士号を取得した米国通で保守の 李明博(イミョンバク) 政権では駐米大使を務め、左派の 盧武鉉(ノムヒョン) 政権では首相を務めた。
韓悳洙首相の主な経歴堅実な仕事ぶりが評価される一方、国会では、政権批判一辺倒の野党議員に対して物おじしない答弁が目立つ。11月7日に行われた2025年予算案を巡る審議で、政府の事業に 莫大(ばくだい) な予算がかかると非難した野党議員に対し、「フェイクニュースだ」と反論した。むしろ、急激な財政悪化を招いた左派の 文在寅(ムンジェイン) 前政権の5年の経済政策を「無責任だった」と言い返すなど強気な態度で向き合っている。
「責任首相制」案
4月に行われた総選挙では与党「国民の力」が大敗した責任をとるとして辞意を表明したが、現在まで首相として尹氏を支えてきた。
今後、大統領に集中した権限を委任し、首相が国政を運営できるようにする「責任首相制」をとる案も浮上している。次期大統領候補の一人、 呉世勲(オセフン) ソウル市長は6日、「国政安定のために責任首相制に転換し、非常管理内閣を構成しなければならない」とSNSに投稿した。
通信社ニュース1も7日、韓代表が、国民生活の混乱と対外的な信用度の下落を収拾するため「責任首相制」をとることを含めて検討を進めていると伝えた。
物価高に戒厳令宣布による外国為替市場でのウォン下落が重なっており、経済回復が急務だ。韓首相は7日夜、「状況を早く収拾し、国民の日常が動揺なく維持されるよう全力を尽くす」との声明を発表した。